さて、3回にわたり掲載したコンテンツマーケティング設計の手法について、最終回となる今回は、後編-1「編集方針」に引き続き、「記事公開と更新の周期」を中心に解説しよう。

前回までのおさらいとして、SEO 視点でのコンテンツ施策をまとめると、

・検索ユーザーの情報ニーズに応じたコンテンツラインナップによる対話
・ユーザーの気付きと判断または決断の材料となる情報や商材提案
・ユーザーにとって価値のある編集方針の定義と競合との差別化
・編集方針の明文化による競合との差別化
・編集方針の明文化によるスムーズな運用体制と仕組み化

となる。繰り返し述べている通り、ごく当たり前の Web サイト運営の一貫として推進すべき内容である。もちろん、HTML コーディングの論理構造や内部リンクの取り回し、検索からの入口ページとなるトビラページ(属性別記事一覧など)の設置など、SEO 施策の基本としてやるべきことは多いが、それはコンテンツマーケティングに限った施策ではない。

SEO 視点でいえば、キーワードで検索するユーザーのニーズや求める情報深度との「対話」が不可欠であるが、そのコンテンツ運用の中でも特に綿密におこなうべき運用設計は、記事を公開するタイミングと更新頻度の定義だ。

Web 解析を通し、ユーザーの検索行動心理をある程度予測しつつ対話することで、情報を公開または更新する運用設計を確立させていく。提供する情報とユーザーのモチベーション、双方の鮮度が高い状態で接点を持てる機会をより多く作り出していくことが、コンテンツ「運用」の最重要点である。ユーザーが行動する時間や日程、年間行事やシーズンを意識することで、ユーザー行動に潜むWeb回遊の物語を掴むのがポイントだ。

■運用の基本形であるシーズンに応じた特集コンテンツ

まずは、基本ともいえるのが、シーズンに対応した特集コンテンツの運用だ。皆様もよくご存知の通り、商用サイトでは頻繁にシーズン特集が組まれている。これは図1に示す通り、季節ごとに盛り上がる検索キーワードに対応するもので、SEO 施策やリスティング広告運用をおこなっていれば、一般的な考え方であろう。これらの検索モチベーションに応じたコンテンツを定期的に更新することで、SEO 施策としての目論見はもちろん、検索ユーザーのもてなしが一番の目的となる。

BtoC なら月間または四半期ごとのレジャーや生活習慣、イベント、決算期の商戦に沿った特集コンテンツ、BtoB なら半期ごとの予算獲得と次期投資を見据え、新しいシステム概念の解説記事や最新の企業戦略事例を取り上げるインタビュー企画などが考えられる。

SEO 戦略からみたコンテンツマーケティング設計の手法(後編-2:公開周期)
図1

後編-1「編集方針」でも述べているが、ポイントは「この Web サイトに来て情報をチェックする」という巡回行動の起点を定着させることにある。例えば検索エンジンのインデックス上で比較される場合、常に競合の情報網羅性との戦いになるが、自社サイトに来た検索ユーザーが特集コンテンツに満足した場合、そのコンテンツを起点に情報の比較検証を行う場合がある。つまり訪れたユーザーを自社サイト内での検索行動への誘導が実現できているか否かが KPI となる。Web 解析の平均ページビュー、滞在時間、直帰率などの指標観測やページ遷移のパス解析を密に行い、そこで目論見通りの回遊状況が観測できていれば、ひとまず成功といえる。

また、少々 Web 解析寄りの話題となるが、もしサービス利用決済率(CVR)が想定よりも低かった場合は、訪問のきっかけとなった検索キーワードとランディング(入口)ページの組み合わせごとにパス解析の比較検証を入念に行ない、ユーザー行動拡大の妨げとなっている課題点を切り出して改善を重ねていこう。

加えて、初回の訪問で成果が得られなかったとしても、再訪問のユーザーを多く獲得できている可能性もある。新規ユーザーと再訪問ユーザーの検索キーワード変化やランディングページの違い、平均ページビューとパス解析の傾向比較も、それぞれの強み弱みが可視化され、ユーザーの行動仮説検証の重要な指標となるため、検証することをおすすめする。

もし、利用決済率も再訪問率も低い場合、前編で述べたように、競合のコンテンツを入念に調査し、自社サイトの課題や情報差分を洗い出し、コンテンツテーマの根本的な改善策を立案すべきだ。

■サービス利用に至る選考期間に寄り添ったコンテンツ展開と更新

ところで、これらシーズンに応じたコンテンツ運用に取り組むからには、半期や四半期に1回のコンテンツ公開のみという状況は避けたい。もちろん、事業会社にとってコンテンツ予算の獲得は厳しいものである事実は、筆者も身をもって痛いほど体験している。しかし、コンテンツ戦略設計をおこなうからには、ユーザーとの対話のためにも何回かのコンテンツ展開に分けた長期戦略として定義し、前もって予算獲得をしておきたい。

