ユーザーの Cookie 情報をもとに一度 Web サイトへ訪問したユーザーに対して広告を配信するリターゲティング広告(Yahoo! における広告名称。Google ではリマーケティングと呼ばれるが、このコラムではリターゲティングに統一する)、その獲得効率の良さから、数あるインターネット広告手法の中でも今や顧客獲得施策の定番と化している。リターゲティング広告は顕在層にターゲティングして広告配信ができるので、効率的な顧客刈り取り施策として取り入れられることが多い。

広告配信技術が進化する中で、クリエイティブの重要性は多くの人の知るところだが、まず覚えておきたいのは、ユーザーを意思決定に導く、つまり CV(コンバージョン)へ繋げることがインターネット広告におけるプロモーション設計の起点となるということだ。

ターゲットを選定するための推測や興味喚起のためのクリエイティブを試行錯誤するなど、多くの仮設に基づいてプロモーション施策を打ち出すことが多いかと思う。しかし、CV という事実を起点としてユーザーの行動を分析し、データを解釈・類推していくと、的確な媒体への広告出稿やターゲティング範囲の確定・拡大が可能になる。確実性の高いプロモーション施策を検討する上で、クリエイティブの設計が重要な要素となってくる。

今回のコラムでは、特にリターゲティング広告におけるクリエイティブの重要性と獲得確度の高いバナーの設計について考えていきたい。

■リターゲティング広告の役割を再確認しよう

リターゲティング広告の対象となるユーザーとは、検索行動や広告接触など様々な経路から自社の Web サイトやランディングページに訪問したことのあるユーザーのことである。「このサービスについてもっと知りたい」「この商品を買ってみようかな」と興味を持ち、比較検討しているユーザーなので、対象商材に対してある程度成約のモチベーションが高いと言える。サービス・商品に関心のないユーザーは、検索しても Web サイトへの訪問には至らないことが多い。自社 Web サイトに訪問履歴があるユーザーや、更にその Web サイトの中で深い階層にまでアクセスしているユーザーほど、CV に近いユーザーと解釈できる。

しかし、当然ながら一度の Web サイトへの訪問が成約に繋がるわけではない。そこでそのような成約見込みの高いユーザーに対してもう一度アプローチし、自社サービス・商品を“思い出させて”“背中を押して”意思決定へ導くことがリターゲティング広告の役割である。

もしもあとひと押しで成約に結びつくユーザーにアプローチができずに取りこぼしているとすれば、それは非常に大きな機会損失である。一度 Web サイトやランディングページに接触しているユーザーの気持ちや求めている情報を考慮し、“もう一度振り向かせる”広告になっているか、再確認すべきである。

■クリエイティブを設計することの必要性

そのような機会損失を防ぐために、どのように“思い出させる”か、“背中を押す”か、ユーザーとのコミュニケーションの取り方が重要になってくる。そのコミュニケーションデザイン次第で、成約に繋がることも、反対にプロモーションにかけた投資が無駄になることもありえる。ターゲットとなるユーザーに再度アプローチする際は、クリエイティブの緻密な設計が必要だ。

特にリターゲティング広告におけるクリエイティブ設計が必要な理由として、以下の2点が挙げられる。

まず、追いかけるだけでは成約に結びつかないというユーザーの行動パターンが理由の1つだ。リターゲティング広告のターゲットユーザーは成約見込みの高いユーザーとはいえ、何度も同じコピー・画像の広告を見せられても、ユーザーの気持ちは変わらない。むしろ顕在層ユーザー、つまり成約見込みの高いユーザーは、すでに商品に対する様々な情報を検索や Web サイト訪問などを通じて取得しているため、いつも同じクリエイティブでは飽きてしまうだけだろう。それでは、いつまで経ってもユーザーを意思決定へ導くことはできない。ユーザーが意思決定に至るプロセスは複雑でユーザーとの接触機会は数多くあるが、それらのタッチポイントに最適なクリエイティブを設計することが重要である。

