力士たちの素顔が見られて人気の公式 Twitter |
約8万6,000人のフォロワー(2015年3月5日時点)を集め、昨今の相撲ブームに一役買ったとされる公式 Twitter。相撲の世界をオープンに、幅広く紹介する狙いはなんだろうか。
運用を担当する同協会職員の加藤里実氏に話を聞いた。
公式 Twitter を担当する加藤里実氏 手にしているのは公式マスコットキャラクターの「ひよの山」 |
■伝えずにはいられない相撲の魅力
加藤氏が公式 Twitter の運用に参加したのは、広報部に所属していた2012年。おりしも、日本相撲協会が野球賭博問題などによる低迷から脱しようと広報に力を入れ始めていた時期だ。加藤氏もまず、7,000人程のフォロワーを1万人まで増やすことを目標に設定。Twitter の発信内容を大幅に変えることを決める。
当時の公式 Twitter が発信していたのは、日程や番付といったテキスト情報が中心。相撲の魅力は土俵の外にもあると考えた加藤氏は、自らカメラをもって力士たちを訪問、撮った写真を次々と投稿し始める。健康診断を受ける力士や消防訓練を行う親方など、テレビでは見られない姿を紹介したツイートは反響を呼び、2か月後にはフォロワー数1万人を達成。相撲の世界をさまざまな角度から見たいというファンのニーズを実感したという。その後も行司、呼出の仕事ぶりや新弟子の検査など、根っからの好角家も喜びそうな写真を投稿し続けている。
<健康診断>採血におもわず表情がゆがむ逸ノ城。 #sumo pic.twitter.com/NcgvqzortB
― 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) February 4, 2015
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<土俵築>小突き棒でしっかり土を詰める。#sumo pic.twitter.com/Xr9820I5Ko
― 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) March 4, 2015
職員ながら相撲に詳しくはなかったという加藤氏。自らカメラをもって力士たちの姿を追うことで相撲の奥深さに気づき、ファンにも伝えたい一心でツイートをしてきたという。現在は入場券販売などを担う業務推進室に異動しているが、公式 Twitter は継続して担当。もう1人の担当職員とともに、“中の人”だからこそ目撃できる相撲の世界を紹介している。拡散に意欲的なファンにも恵まれ、最近では1か月半に1万人程のペースでフォロワーが増えているそうだ。
page ■露出の増加が来場者の増加に
Twitter に加え、LINE やニコニコチャンネルなど複数のメディアで発信を行っている日本相撲協会。テレビの情報番組で力士を目にする機会も増えたが、そうした露出は来場者の増加につながっているのだろうか?加藤氏によると、初来場のきっかけを聞いたアンケートでは「テレビで見たから」「最近話題だから」という回答が多いという。Yahoo! Japan が2014年11月に発表したビッグデータの解析結果でも「大相撲」の注目度が急上昇したことが明かされており、身近に感じられるスポーツになったことは確かなようだ。
LINE でもさまざまな情報を発信 |
力士や親方との交流イベントなどを始めたことも、潜在的なファンの来場を後押ししている。象徴的なのは、2014年1月に Twitter で告知した「お姫様抱っこ」企画。遠藤関と隠岐の海関が女性ファンを“お姫様抱っこ”するというファンサービスは多数のメディアで紹介され、定員6名ながら応募数は8,000件以上に達したという。あまりの反響に遠藤関をモチーフにした記念撮影用のパネルまで作られ、今でも両国国技館の来場者たちを楽しませている。
伝統と格式を重んじる相撲界だけに、斬新な企画に対しては否定的な意見もあるそうだ。だが娯楽が多様化した時代、どのスポーツ組織も積極的に話題を提供し、若い世代の関心をひくことに努める必要があるのかもしれない。
■目指すは末永く愛される国技
メディアを駆使した露出や若手力士の台頭により、2015年初場所は18年ぶりの15日間「満員御礼」を記録した大相撲。3月8〜22日に大阪府立体育会館(BODYMAKER コロシアム)で開催される春場所の売れ行きも好調だが、加藤氏は現在の相撲ブームを冷静に受け止めている。
「今は調子が良いですが、相撲界は厳しい財政状況が長く続きました。国技とはいえ、今後の状況次第では衰退してしまう可能性もあるのです」。目指すは相撲を数十年、百年後も愛される国技へと育てていくことだ。「そのためには引き続き、より多くの人に魅力を伝え、足を運び続けてもらう必要があると考えています」。
相撲の内側を惜しみなく公開するとともに、親方や力士など、協会員が一丸となったサービスで人気を取り戻した日本相撲協会。新たに獲得したライトなファンをつなぎとめ、足しげく通うコアなファンへと育てていくにはどうすべきか?相撲の人気を磐石にするための挑戦は、始まったばかりのようだ。