前編に続き、SEO 視点でのコンテンツマーケティング設計、特に長期間におけるユーザーとのコミュニケーションシナリオ視点について解説するが、大きく分けて(1)「コンテンツの編集方針」と(2)「コンテンツの公開・更新周期」について、2つのテーマがあるため、後編を2回に分けて連載する。

さて、前編でも解説した通り、検索エンジンの評価においてコンテンツの品質が重要視される中で、「コンテンツマーケティング」という言葉が、やや大仰に受け止められていることもある。

しかし、実態は「極めて当たり前の Web サイト運営」の一部であり、たとえ運営サイドに SEO 施策を推進したいというトリガーがなくとも、コンテンツ施策が推進されている状態を作るべきだ。なぜなら、それが自社のサービスに対するユーザーの信頼と利用を勝ち取る上で、極めて重要な要素であるからだ。

SEO 戦略からみたコンテンツマーケティング設計の手法(後編-1:編集方針)
(図1)

図1に示す通り、ユーザーは検索サイト、ニュースメディアサイトやキュレーションメディアサイト、そして自社サービスの競合となるサイトを常に回遊している。また、スマートデバイスからの訪問が半数以上というサイトも増える中、ニュースやコンテンツをキュレーションするモバイルアプリも、ユーザー行動の起点「喚起」において主導権を握っているといえる。

その中で、SEO 戦略からみたコンテンツマーケティングのポイントは、これらユーザー回遊行動の一角である「キーワードで検索する」という行為が行われた際に、そのユーザーと接触するチャンスを逃さないコンテンツ体系を構築できているか、ユーザーとのコミュニケーション接点を幅広く確保できているのか、という点にある。

前編では、商品やサービスの必要性が顕在化した検索ユーザーに対応するコンテンツ施策を中心に解説したが、後編2回の連載では、ユーザーのネット回遊行動から自社サイトのサービス利用へと誘引する、より広い情報収集段階での検索ユーザーを対象としたコンテンツ設計について解説していく。

■検索を起点としたユーザーの求める情報深度に合わせたサイト作り

前編で述べたような、ニーズが顕在化したユーザーにフォーカスしたコンテンツ施策の場合、その運用結果を Web 解析ツールで検索訪問キーワードのデータで見てみると、求める商品やサービス名の検索による比較検討材料の情報収集と思われる検索キーワード、在庫や価格の調査と思われる検索キーワード、不動産・求人情報・店舗情報の場合は地名や行政区分を掛けあわせた検索キーワードによるものなど、概ね「検索対象」+「利用や実行に移すための判断基準や利用したいサービスの状況」となる情報を求める傾向が、検索キーワードに見られるはずである。

一方、ニーズの顕在化する一歩手前、日々の情報収集のためアクティブに活動する検索ユーザーや、課題や悩みを抱えたユーザーの検索行動については、興味関心の高いジャンルのニュースや業界動向、健康や美容の悩み、資金の悩み、転職に対する悩み、不動産の選び方、クルマの選び方、デートでのお店選びなどなど、ユーザーが気になっているテーマに対する解答を探すような検索傾向が想定される。

とはいえ、このようなニーズが顕在化する以前のユーザーに向けたコンテンツ施策の運用では、ユーザー自身に商材ニーズが明確に発生していないため、直接的な成果を得る絶対数が他の施策に比較すると非常に少ない。となると、コンテンツ運用の予算の承認を得る上でも、また効果測定による投資対効果の運用結果報告の点でも、なかなか勇気のいる工数の投資でもある。

しかし、特別に予算を割いてでも顕在化以前のユーザー層にコンテンツでアプローチすべき理由は明白である。商材比較や利用の決断に向けた情報収集活動中で、ゴール間際のユーザーばかりを意識したコンテンツでユーザーを集めても、結局は利用の際に競合との比較検索と戦わなければならないという課題があるからだ。結果的に、ユーザーによるサイトブランド認知の幅を狭めてしまう。

図2
(図2)

さらには、課題解決コンテンツの場合、対象となるユーザーの消費目的がまだ定まっていないがゆえに、潜在的な需要母数も大きく、コンテンツによるモチベーションのホット化が成功すると、運営側からの商材提案(レコメンド)を受け入れる可能性も高い。

顕在化以前のユーザーに向けたコンテンツ展開は、「新規(潜在)顧客の扉」としての役割を担うという重要な役割がある。図2に示すように、ユーザーの求めるさまざまな情報深度の階層ごとに、キーワード検索による訪問を勝ち取るコンテンツ(だけではなく、サイト内を回遊したくなる UI やディレクトリ構成の改善)をバランスよく最適に配置しておきたい。