次に、コミュニケーションの取り方次第で、クリエイティブが迷惑な広告になりうる危険性があるという点だ。一度 Web サイトやランディングページを訪問したユーザーには Cookie が付与され、リターゲティングの対象になる。対象となったユーザーに対するリターゲティングバナー広告のフリークエンシー(広告の露出回数)は高くなる。

自分が一度無視したバナー広告が繰り返しブラウザ上に表示されれば、非常にストレスに感じることだろう。ユーザーが欲している情報を考えずにリターゲティングすることは、迷惑行為に近しいことかもしれない。ユーザーがどのような情報を欲しているのか、CV にいたるプロセスにおいてどのタッチポイントにいるユーザーなのか、それらを考慮した上で最適なクリエイティブを設計することこそ、成約に繋がる道である。

上記2点を考慮すると、リターゲティングバナーの設計においてポイントとなるのは、ユーザーを意思決定に導くために、ターゲットが何を求めているのか(インサイト)の仮説をいかに正確に立てられるか、ということになる。

そのためにまずできるアクションは次の3つである。
■クリエイティブ設計のための3ステップ

(1)離脱ページ・離脱ポイントのリストアップ

対象ユーザーは、リターゲティング広告の性質上自社 Web サイトやランディングページに一度は訪問した履歴があるわけだが、CV に至っていないユーザーは必ずどこかのポイントで離脱している。探していた情報がない、どこに情報があるか分からない、サービスや価格が見合わない、などユーザーごとの視点や背景によるが、いずれにせよ最終的にはCV に至らずにページからの離脱を選択したわけだ。

離脱したユーザーは、どのページで離脱したか、またページ内のどこで離脱したのか知るために、アクセス解析ツールやヒートマップツールで確認しよう。アクセス解析ツールやヒートマップツールは無料で使用できるものもあるので、ぜひ導入してほしい。離脱ポイントによって、ユーザーが離脱した異なる理由が必ずそれぞれに存在する。

(2)離脱理由の洗い出し

ユーザーがどのページで離脱したかが分かったら、そのページの内容から、ユーザーが「なぜ」そこで離脱したかを導き出そう。

例えば、図1のような求人サイトを例に挙げる。(1)で述べたように離脱ページが判明すると、それぞれの離脱理由を類推可能になる。Web サイトのトップページで離脱していた場合は、欲しい情報をすぐに見つけられなかったなど、求人の探しにくさが理由と推測できる。一歩踏み込んで地域別のページまではアクセスしてもそこで離脱していた場合は、ユーザーのエリアに期待したほどの求人数がなかった可能性が高い。求人の詳細ページまでアクセスしているが最終的に成約につながらず離脱していた場合は、掲載されていた求人情報がユーザーの条件にマッチする求人ではなかったと思われる。

(3)ターゲットインサイトの仮説立て

以上のようにユーザーの離脱理由が挙げられれば、それぞれの理由で離脱したユーザーが何を考えているか、何を求めているのか仮説を立てることができる。その仮説を基にリターゲティングバナーの訴求内容を決定しよう。

求人情報を探しにくいと感じたユーザーは、「すぐに見つかる!」など、手軽・簡単に求人を見つけたいというインサイトに基づいた訴求を行う。希望エリアの求人数が少なかったことが離脱理由だったユーザーに対しては、「厳選された求人を比較検討しよう」など見比べが可能という訴求が良いだろう。自分の条件に合う求人情報がなく、他の新しい求人を探すために離脱したユーザーには、「自分に合った求人が見つかる!」「望む時給の求人が豊富」などのメッセージで訴求できる。このようにインサイトごとに訴求を出し分けることで、よりユーザーに適した情報を配信し、関心・興味を喚起することが可能だ。

獲得用バナー広告クリエイティブに必要な設計とは?(リターゲティング広告編)
図1

上述の(1)から(3)のステップが完了すれば、より具体的にリターゲティングバナー制作の設計を進められる。

■より緻密なバナークリエイティブの設計

ターゲットユーザーに対してインサイトをベースにした有効な訴求が決まると、次にその訴求にマッチする要素やデザインを組み立てていく段階に入る。

バナーは「コピー」「メインビジュアル」「ボタン」の要素や、それらの見せ方を決める「色」「ギミック」のデザインから成り立つ。そのため、インサイトの定まったユーザーに対して、最適であると考えられる要素・デザインをそれぞれリストアップする必要がある。

