■ユーザーの回遊に寄り添った自社サイトのあり方

前編では、自社業態のオンライン市場におけるユーザーの回遊行動を想定、または分析で可視化し、その中で自社サイトがユーザーにとって「どのようなサイトなのか」立ち位置を定める必要性を説いた。それによりユーザーの目にとまり、回遊動線に組み込まれるような価値づくりをしていこうという話を述べた(図1)。

ユーザーの回遊を想定した集客施策のプランニング(中編)
(図1)

自社業態のオンライン市場の中で上位に君臨する競合サイトは、ユーザーにとって馴染みの深い、誰もが知る Web サイトブランドだろう。だが、大規模なオンライン施策の予算を持ち、繁忙期の CM 投下や広いプロモーション展開ができる彼らと、真っ向から正面で戦う必要はない。自社サイトが向き合うべき相手は、あくまでも自社業態のオンライン市場に存在するユーザーである。自社のサイトが「誰の」「何に」「どう伝わって」「(ユーザーが)どういう状態になるためのものなのか」という施策の方針を定義し、市場内での立ち位置を確立することが不可欠だ。

(図2)
(図2)

自社サイトの「あり方」の定義は、そのまま競合との差別化ポイントとなる。その差別化はユーザーにとって「訪問に値するサイト」という価値を創り出すことができる。競合サイトではなく、自社サイトに価値があることを見出してもらえるよう、「ユーザーと対話する」Web サイト運営を心がけたい。

今回は、これらユーザーの回遊行動に合わせた、施策のプランニングについて考えてみよう。

■成果獲得に貢献する集客施策の偏り

予算の大小に関わらず、大半の商用サイトでオンライン広告による集客、特に検索連動型の広告運用が活発におこなわれている。プロモーション施策などを除けば、その目的は見込顧客のユーザー情報の獲得や、売上など利益の獲得を目指したものだろう。でなければ事業部として予算を獲得する論拠が成立しない。事業も企業も利益(直接成果だけとは限らない)が出ない施策に予算は出さない。

だが、投資対効果を追求するが故に、成果獲得に特化したオンライン広告の運用が進行すると、やがて自社サービスを利用する気があるユーザーに対してのみ、施策が深耕されてしまう現象が起こる場合がある。

(図3)
(図3)

Web サイトの市場での位置づけが、広く認知されている業界トップクラスのブランド、あるいはキーワード検索結果の表示順位も常に上位という状態ならば、「まずはここで商品やサービス、情報を知ろう、調べよう」というユーザーも多く訪問する。ユーザーのキーワード検索でも、サービス調査の足がかりとして、まずは著名なサイトブランド名が指名検索される機会が多くなる。

だが、そのような規模のサイトは市場の中でも限られた存在である。自社サイトのブランド認知が市場で弱い場合、広告運用による成果獲得の内訳は、もともと自社のブランドへの理解や親和性を持っていて利用を決めている限られたユーザー、あるいは「そこに在庫があるから利用した」だけのユーザーなど、サービス利用を結果的に「決めた」ユーザーが中心となる場合が多い(図4)。
 
(図4)
(図4)

また、集客経路の内訳では、ブランド指名のキーワード検索による訪問の割合が大きくなるものの、その絶対数は市場規模から見ると小さめで、逆に自社サイトのブランドを理解した人だけの限定的な集客と言える状態だ。

もちろん、自社サービスを知っているユーザーや、商品在庫そのものが集客効果を支えている状態でも、収益性が確保されているのならばまったく問題はない。とはいえ、事業とは成長が求められるものだ。ユーザーが消費に至るまでのストーリーの中で、終盤戦といえる消費を「決めた」ユーザーだけを対象としていると、成長の伸びしろを新たに獲得するためには、現実的とはいえない予算規模が必要になる。

page ■ユーザーの求める情報深度とブランド認知のチャンス

図5のように、ユーザーがサービス利用に至るまでの調査や回遊には、それぞれ情報を求めるモチベーションに深度がある。消費を「決めた」ユーザー、検索連動型広告で言うと商品やサービスを指名したキーワード検索による流入は、もちろん成果獲得効率も高い。一方で競合との争いが厳しい領域でもある。

(図5)
(図5)

しかし、商品やサービスを探してはいるものの決断できておらず、情報を収集中というユーザー層を集客の対象とした場合、サービス選考段階の早期に自社ブランドの認知と成果を獲得できる余地を確保することができる。サービス選考段階のユーザーの疑問に答え、丁寧に接することができれば、ユーザーの信用と信頼からの再訪問を誘引するブランディングも深堀される。

広告による訴求内容とランディングページを工夫し、ユーザーの信頼を得られるよう、商材への理解を促進するコンテンツを配置すれば、競合が対策をしていない領域を勝ち取ることができる可能性も広がり、結果的に競合差別化のポイントにもなりえる。