SEO 観点でのサイト成長過程では、競合との直接成果に近い検索キーワードの獲得合戦が待っている。そのため、集客の基礎体力育成を目的として、直接成果を生まないであろうコンテンツであっても、検索ユーザーのニーズに合った幅広いコンテンツラインナップを確保し、競合に先んじた新しい顧客層の獲得を目的とするコンテンツ運用サイクルを構築していく必要がある。

■ネットを回遊しつつ繰り返し訪問するユーザーを意識する

ところで、「ご当地グルメ」「不動産」「XX 通販」など、比較的大きな括り(あまり絞り込まれていないポピュラーな単語)のキーワード検索で情報探索するユーザーが、初の訪問でサイトトップページに訪れた場合、ユーザーがサイトブランドを十分に認知していなければ、直帰してしまうケースが多くなる。

しかし、トップページで接点を持った新規ユーザーに対し、ユーザーにとって価値が高いであろう情報を網羅した各コンテンツへの導線、それらコンテンツを集約した総合トップへの導線、そのサイトの丁寧な利用方法を解説したコンテンツへの導線などがあると、直帰せずに、そのまま深い階層へとサイト内の回遊を続けてくれる可能性が高まる。

図3
(図3)

やがて、それらのユーザー層がネットの回遊で情報を仕入れ、商材へのニーズが顕在化し、「XXとYY 比較」「XX 東京 価格」「XX 評判」といった、より目的が絞りこまれたキーワード検索で再度の訪問をする可能性も高い。その際に、ユーザーの検索モチベーションに応じた情報のコンテンツでもてなし、ユーザーの「やはりここのサイトが一番わかりやすい!」「選びやすい!」「参考になった!」という、ユーザーの信頼を通じたサイトブランドの認知を勝ち取るのも、コンテンツ運用が実現すべき重要な役割である。

このサイトはあなた(ユーザー)にとってどのような価値を提供できるサイトなのか? 図3のように、初回の訪問から最終的なサービス利用の決断に至るユーザーの思考プロセスを意識し、それぞれのコンテンツを展開する際にメッセージの効果や役割をしっかりと定義する。そして、競合と比較を繰り返したユーザーによる再訪問の末、最終的に自サイトで決断を迫れるような、決断の背中押しが機能するコンテンツ効果が得られる状態がベストだ。

長期で見れば(予算が許されれば、だが)、ユーザーの情報ニーズの階層に応じたコンテンツ配置の充実は、やがて商品やサービスを名指しした再度の訪問で成果を勝ち取り、間接的な成果貢献を生み出すことになる。この間接効果の証明に関しては、Web 解析に関する記事「コンテンツ施策の貢献を証明する KPI 設計」を参考にしていただきたい。

■コンテンツ軸の設計と編集方針を定める

それでは実際の運用経験をもとに、コンテンツマーケティング設計のポイントを解説しよう。筆者は過去に3つのメディアサイトの運営に携わっていたが、そのうち1サイトは運営会社の主要サービス(高額商材を扱う流通業)の直接成果を狙ったものではなく、間接効果を生むブランディングのためのメディアサイト運営であった。そのサイトではウラの編集長としてコンテンツ設計を制御しつつ、週次の公開記事マップを通年で作成し、週次15〜20本の記事、月次で100本程度の記事を量産し公開していた。

具体的な例で挙げると、業界で新型商品のメーカー公式プレスリリースが出た際に、急激に高まる新型商品名の検索クエリに対応させるべく、サイトの論理ディレクトリ(サイト内リンク構造)を動的に可変させる独自開発の CMS(コンテンツマネジメントシステム)を活用し、事前に備えたコンテンツの仕込みを最大限に活かすことで、常に検索結果上位表示を獲得できていた。

ちなみに、こういった量産型のコンテンツマーケティング運営に特殊な CMS や特別なインフラの導入を意識する必要など無い。WordPress をはじめとした高機能で気軽に導入できるブログ感覚の CMS がたくさんあり、活用方法を集約したナレッジサイトも豊富にある。また、シンプルにブログサービスを利用して商用サイトと導線をつなげるだけでも、十分に量産型のコンテンツマーケティング運用は展開できる。

図4
(図4)

そのコンテンツ運用では、闇雲に CMS で月次100本近くもの記事を公開していた訳ではない。運用設計の最初に、図4の例に示すような(※ただし実際の運用事例とは商材が異なる)編集部としてのコンテンツ方針を定義し、「どのようなユーザーの」「どのようなニーズに対し」「どのような切り口で」コンテンツを量産するかを定めた。