図2
図2

具体的には、図2に示すように、商品やサービスによってユーザーの関心とニーズの発生、選考期間のタイミングが異なり、その都度求める情報も異なる。ユーザーの「欲しい!」「今必要!」という必要性や予算感に応じて、1日で利用決済をする場合もあれば1週間、1か月と悩む場合もあり、高額な商材、クルマや不動産選びなら数年に及ぶ場合もある。

ユーザーが商品購入やサービス利用前提の場合、自身の選考段階に応じて都度情報を検索収集し、必要な情報を取捨選択する。この場合、SEO 視点でのコンテンツマーケティング施策は「選び方」「スペック・サービス比較」「価格比較」「レビュー」といった情報の網羅性を担保する。

一方、SEO による行動起点のコンテンツ展開とは離れるが、そもそも商品ニーズが具体的に顕在化していないユーザー、意識はしているが行動に移せていないユーザー、特にエステや美容、英会話、資格取得などリード獲得系の Web サイトの場合、ユーザーに対して「そろそろ自分も…」と行動の起点となるタイミングを喚起するようなコンテンツ施策も必要となる。

例えば図2のように、楽しい夏を過ごすには美容面で自分磨きもしたいところだし、快適に休暇を楽しむためにクルマやレジャーグッズも手に入れたい。今のタイミングで調査を始めたら大丈夫、あるいは今ならまだ間に合う、すぐ行動に移すべきだという提案となるコンテンツを時系列にそって展開したい。これは、Web コンテンツより遥かに行動提案の歴史が深い、誌面媒体の月刊誌を参考にすると良いだろう。

BtoB の場合も、次期半期の戦略や予算獲得のために、企業の担当者が情報収集に熱心になるタイミングがある。半期ごとの連載で、最新のテクノロジー、人材論、親近感とリアリティーのある実践者インタビューをおりまぜながら成功事例を紹介し、担当者が学びと進歩、気づきを得られるような伴走の形態でコンテンツ運用ができると理想的だ。

■時間帯を意識したコンテンツの公開

続いては、比較的見た目にも効果の違いがわかりやすく、色々な Web サイトの実例で観測できる「公開時間」に関するコンテンツ運用設計をみていこう。例えば皆さんもよく読まれるであろう、大手メディアサイトのコンテンツの公開または情報更新タイミングと、そこに設置されたソーシャルボタン、Twitter の「ツイート」の数や Facebook の「いいね!」の数を時間経過とともに照らし合わせれば、図3のようにユーザーの目に止まりやすい、おおよその時間帯が想定できる。

図3
図3

これはメディアサイトだけではなく、一般の商用サイトにも見られる傾向で、Web 解析を密におこなっていれば、ページビュー数の増加を迎える反応時間に波があることにお気付きの方も多いだろう。

仮に Web 回遊で積極的に情報収集をするユーザー層を一般的な内勤の会社員と想定すると、通勤や帰宅時間のニュースチェック、お昼休みや仕事が一段落した時にオフィスの PC で気になる情報の検索調査行動など、時間帯によって閲覧されるページの種類や商品、流入元となるページと流入経路にはそれなりに差がある。

図4)
図4

特に、自社で取り扱う商材や業界にまつわるコラム系のコンテンツを公開する場合、図4のように通勤時の暇つぶしでニュースチェックをするユーザーや、本格的な業務稼働に入るまで Web を巡回するユーザーの目にとまるよう、朝の早い時間帯に公開をしておきたい。これは少々検索ユーザーの行動起点と離れるが、スマートデバイス上での Web 回遊やソーシャルメディアのチェック、アプリなどを経由して朝に閲覧されたコンテンツに対し、「面白かった」という反響が Twitter の「ツイート」伝播や Facebook の「いいね!」のかたちで、後続の情報収集ユーザーに拡散していく。

例えば、BtoB サイトのコラムでは、週の初めでなかなか業務に集中できず、ついつい情報収集検索や Web 回遊をしてしまうユーザー(と思われる)層によって、昼休みの終わりごろまでソーシャルメディアの言及やキュレーションメディアの「まとめ」によって拡散を続ける、という行動仮説が Web 解析によって導き出せるケースも多い。

これらの例は、積極的にソーシャルメディアに引用投稿をおこなっている方なら、自身の投稿に対する反応で、すでにお気付きかも知れない。自身の手がける業務でのコンテンツ運用も、いかに引用伝播されやすい状況を作り出せるかを意識し、コンテンツ公開時間を運用設計にしっかりと組み込み、コントロールしたい。

