ミクシィは、3月に発表した広告取引プラットフォーム「Vantage(ヴァンテージ)」について、ユナイテッドが運営する広告配信 SSP「AdStir (アドステア)」と接続し、スマートフォン向けターゲティング広告のテスト配信を開始したと発表した。

今まで国産ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の最大手として業界をリードしてきた企業が、広告取引プラットフォームを開発したことは「意外」と捉えられるかもしれない。しかし、「Vantage」の内容を知ると"ミクシィ"だからこそできる新しいデジタルマーケティングの形が見えてくる。同社への取材を基にまとめてみたい。

広告取引プラットフォーム「Vantage(ヴァンテージ)」の仕組み
広告取引プラットフォーム「Vantage(ヴァンテージ)」の仕組み

「Vantage」は、RTB(Real Time Bidding)が可能な広告マネジメントプラットフォーム(DSP)と簡易的なデータマネジメントプラットフォーム(DMP)で構成されたサービスだ。一般的な DSP はターゲティング広告の対象となるユーザーの行動履歴をブラウザの Cookie で取得し、広告配信・運用を続けながら広告とターゲット属性との親和性、そして広告の ROI を最大化させようと努力する。しかし、「Vantage」は、数千万人規模の会員(登録ユーザー)がいる「mixi」の会員 ID に紐づく属性情報と会員 ID に基づく Cookie が取得した閲覧履歴をハイブリッドで活用することができる点が最大の特長だと言える。

当然だが、「Vantage」は会員の個人情報や個人の特定が可能なプライバシー、会員のソーシャルグラフにはアクセスしない。あくまでも年齢、性別、居住地域、参加コミュニティなど個人を特定できない範囲での属性情報のみを活用する。

Cookie をベースに運用される従来のターゲティング広告では、取得する閲覧履歴はあくまで IP アドレスをベースに蓄積されるため、「ブラウザの閲覧者」を特定できても「ユーザー自身」をターゲットにすることは不可能だった。一方の「Vantage」は、「mixi」の会員 ID をベースにウェブ上での閲覧履歴などをデータベース化し、ターゲティング広告で活用できる点が画期的だと言える。

今後 DMP が更に成長・拡張すれば、「mixi」の会員 ID をベースに彼らのインタレストやアクティビティを蓄積したビッグデータのマネジメントも可能になる。今後ユーザーを安全に保護した形で拡張していけば、国内で類のないマーケティングデータベースになる可能性を秘めていると言えよう。これまで広告効果を元に運用の精度を高めていたターゲティング広告が、「Vantage」によって今までよりも更に高い精度で運用できるのだ。

そして「Vantage」の特長のもうひとつが、この広告取引プラットフォームが「mixi」での広告掲載のためだけのものではないということだ。今回「AdStir」と接続したことにその一端を垣間見たが、「Vantage」を利用する広告主の広告掲載先として想定しているのは、「mixi」を含む国内外の数多くの広告メディア。つまり、「mixi」の会員 ID をベースにしたビッグデータを、「mixi」以外の広告掲載にも活用することができるのだ。

従来、ミクシィは「mixi X'mas」に代表されるようなスポンサード型の大型キャンペーンや、スマートフォンで展開を開始した「ソーシャルバナー」など、「mixi」の中で広告コミュニケーション効果を最大化させるための施策を展開し、多くの成果を挙げてきた。しかし「Vantage」は「mixi」というサービスではなく、「mixi」ユーザーの ID に紐づく膨大な情報を元に、広告資産価値を生み出そうとしている。この価値が「mixi」だけでなく多くの広告メディアで活用できる汎用性の高いマーケティングデータとなれば、デジタルマーケティングに新たな潮流が生まれることが期待できると言えるだろう。

ここまで述べると、「Vantage」は広告主へのメリットが非常に高いように感じられるが、一方でウェブ視聴者にとってのメリットも少なくはない。

例えば、ユーザーの属性や行動履歴とターゲティング広告のミスマッチが生じて、ユーザーが期待しない広告が表示されてしまったとき、ユーザーは表示された広告に不快感を抱いてしまい、ウェブページを離脱するきっかけになってしまったり、表示された広告のブランドやサービスにネガティブな印象を抱いてしまうかもしれない。しかし、「Vantage」が提供する会員 ID に紐づくデータを基に精度の高いターゲティングができれば、ネット視聴者のニーズに適合する広告が配信され、ユーザーが求めている商品やサービスの広告に巡り合わせることができるのだ。

「Vantage」は、日本で最大のソーシャルプラットフォームを長年育ててきたミクシィが、「ソーシャルがデジタルマーケティングのために何ができるか」という命題に対して生み出したひとつの答えだと言える。今後「Vantage」がマーケティングプラットフォームとしてどのような成長を遂げていくのか、注目したいところだ。