また、前編で述べたとおり、競合サイトがどのような情報を網羅しているかを調査する。戦略上外せない検索クエリ規模の大きなキーワード対策のコンテンツでは、常に検索結果上位表示を獲得している競合サイトと、テーマや切り口の面で真っ向勝負になるが、同時に競合が押さえていない領域でもコンテンツの網羅性を高める。競合が弱いと想定される検索モチベーションの領域を定義し対策することで、コンテンツの情報網羅をもって検索市場で戦える「強み」を作り上げるのだ。

図4の例で方針を解説すると、(取材予算は必要だが)プロフェッショナルな視点かつ客観的な情報で検索ユーザーのニーズと信頼を勝ち取っていこう、という方針になる。つまり権威と知見のある人物なり編集部なりの論点を定め、客観的な視点の記事を網羅することで、ユーザーにとって評価基準の座標軸ゼロを持つサイトの位置づけを勝ち取ろうというものだ。(※あくまで例で示したものであり、実際のコンテンツ運用方針とは異なる。)

■検索ユーザーの共感と信頼に応えるコンテンツ運用の仕組みづくり

図4のような編集方針を定めると、コンテンツの設計がフォーマット化され、運営サイドによるコンテンツ更新内容の論議や吟味にかかる時間も短縮し、制作運用の工数そのものの効率化に寄与する。すると量産体制が整い、品質の高いコンテンツを一定の周期生み出す仕組みが出来上がるとともに、最適な検索結果表示順位を複数のコンテンツ軸で勝ち取るための新規施策に取り組む余力も作りやすい。

実例を見ると、有名な家電量販店サイトでもプロフェッショナル視点のレビュー記事が定期的な更新サイクルで展開されており、他にもデジタルガジェットショップの店長ブログなど、同様のコンテンツマーケティングは以前からすでに盛んに行われている。

図5
(図5)

コンテンツの編集方針と運用の仕組みがある程度定義されているサイトのコンテンツをつぶさに観察してみると、各記事による興味喚起から購買意欲を掻き立てるまでの作りが非常に巧みであることに気づく。リッチな例では、プロのライターやカメラマンを起用して高品質な商品紹介記事を定期的に公開し、その商材を持つ喜びのイマジネーションを駆り立てている。身近な例では、店長や社員が等身大のテキストで書き、親近感のある読者目線で話題の新商品を紹介する記事や、試用レポートのブログ更新を盛んに行っている事例もたくさんある。

また、それらの記事が掲示板や SNS で伝播し、継続的に話題になることもある。明確なコンテンツの編集方針と定期的な更新性はユーザーの巡回訪問を生み、そこからユーザーの共感を得た際に獲得する「気付き」と「情報への信頼」は、「記事の引用」という形で自然発生的な被リンクの発生をさせる原動力となる。

図4で示した編集方針をもとに、図5のような役割と狙いの定義を明確化させれば、コンテンツ運用の現場側がプロのライターでなくとも施策運用への理解が進み、テキストライティングのルールとコツを掴むと品質も向上する。実際、筆者が運用していた際は、CMS を用いていたということもあり、運用の大半がライティング経験のないメンバーによるものであった。さすがに運用当初は拙いライティングで、編集長によるチェックの負荷が高かったが、運用が進行するとコンテンツを通じたユーザーとの対話が記事への(Web 解析による)反響という形でやりがいに転じ、改善意識によって品質も向上した。

■コンテンツの役割はあくまでもユーザーに寄り添い対話すること

コンテンツマーケティングを成功させる上でもっとも大切な要素は、運用体制と反響を可視化するサイクルを支える「仕組み造り」にある。仕組みには設計図、つまり編集方針と切り口の定義、それらの明文化、そして Web 解析が必ず必要になる。仕組みがないまま量産型のコンテンツマーケティングを中途半端に行うと、運用継続の意義が時間とともに薄まり更新も途絶え、サイトのブランディング視点でも望ましい状態には遠くなってしまう。

図6
(図6)

この仕組みはやがてユーザーの定着を育み、ブックマークと引用を多く獲得していくことになる。最終的には図6のように、ネットの回遊上で「このサイトを常時利用したい」というユーザーをコンテンツによって常に獲得している状態を作りあげたい。コンテンツマーケティング運用とは、あくまでもユーザーの情報ニーズやモチベーションに寄り添い、共に同じ歩幅で歩き、対話し、ユーザーの信頼を育むための、当たり前のように行われるべきサイト運営の仕組みであることを決して忘れてはならない。

引き続き、次回の後編-2では「記事公開と更新の周期」を中心に解説する。

執筆:株式会社アイレップ ソリューション統括本部 グループマネージャー 床尾一法

記事提供:アイレップ