ソニーから分離したノート PC メーカー「VAIO株式会社」がついに旗揚げした。同社は本社を長野県安曇野市に置く。同市は以前から VAIO ブランドの拠点だった。

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安曇野・三郷 リンゴ(出典:安曇野市観光協会)

安曇野はリンゴの産地として知られる。早生(わせ)の「サンつがる」から晩生(おくて)の「サンふじ」までさまざまな品種が育つ。雨の少なさ、日照の多さ、標高の高さを生かし、甘く、果肉のしまった高品質な日本のリンゴを実らせる。

ここに、以前からソニーの「長野テクノロジーサイト」があり、VAIO 関連の事業を集約していた。今は新生 VAIO の中心拠点がある。VAIO は東京にもオフィスを置くが、本社はあくまで安曇野だ。経営、開発、製造一体で運営するという。

もちろんリンゴの産地に本社を構えることは、PC メーカーの未来を約束してくれる訳ではない。立地以外の要素、市場環境、企業としての意識なども重要だ。

新生 VAIO の企業としての意識はどうか。同社は所信表明として「メンバーはたったの240人」と述べ、小さな PC メーカーとしての再出発だという考えを示したが、スタートアップとして考えるのであれば、そこまで少人数とは言えない。

確かに現代において高性能かつ独創性のあるノート PC の開発には多くの技術者が必要であろう。1976年にはもっとわずかな人数の技術者が産声をあげたばかりの PC を手に新しい市場と時代を作り出したが、2014年においてはすでに成熟市場であり、同業他社、そしてタブレットをはじめとする新たな製品群と絶えず競い合わねばならない環境だ。

新生 VAIO は「PC にはこびこる固定観念を変える」としており、240人のチームにはそれが可能だと訴えている。とはいえ旗揚げと同時に発表した新モデル「VAIO Pro 11」「VAIO Pro 13」「VAIO Fit 15E」はそれぞれ従来機の改良版だ。

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VAIO Pro 11(出典:VAIO

また同社は「制約に縛られない」「しがらみには左右されない」と打ち出しているが、販売総代理店としてはソニーグループのソニーマーケティングと契約しており、その販路を通じて製品をユーザーに届けるとしている。以前からのファンにとっては、「ソニーストア」をはじめ馴染んだ方法で新モデルを買えるのはありがたい。一方、VAIO は新しいファンをどのように獲得していくのだろうか。

すべてはこれから、ともいえる。新会社がブランドをより魅力あるものに刷新し、新しいファンを獲得しつつ、ソニーグループに残った「Xperia」ブランドのタブレットを脅かすような製品を投入することもあり得るかもしれない。VAIO の今後が、安曇野のリンゴのごとく、よき実を結ぶことを願いたい。