インド国立生命科学研究所は7月18日、ある種のゴキブリが分泌する「ゴキブリミルク」が、水牛のミルクの3倍のエネルギーを持っていることを発見したと発表した。現在、これを健康食品に加工する研究が進められている。

通常、ゴキブリは卵によって繁殖する。だが、今回研究対象となっているのは、哺乳類のように子どもを産んで繁殖する「ディプロプテラゴキブリ」と呼ばれるゴキブリ。このゴキブリは、体内で子どもを育てる際に、腸からミルクプロテイン結晶を分泌する。


米国、日本、カナダ、フランス、そしてインドの科学者による国際研究チームは、X線を結晶状態の物質に照射することによってその分子構造を解析する手法「X線結晶構造解析」を使い、このミルクプロテイン結晶を調査。人間にとって有用な栄養素が豊富に含まれていることを明らかにした。

今回の研究をまとめた論文の主要著者の1人であるSanchari Banerjee氏は、次のように述べる。

「(ディプロプテラゴキブリの)ミルクプロテイン結晶は完全食品のようだ。タンパク質、脂質、そして糖質が含まれている。そのタンパク質配列を見れば、必須アミノ酸すべてが含まれていることがわかる」

研究チームは、ゴキブリミルクを人工的に大量生産することで、栄養補助食品などに加工する研究に着手している。

さて、この発見はアイオワの若い研究者Nathan Coussensさんが10年ほど前、ゴキブリの腸から分泌される結晶を見て好奇心を持ったことがきっかけとなったそうだ。Coussensさんは仲間の研究者に結晶を見せたが、彼らはそれが虫の腸内によく見られる天然塩の結晶に過ぎないと取り合わなかったという。だがCoussensさんはこの結晶は何か特別なものに違いないと信じ、研究を続けた。Coussensさんの直感は当たり、その結晶がミルクプロテインから出来ていることがわかった。

ゴキブリの腸から放出されるミルクプロテイン結晶 (画像はインド国立生命科学研究所のWebサイトから)
ゴキブリの腸から放出されるミルクプロテイン結晶
(画像はインド国立生命科学研究所のWebサイトから)

今回の発表は、国際研究チームがCoussensさんの発見したミルクプロテイン結晶を解析し、それが人間にとって有用であることを発見したというものだ。だが、そもそもCoussensさんがゴキブリの腸から分泌される結晶を見たとき、それに対してなんの好奇心も持っていなかったら、今回の発見はなかった。国際研究チームの一人Ramaswamyさんは、科学の進化における好奇心の重要性について、次のように述べている。

「好奇心に駆られた研究は、科学上の発見や進化において、飛躍的な発展をもたらす、とてつもない価値を持つものだ。好奇心が存在しなければ、進化も発見もなかった」