氷水をかぶる山中伸弥教授
山中教授は古式ゆかしく「たらい」で水をかぶった

バケツで氷水をかぶる「Ice Bucket Challenge(アイス・バケツ・チャレンジ)」。2014年にインターネットで広がった、一見ばかばかしい流行が、大きな成果を生んだと話題になっている。難病治療研究のた120億円以上の寄付が集まり、150の研究プロジェクトが進行中だという。

アイス・バケツ・チャレンジは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療研究を支援するための運動だ。


ALSは神経の障害により、手足、のど、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気で、英国の偉大な理論物理学者Steven Hawking(スティーブン・ホーキング)氏も罹患している。

2014 年、このALSを克服しようとYouTubeやFacebookを駆使した取り組みが始まった。誰でも参加でき、まず治療研究に100ドルを寄付するか、氷水の入ったバケツを浴びるかを決め、そのようすを動画に撮影して、気持ちの通じる知り合い3人を指名し、24時間以内に同じ選択肢のいずれかをとるよう迫る。

IT企業の大物が次々参加

氷水をかぶるザッカーバーグ
ザッカーバーグをはじめIT長者が次々参加した

昔で言う「チェーンメール(不幸の手紙)」のような仕組みで、野火のように広がった。

Amazon.com創業者Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏や、Microsoft創業者のBill Gates(ビル・ゲイツ)氏、Facebook創業者のMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏、Googleの創業者コンビLarry Page(ラリー・ペイジ)とSergey Brin(セルゲイ・ブリン)両氏、Appleの最高経営責任者(CEO)Tim Cook(ティム・クック)氏など。IT 業界では挑戦していない著名人を探すのが難しいほどだ。

日本でも、ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥教授が、たっぷりと氷水を浴びて見せるなど、大いに盛り上がった。



やがて流行が一周すると沈静化し、何事もなかったかのように話題にならなくなった。

120億円以上の寄付

アイス・バケツ・チャレンジのインフォグラフィック
ALS協会による、アイス・バケツ・チャレンジをたたえるインフォグラフィック(一部)

だが成果はかなりのものだと、ALSの治療研究支援を行う米国のALS協会が明らかにした。

ALS協会が把握している範囲で、運動が始まってから最初の8週間で1億1,500万ドル(約120億円)の寄付が集まり、以来ALS協会の支援のもと約150の研究プロジェクトが進行しており、2年間で3種類の原因遺伝子を発見したとか。

特に米国マサチューセッツ州立大学医学部のJohn Landers(ジョン・ランダース)氏とオランダ・ユトレヒト大学病院のJan Veldink(ヤン・フェルディンク)氏が主導して発見し、最近論文が出たALS原因遺伝子「NEK1」については、アイス・バケツ・チャレンジを通じて集まった資金が貢献したと強調している。

ALS協会は、アイス・バケツ・チャレンジに敬意を払い、「バケツ」を象徴とした新たな募金キャンペーン「Every Drop Adds Up」を宣言。2014年に始まった挑戦を引き継ぎ、ALSに終止符を打とうと意気込んでいる。

新たなキャンペーン
ALS協会の新たなキャンペーンも、「バケツ」に敬意を払う

実は、日本ALS協会(JALSA)も2014年夏のアイス・バケツ・チャレンジで集まった寄付金を活用している。治療法、福祉機器の研究開発、および患者などの支援活動の資金として交付しており、必要とする研究機関や支援団体を公募中だ。