■商品や情報の公開時期を意識した更新サイクル

次は、一般的な商用サイトでは難易度が高いが、大手メディアサイトによく見られる例として、新しい商品やサービスのリリース時期または情報公開の時期を加味し、コンテンツ公開タイミングを制御した運用を紹介したい。以下は、情報取り扱い難易度の観点(後述する)で、実際のコンテンツ運用に組み込むには手間がかかり、身近とはいえない運用だが、筆者も実際に運用者として手がけて成果を得た例であり、あくまでコンテンツ更新タイミングの考え方として捉えていただきたい。

図5の例は、事前に察知している、あるいはウワサになっている話題の新製品やサービスのリリース前に、「予想」記事として取り上げておき、メーカーやサービスベンダーからの正式発表の段階で公式リリースを引用した本番記事として「更新」するという運用である。その後の更新記事も、最初に公開したページを「扉」(リンク取り回しにおける論理構造上の特集ディレクトリ TOP)として、その後も配下に記事を追加し続けるという運用だ。

図5
図5

技術変化の早い SEO の話題で過去の話をして恐縮だが、筆者はかつてこの運用で CMS を制御し、(新型商品の事前予測が派手に飛び交う業界の)人気の高い新型商品の関連検索で、検索結果の上位表示を安定的にかつ長期に渡って獲得できていた時期があった。

やがて、公式リリースの後は、検索市場における新型商品名の検索クエリ数が急激な伸びを見せる。競合サイトも一斉にコンテンツを公開更新するため、検索エンジンの評価最適化が急速に進み、インデックス状況も短期間に激しく変化する。そのタイミングにあわせ、事前の検索結果上位表示を「競合が少ないうちに」獲得すべく、より早い段階でユーザーの情報ニーズに則した論理的なリンク構造のディレクトリを担保し、リリース初動時の検索ニーズと安定的な上位表示を狙うのが、この運用のポイントである。

だが、この運用の難易度が高い所以は、リリース元となるメーカーやサービスベンダーから新商品の事前情報を入手できるのは、大規模な EC サイトやメディアサイト、記事広告の掲載を求められている商用サイト(もしくはアフィリエイター)といった、一部の Web サイトのみであること。そして最大の課題は、事前情報には必ず「解禁日」が設けられているということ。リリース元に無断で予想記事を作るわけにもいかず、また急に話を持ちかけても断られる可能性が高い。事前のプロモーション目的として理解を得られるよう、リリース元の広報担当者と入念な折衝が必要となる。

だからこその「予想」記事となる。詭弁に近いが、Web 上で飛び交うウワサ話に歩調を合わせて、個人の希望的観測に近い内容の記事で凌ぐ手もある(それでもリリース元広報への確認は必要なケースがある)。Apple 社や Microsoft 社のように恒例のイベントで発表となる商品群、毎年行われるカンファレンスや業界見本市で定期的にリリースされる商品群は、多くのユーザーが「一定の周期や期間」に熱い期待の眼差しで検索しながら、商品情報チェックをしている。スマートフォンケースなどデジタル関連商品を扱う EC サイトであれば、旬の検索ニーズを捉える上でも(個人が把握できる情報の範囲で)予想記事に取り組んでみても良いだろう。

■普遍的な情報を定期的に発信する

さて、先述の「公開時間」でも触れた内容であるが、ソーシャルメディアをご活用の方々は、繋がっているご友人が定期的にホワイトペーパーや調査白書を引用されている機会に触れている方も多いはずだ。オンラインマーケティング系の人脈では特に盛んな印象がある。数値的根拠の伴ったコンテンツは、(数値に出典元企業の色合いが出るものの)客観的指標として非常に引用伝播されやすいという特性を持っている(図6)。

図6
図6

これらのコンテンツをリリースしている企業またはブランドは、市場の活性化や成長を願った社会貢献のほか、ブランディングやユーザーの「そういえばあの Web サイト」という純粋想起の効果も狙って公開している。キーワード検索による調査資料のニーズへの対応力はもちろん、リリースが各方面で取り上げられ伝播することで、その市場や業界の中での経験・知見や調査能力、特に規模が大きな調査になると掌握している市場規模を暗に示すことができ、競合とのブランド差別化の上でも効果が狙える。

この調査コンテンツ運用もまた、「更新性」と「更新時期」が非常に重要になってくる。ユーザーが得られた知見による体験は、次の必要性を感じたとき「そういえばあのリリースを出している Web サイト」という定期的な巡回意識を芽生えさせ、直接の訪問を誘引する。システム開発などBtoBサイトの場合は、調査コンテンツがユーザーの業務で提案資料などに活用され、やがては大型案件の問い合わせを受けるきっかけづくりにもなる。