■起点と終点と中間のシナリオ

さて、成果獲得に特化した運用を、ユーザーの消費行動が決定した終点間際と位置づけた場合、ユーザーはその前のサービス選定段階で、どのような行動をとっているのだろうか。

まず図6のように、商材やサービス名+疑問・質問に関する掛けあわせキーワードで検索したり、比較サイトを参照したりといった行動が考えられる。あるいはブランド想起力を持つ広く認知されたサイト、自分の成功体験を持つサイト群へ向かうと思われる。

(図6)
(図6)

また、ユーザーが情報の吟味を行う中で、それらの Web サイトの情報に満足せず、自分のサービス選びに不満があれば、さらに情報を求め他の Web サイトへと回遊する。

これらユーザーの回遊に焦点を合わせてコミュニケーションをとり、集客の入り口を開拓するために、

「ユーザーに想起されるブランドづくり」(起点)
「ユーザーが必要としている情報を網羅したサイト作り」(中間)
「成功体験を提供できるサイト作り」(終点)

の3つの施策要素に分けてみよう。

実際には、「想起されるブランドづくり」は一部の強大なブランド力を持つ競合サイトが寡占化しているケースが多いため、「ユーザーが必要としている情報を網羅したサイト作り」と「成功体験を提供できるサイト作り」から、ブランド認知を獲得していくことになる。

page ■ユーザーの回遊を面で捉え自社サイトブランドの認知と想起を獲得

これらの実現のためには、図7の例(EC サイトの場合)のようなコンテンツラインナップの整備が欠かせない。ユーザーの情報ニーズやモチベーションの深さに応じて受け応えができる、適切なコンテンツの配置を推奨したい。

(図7)
(図7)

SEO 戦略からみたコンテンツマーケティング設計の手法」で詳しく述べているように、そもそも SEO 施策という以前に、自社サイトに訪れたユーザーとの対話を考えると、コンテンツの存在は欠かせない。すべてをラインナップする必要はないが、少なくとも Web 解析によって自社サイトに訪問するユーザーの特性を理解し、適切な情報による「もてなし」を担保する必要がある。

(図8)
(図8)

また、ユーザーのモチベーションに応じた適切なコンテンツの配置は広告のランディングページとしても有効だ。図6と図7の要素を整理し、検索連動型広告のキーワード選定やディスプレイ広告の訴求セグメントを分けて考えてみよう。ユーザーの回誘導線を意識して図8のように施策を配分し、ユーザー回遊上での接点を増やすことで、自社サイトブランドの認知と想起を醸成する運用をおこないたい。

(図9)
(図9)


そして図9のように、ユーザーの求める情報深度ごとに訴求要素を定め、コンテンツによる自然検索による訪問の受け皿づくりと、適切な広告のランディングページの設計をおこなおう。情報の網羅性と、スムーズに情報を探求できるサイトの使いやすさが整備されていれば、ユーザーの再訪問のきっかけとなる想起と、競合と差別化された自社サイトブランドの認知が育成される。

また、再訪問を積極的に獲得するためのリターゲティング広告やターゲティング広告も、このコンテンツラインナップが自社サイト内でのユーザーシナリオの継続に重要な役割を果たす。詳しくは後編で述べたい。

■ユーザーとのコミュニケーション接点を点ではなく面で捉える

オウンドメディアによる集客施策も、広告による集客施策も、端的な点の成果で捉えるのはたやすい。しかし、真の費用対効果の証明は直接的な成果だけでは難しい。決済者への報告の仕方によっては、より終点に近いユーザーだけに特化した成果獲得効率の良い施策にしか予算が獲得できなくなってしまう。

自社サイトの Web 解析による KPI 設計とモニタリング体制をしっかりと運用に組み込み、ユーザーに「最後はこのサイトで決済する」と思ってもらえるような面で接するコミュニケーションづくりを実現すべく、すべての施策を連携させて数値を可視化し、施策全体で捉えられように推進したい。
 
(図10)
(図10)

■ユーザーが自社サイトを回遊に組み込む価値づくり

強大なブランド力を持つ競合サイトが存在する市場の中で、自社サイトブランドの醸成は施策の難易度も高く、膨大な工数と予算を必要とする。その厳しい状況の中で自社サイトの認知を獲得していくには、市場における自社サイトの位置づけがユーザーに対して明確化されることだ。

ユーザーが強大なブランド力を持つ Web サイト以外に自社サイトに訪れる理由、それはユーザー自身にとってそこにしかない情報やサービス(が、あるかもしれないという期待値)、コンテンツラインナップや快適なユーザビリティーによる「もてなし」があるからに他ならない。それが先述の競合サイトとの差別化であり、ユーザーにとって再訪問すべきサイトブランドの価値でもある。

次回の後編では、ユーザーの回遊を更にトレースし、積極的にコミュニケーション接点を確保するコンテンツの更新性の確保とターゲティング広告について触れてみたい。

執筆:株式会社アイレップ 嘱託 デジタルマーケティングプランナー 床尾一法
記事提供:アイレップ