複腕ロボットの製品写真
複腕ロボット(出典:大阪大学)

日本の研究機関がつくった新たな「複腕ロボット」に注目だ。2重旋回機構を備え、災害現場などで重作業にあたるいわば未来の重機。でも少しなつかしい雰囲気もある。

政府の研究開発推進プログラム「ImPACT」の一環として、大阪大学大学院工学研究科 吉灘裕特任教授、東京工業大学工学院鈴森康一教授らのチームが手掛けた。


漫画の「鉄人28号」のような遠隔操縦型。独特な構造により、従来のショベルカーなどでは難しい、急な斜面や大きな段差のある災害現場でもうまくはたらける。またがれき除去などの際に、再崩落を発生させないよう、精密で微細な操作ができる。

最大の特徴である「2重旋回」機構は、左右の腕と肩の旋回部を同軸上に重ねたもの。どちらの腕も360度回転するため、実際は右手、左手の区別はなく、両手のレイアウトを自由に変更できる。

一方の腕は油圧ショベルのような重作業向け、もう一方の腕はマニピュレーターとして繊細かつ器用な作業に向くようになっている。人間の手を思わせる力覚や触覚を備え、もののかたちを認識しながらつかめる。手先は4本指で、6個の油圧シリンダーと2つの油圧モーターで動く。砂利などをすくい取る際は「バケットモード」になり、複雑な形状のものを扱う際は「ハンドモード」に切り替える。握力は最大約300キロから最小1.4キロまで、油圧の制御により自由に調整できる。

指の使い方のようす
砂利をすくうとき(右)と複雑な形状のものを掴むとき(左)(出典:東京工業大学)

これに加えロボットの外にカメラを置かなくとも、対象物や地形を、視点を変えながら見ることができる、有線給電ドローンとの連携システムを搭載しているのも特徴。

足の代わりに重機によくあるクローラー(履帯)を備えていて、どっしりした外見だが、腕をうまく使って、普通のショベルカーなどでは入りにくい場所でも動き回ることが可能。凹凸の激しい足場では、片腕で木や地面の岩などを掴んで体を支えつつ、もう片方の腕で作業を行える。さらに腕とクローラーを協調して動作させ、段差を乗り越えられる。

足場が悪くても動作が可能
足場が悪くてもこの通り(出典:東京工業大学)

今後はさらに複数の技術を搭載し、より実現場に近い環境での作業実験に進む計画だ。

ところで複腕ロボットといって思い出すのはテムザックの「援竜」。10年程前に大いに注目を集めた機体だ。やはり災害現場など人の近づけない危険な地域で作業をする目的で開発した2本の腕を同期させて動かすことができた。車両ナンバーを取得して一般道路を走行できたのも面白い。通信方式はWi-FiとPHSだった。

レスキューロボット、援竜の製品写真
援竜(出典:テムザック)

日本で引き続き複腕ロボットに注目する研究者、開発者がおり、新たな成果が出ているという事実には、心強い気持ちにさせられる。