BtoB サイトだけではなく BtoC サイトも同様で、売り上げランキングやユーザーの意識調査のコンテンツを定期的に公開することで、ユーザー購入やサービス利用に至る判断材料を提供し、比較サイトや口コミサイトで引用され伝播していく可能性も広がる。理論的な数値が求められるがゆえに、調査に手間がかかるコンテンツであるが、自社サイトで収集できる情報を元にして制作する運用体制を作れば、比較的取り組みやすいテーマでもある。

■利用サービスを選考する期間とWeb回遊周期に合わせ広告と連携

最後に、SEO の話題とは離れるが、手間をかけたコンテンツリソースの活用拡大について触れたい。先述の通り、商品やサービスのニーズがユーザーに発生してから利用に至るまで、さまざまな期間と選考段階がある。ユーザー個々の事情による一定期間の情報収集の後に、サービス利用決済の決断をする。

図7
図7

図7のように、ユーザーは一定の期間中に、一定の訪問周期(利用日の間隔)で、一定の訪問回数を重ねる。ある Web サイトでは、新規利用のユーザーは2〜3日の間に4〜5訪問を重ね、既存ユーザー(リピーター)は7〜8日、14〜15日、21〜22日の週間周期で週次1〜2訪問を重ねる傾向が見られた。別のWebサイトでは訪問日間隔や周期はバラバラでユーザーごとに違うものの、訪問時間帯が朝型、昼型、夜型と分かれ、自然検索とリスティング広告、ディスプレイ広告、アドネットワークと、Web サイトの流入経路ごとに訪問時間の特徴の違いが見られた。この期間中、図8のようにユーザーは自社サイトだけではなく、メディアサイトや競合サイトも巡回している。

図8
図8

コンテンツ施策による SEO がきっかけで訪問を獲得したとして、もちろんそのユーザーが自社でサービス利用決済をしてもらえる状態がベストだが、特に検索エンジンを起点とした情報収集をするユーザーの場合、競合サイトでも同時に情報を取得し吟味している。場合によっては、判断材料は自社サイトから、決断と決済は競合サイトで、というケースも考えられる。これは純広告やオーディエンスターゲティング広告の運用をおこなっている場合、広告レポート数値と訪問履歴の間接効果から、仮説として見えてくる。訪問を重ねるたびにきっかけとなっている検索キーワードが変化し、サイト内回遊の状況も変化しているためだ。

本稿は SEO 視点のコンテンツマーケティングというテーマのため、広告運用については別稿に譲るが、せっかく予算と手間をかけてコンテンツ運用をおこなうからには、その効果を最大限に活かすべく、リターゲティング広告の運用は最低限おこなっておきたい。図8にも記載しているが、コンテンツによって出会ったユーザーを広告によって自社サイトに引き戻し、サービス選考シナリオの続きを見せる、新着・更新情報を訴える、商品ページに誘導する、などなど、さまざまなリターゲティング広告運用が考えられる。逆に、広告のランディングページとしてコンテンツ運用側に送客し、ブランドや純粋想起を育成するというプロモーション的なプランニングもある。

図9
図9

とはいえ、広告運用担当者にしてみれば、CPA や最終的な成果獲得コストの面で相当に難色を示すかも知れない。しかし、今後の運用知見を収集する R&D の観点で Web 解析担当者がハブとなり、コンテンツマ―ケティングとターゲティング広告の運用テクノロジーを連携させ、図9のように(おおよその)ユーザー回遊周期をトレースするような形で、ユーザーのシナリオに寄り添いたいところだ。

■ユーザーとともに歩み対話する施策がコンテンツマーケティングの姿

以上、3回にわたって SEO 戦略観点のコンテンツマーケティングについて述べたが、結局のところ、検索による Web サイト認知とブランディングという、ユーザーの情報収集行動の起点を獲得するために、検索キーワードモチベーションの最適化をおこなうという面が特徴的であるほかは、(繰り返しになるが)一般的な Web サイト運営に求められる PDCA サイクルそのものである。

しかし、コンテンツラインナップの強化は、ユーザーがさまざまなニーズで検索を繰り返す中で再訪問の機会を多く獲得できる、ユーザーがノックできる「扉」の数が自社サイトの中で増え続けるという観点において、SEO をおこなう上で必ず必要となるものだ(図10)。

図10
図10

広告の運用が効率化すればするほど、広告で成果を獲得できるユーザーセグメントも固定化されるため、新規層の潜在的なユーザーに対するブランド認知と育成の役割は、必然的にコンテンツが担う比重が大きくなる。

検索アルゴリズムの評価がコンテンツ寄りに変化しているからコンテンツマーケティングをおこなうのではなく、ユーザーが検索で繰り返し訪問しやすい「扉」を増やし、Web サイトのブランドを通して対話する機会を数多く作るという観点で、積極的にコンテンツマーケティングに取り組んでみていただきたい。

執筆:株式会社アイレップ
記事提供:アイレップ