呪われたアメジスト
呪われたアメジスト(出典:大英自然史博物館展のTwitter)

持ち主に悲劇をもたらすという「呪われたアメジスト(紫水晶)」が話題だ。英国の「The Natural History Museum(大英自然史博物館)」の所蔵品だが、この春、日本の国立科学博物館にはるばる運び、展示予定だという。

世界の宝を集めた博物館

大英自然史博物館
美しいロマネスク様式の建物(出典:大英自然史博物館展のTwitter)

大英自然史博物館は、かつて強大な軍事力を誇った大英帝国が世界各国から獲得した美術品、財宝などを集めた、かの名高い「The British Museum(大英博物館)」の分館として19世紀に首都ロンドンに開館。その後も規模の拡大を続けた結果、20世紀に独立した。



ロマネスク様式の美しい建物で、もっぱら珍しい動植物や化石、宝石などの鉱物といった博物学標本8,000万点を所蔵。毎年約500万人が訪れる、英国で最も人気のある観光名所の1つとなっている。

東京・上野の国立科学博物館では3月18日から、この大英自然史博物館と連携し、所蔵品のうち選りすぐり370点をまとめて日本に持ってくる企画展を始める。

呪われた紫水晶の伝説


呪われた紫水晶は、目玉の1つとして、企画展側がTwitterなどで宣伝し、大いに注目の的になっている。

「所有者に悲劇をもたらし、運河に投げ捨ててもまた自分のもとに戻ってきてしまう――。今回、そんな恐ろしい逸話をもつ展示品も、ロンドンから海を越えてやってきます」

いわくありげな説明がついた宝石は以前、博識家にしてペルシア語の専門家であるEdward Heron-Allen(エドワード・ヘーロン・アレン)氏が所有していたもの。彼は「血と汚名に呪われている」と形容していたという。

呪われたアメジストその2
かつてインドの神殿にあった?(出典:The Natural History Museum)

カットが施してあり、楕円形で3.5×2.5cmの大きさ。ヘビをかたどった銀の輪にはめこみ、黄道12星座の銘板で飾っている。両端にヒンジがついており、片方は小さな紫水晶でできた2個のスカラブ(甲虫型の造形)がぶらさがっている。もう片方は銀細工が付いていて、内側にT字が入っており、刻印も施してある。

ヘーロン・アレン氏の物語によると、呪われた紫水晶はもともと、当時大英帝国の支配下にあったインドの都市カーンプルに建つインドラ(雷神)神殿のものだった。だが19世紀半ばにインドで帝国の統治に抗って人々が立ち上がり、大反乱が起きた際、神殿は略奪を受け、フェリス大佐という軍人が国外に運び去った。

しかしフェリス大佐はその日から健康と財産を失い、死を迎える。宝石を相続した息子も不運に苦しみ、とうとう博識家であるヘーロン・アレン氏に渡した。ヘーロン・アレン氏も扱いかねて、さまざまな友人に宝石を譲り渡したが、受け取った側は自殺したり、災害に遭ったり、失脚したりし、結局舞い戻って来た。

一度は運河に投げ捨てもしたが、3か月後には浚渫(しゅんせつ)船がそれをすくい上げ、知人が入手していたため、結局買い取るはめになった。最後には7重の箱に収めて銀行の金庫に入れ、彼の死後33年が経つまで日の目を見ないようにと指示したという。

ところがヘーロン・アレン氏の娘は、20世紀半ばに父が死ぬと1年もたたないうちに呪われた紫水晶を博物館に寄贈してしまった。これ以上、宝石を所有していたくないと考えたのだろうか。

真実は?

エドワード・ヘーロン・アレン
ヘーロン・アレン氏は別名で怪奇小説も執筆していた(出典:The Heron-Allen Society)

ちなみに博物館の学芸員によると、呪われた紫水晶の伝説は創作の可能性が高い。実はヘーロン・アレン氏はChristopher Blayre(クリストファー・ブレア)という別名で怪奇小説を執筆しており、1921年に発表した「紫のサファイア(蒼玉)」という作品に信憑性を持たせるための背景としてこしらえたのではないかという。

ただしすべてが嘘とも言えない。直接の関連はないものの、伝わっている呪いと細部がよく似た事件が、過去に実際に起きていたという報告が博物館にはいくつも集まっている。

ヘーロン・アレン氏は仕事や私生活で、インドに駐在経験がある退役軍人らと接する機会が多く、思い出話に耳を傾けるうちに物語の着想を得たのではないかという。

ちなみに小説に登場するのは高価な蒼玉だが、ヘーロン・アレン氏が持っていたのはより安価な紫水晶。どうやら余裕がなかったのか、適切な大きさのものが見つからなかったためではないか、と学芸員は分析している。

もっとも、と博物館は付け加えている。「我々はこの物語の全容を完全に知ることは決してできない」と。

確かに、あるいは呪いにはいくばくの真実があり、ヘーロン・アレン氏がよんどころない事情からあえて一部を作り変え、自分の体験として語ったと想像することも、できなくはない。

ほかにも奇々怪々な展示品



ところで、国立科学博物館では今回、ほかにも奇々怪々な品を展示する。まるで白金でできているような光沢を持ち、水滴を偽装して外敵から身を守る「プラチナコガネ」、19世紀にガラス工芸家の父子が作った「タコのガラス模型」など、それぞれに面白い物語のまとわりついていそうなものばかりだ。

春の花見や観光などで、東京・上野を訪れる機会があるなら、足を運んでみるのもよいかもしれない。