京都大学の山中伸弥教授が過去に発表した、万能細胞「ES 細胞」に関する論文にインターネット上で疑問を呈する声が出ている問題で、同大学が調査結果を発表した。論文内容の正しさに疑いはないとしつつ、参考となる原データ(生データ)が見つからなかった事実を報告している。

山中教授の論文「内容は正しい」「原データ見つからず」、京大が Web で報告
疑問の上がった論文中の図表(出典:CiRA)

調査を行ったのは山中教授が所長を務める京大 iPS 細胞研究所(CiRA)。山中教授が2000年に発表した論文の図表などについて疑問を呈する Web サイトが見つかったため、同教授の申し出により事実関係の確認を行った。

CiRA によると、論文の内容を再現できていることは分かっている。また山中教授の実験ノートなど過去の資料を参照した結果、図表に該当する実験を1998年頃に行った記録も見つかっている。さらに図表について切り貼りした痕跡はなかったという。

一方、実験に関する山中教授以外の協力者のノートや資料は、同教授のもとには保管していなかった。さらに図表の原データもなかった。CiRA はこれらの点については「遺憾」としている。ただし論文内容の正しさに疑いの余地はないとし、追加調査の必要はないとの判断を示した。

ソーシャルメディア上では原データがない点について、いくつか意見が上がっている。例えば多くの研究機関が定める原データなどの「合理的な保存期間」は5年程度となっており、発表から長い時間が経過した論文については見つからなくてもいたし方ない、という指摘がある。

さらに一歩進んで、発表から長い期間が経過した論文についても疑問の声が出る状況を鑑みれば、原データの保存期間や管理のあり方についてあらためて考えるべきという示唆もある。

なお、山中教授の論文に疑問を呈して注目を集めたブログの著者は、小保方晴子氏の論文に疑問を呈して注目を集めたブログの著者と同じ人物。前者は匿名掲示板「2ちゃんねる」での議論をもとに2013年に作成。後者は匿名の研究者向け SNS 「PubPeer」への投稿を主な情報源として2014年に作成した。

山中教授の論文に関する2013年のブログ記事が、CiRA の調査によってあらためて脚光を浴びたのは、小保方氏の論文に関する議論の影響と見られる。