主にアメリカの先進企業において、企業のマーケティングの活動を監査する「マーケティング・オーディット」の重要度が増し、導入する企業が増加しているという。コトラー&ケラーの『マーケティング・マネジメント(第13版)』によると、「マーケティング・オーディット」は、1.環境監査、2.戦略監査、3.組織監査、4.システム監査、5.生産性監査、6.機能監査という6つの項目に分類されている。

この6つの項目のなかで最も重要なのは、収益性と費用対効果(ROI)を分析・検証する「生産性監査」だろう。これは現在、多くのマーケターから最も注目されているマーケティング投資最適化のことと換言することができる。

デジタルマーケティング領域では、ディスプレイ広告やリスティング広告などの費用対効果の測定・検証・改善は当然行われているが、従来のマスマーケティングでは生活者の広告接触から購買までが、時間的・空間的に乖離しているため、その生産性の計測が困難であった。しかしマスマーケティングにおいても、その生産性を正確に把握すべきという長い努力が実りつつあり、各マーケティング活動の売上への貢献度や ROI の測定・算出を可能にする分析サービスが表れてきている。

前述のコトラー&ケラーは、「マーケティング・オーディット」を有効に機能させるためには、「企業または事業単位のマーケティング環境、目的、戦略および活動に対して、包括的、系統的、独立的、継続的に監査しなければならない」と規定している。すなわちマーケティング投資最適化についてのオーディットに限定して定義するならば、以下の通りになる。

・【独立的】企業の内外に係わらない専門的・中立的な組織が

・【包括的】マス・デジタル広告、各種キャンペーン、値下げやクーポンなどの価格施策、および店頭の大量陳列などの店頭施策に到るまでの全マーケティング活動の

・【系統的】売上と利益に対する各マーケティング活動の貢献度やROIを測定し

・【継続的】継続的に計測と評価、改善を繰り返す

重要度が増す「マーケティング・オーディット」、欠かしてはならない7つの要件
マーケティングの投資最適化

もう少し、マーケティング投資最適化について深く検討したい。マーケティング投資最適化は、「利益性」や「ROI」というビジネスにおいて最重要な指数の計測と改善を目的とすることから、以下に述べる3つの項目も加えて担保すべきである。それはマーケティング投資最適化が、数理モデルを利用するような量的分析によるものでも、競合比較から自社のマーケティングを評価するような質的分析によるものでも、同じである。

1.精密な分析による売上の高い説明力【正確性】
マーケティング活動である「投資」が売上や収益である「効果」を産み出すという因果構造を精緻に把握することこそが、各々のマーケティング活動がどのくらい売上に貢献したかを測定するベースとなる。これにより企業は、過去の「生産性」と「収益性」をマーケティング活動ごとに把握でき、今後のマーケティング計画の立案のための強力な参照元として利用可能になる。

2.マーケティングの最適投資配分の把握【予測力】
マーケティング活動と売上の因果構造を高い説明力で把握できれば、将来の売上予測も高い精度で可能となる。例えば、現行のマーケティング計画の生産性を実施前に検証することで、計画の見直しや生産性の向上への改善策を実現できるだろう。さらには、決められた予算内で売上や利益を最大化させるマーケティング投資配分を導き出し、現プランの見直すべきポイントを具体的に提示できるようになる。

3.継続的なアップデートによる迅速な PDCA の実行【迅速性】
マーケティング投資配分プランによる予測売上と実測値の乖離を継続的に検証し、分析の改修を短期間で繰り返すことは最低限必要である。それは、競合のマーケティング活動への対策、生活者の嗜好やブランド選好の変化、新しいメディアの出現などにより、マーケティング活動と売上の因果構造(主にそのパラメータ)もその生産性も変化するからである。

実際に実施したマーケティング活動と売上のデータを常に最新に維持しておくことで、監査の信頼度を高く保持することができる。そのことが、マーケティングという企業における重要な投資の最適化につながる。

例えばアメリカのアパレルメーカー(店舗、カタログ通販、EC サイト)は、マーケティング投資額の50%を占めるカタログの予算削減とそれに替わるメディアに再配分することで、総売上の5%向上、大幅な ROI の改善が可能との予測ができた。これはマーケティング投資と売上の因果構造の正確な再現から、売上に対するカタログ削減と他メディアへの投資額向上の影響を常時モニタリングし、総売上がダウンしないこと確認しながら慎重にマーケティング投資額の最適配分を実行した結果である。最終的には、カタログ投資額の20%の予算を削減し、一部費用を他メディアに配分することで、マーケティング予算を大幅に削減しながらも、売上の維持(ROI は大幅アップ)をすることを実現させた。

冒頭で、「マーケティング・オーディット」は、包括的・系統的・独立的・継続的でなければならないと記した。それらに加えてマーケティング投資最適化の観点からは、収益および投資対効果のチェックという性格上から「正確性」、現在のマーケティング計画が産み出す生産的を正確に予測する「予測力」、そして消費者の嗜好変化の対応や競合への競争優位の確保から「迅速性」の3つの要件も必要となる。

これから初めて「マーケティング・オーディット」を導入する企業は、その重要性から「生産性」、つまりマーケティング投資最適化を最初の監査項目として選択・実行する企業がほとんどであろう。オーディットを社内組織が実施するにしろ、外部に依頼するにしろ、旧来からの4つの要件と今回提示した3つの新たな要件を欠かすことなく慎重に実施しなければならない。

「マーケティング・オーディット」の根幹は、過去のマーケティング活動から得られた結果を構造的かつ数値的に表現し、科学的知識に昇華させることである。その知識を活用することこそ、市場にむけて効果の高いマーケティングを可能とさせ、競争優位を確保することに他ならない。

記事提供:IMJ Marketing & Technology Labs