図2
図2

1つの離脱ページに対し、インサイトの仮説から導き出した訴求でアプローチすることはもちろん、図2のように要素やデザインを複数掛け合わせることで、見込みユーザーに対して考えられる最も適したクリエイティブを網羅することができる。

例えば5つの離脱ページがあり、「ビジュアル」「ボタン」「色」「ギミック」をそれぞれたった3案リストアップするだけで、極端だが約400通りのバナーが作成できる。その中から「限定」キャンペーンじゃないのに「ボタン」が「限定」となってしまった組み合わせなど明らかに不自然な組み合わせを不要分として半分ほど取り除いたとしても200本ある。キャンペーンや予算にとって幅はあるが、一般的に1施策に対してバナー数は数十から多くて数百本なことが多いので、1施策に対しては充分過ぎるバナーの数と言える。

ここまでのプロセスを、クリエイティブ担当者が全て行うわけだが、それには速いスピードでの PDCA サイクルの実現が重要になってくる。案件が発生してからここまで、数週間、場合によっては数か月かかることもある。バナークリエイティブ設計が定まりバナーも用意できたら実際に配信することになるわけだが、その際、予算やリソース、配信から案件終了までにかけられる時間によって最適なクリエイティブ効果検証の手段が存在する。

(1)一定期間内に大量にバナーを配信できる場合

このような場合は多変量テストツールなどを活用することで、短期的に一気に多変量テストをして獲得精度が高いバナーを発見し、獲得効率を高めることができる。ここまで述べてきた緻密な設計により実現可能な、短期決戦の施策に向いている手法だ。

(2)数本しか配信できない場合

配信できる本数が限られている場合は、優先度の高いバナーから AB テストを実施しよう。優先度の高いバナーとは、例えば前述の求人サイトにおいて案件応募を成約と見なした場合、離脱ページが求人詳細ページに近いユーザーほど成約に近いと考えられるので、求人詳細に近い訴求をしているバナーとなる(図1、2参照)。そしてその AB テストの結果から次にテストするバナーを決めれば良い。何が優先度が高いか、どの訴求が最適化かすでに確定していれば、色やギミックなどのデザイン要素がマッチしていないだけで広告効果が出なかった可能性が高いので、デザインの異なるバナーからテストしていく。すでにバナーは大量に用意されているため、次の打ち手に困ることもなければ、AB テストの結果を無駄にすることもない。きちんとバナーの設計を行うことで、配信されるバナーの数が少なくても確実に知見をストックできる。

ここまで述べたように、「どこで」「どんなユーザーが」「なぜ離脱して」「どんな情報を求めているのか」をきちんと整理してクリエイティブの設計を実施することで、顧客が納得しやすい情報を配信し、顧客の成約獲得を促進することができる。今回は特にリターゲティングと絡めて紹介したが、これはクリエイティブ担当者があらゆる施策に活用できる手法かと思う。

さらに、昨今のアドテクノロジーの発展により、ユーザーがどんな行動をとったかは日に日に細かく数値化できるようになっている。ユーザー行動の分析・解釈、インサイトを導き出し、それらに基づいた施策を設計するまで、この一連の専門性の高いプロセスを全て担うクリエイティブ担当者が任される領域は多様だ。しかしそれらの根拠を基にしたクリエイティブ設計によって、アイデアや発想だけのクリエイティブではなく、より正確に、より勝てるクリエイティブの提供が可能になる。経験や勘ではなく、可視化されたデータと数値に基づいたクリエイティブ設計を実施することで、ユーザーの求める情報を配信し、CV に繋げることができるようになる。ひいては、精度の高いリターゲティングか可能になるのである。


執筆:株式会社アイレップ 第2ソリューション統括本部 クリエイティブグループ 湯浅直人
記事提供:アイレップ