マーケティング界における最近の潮流のひとつである「インバウンドマーケティング」。それ自体、今後のマーケティングの考え方のひとつとして大いに賛同するところだ。しかしながら、ネット上をふくむさまざまな説明や解釈を見るにつけ、インバウンドマーケティングと「戦略 PR」の概念が、どうもうまく棲み分けされていないように感じた。そこで今回のコラムは、戦略 PR を提唱した立場(あるいは広まるきっかけをつくった立場)として、同時にあくまで戦略 PR プランナーとして、僕の考えを書いてみようと思う。

さて、ここでいったん定義の整理をしておこう。「インバウンドマーケティング」はここ1年ほど、米国に端を発しマーケティング業界で注目されているひとつの考え方である。以下、日本における専業会社マーケティングエンジンのサイトより。「“インバウンドマーケティング Inbound Marketing”とは、見込客に有益なコンテンツをネット上で提供することで、検索結果やソーシャルメディア上で自社を“見つけられ”やすくし、自社のサイトへ来てもらいやすくする、というマーケティングコンセプトです。米国 HubSpot,Inc. の創業者、ブライアン・ハリガン Brian Halligan とダーメッシュ・シャー Dharmesh Shar によって2005年に提唱されました」。

一方の戦略 PR。いまさらであり、かつ手前味噌だが、多方面で引用されていただいているので、弊社ブルーカレントのサイトより。「商品そのものにフォーカスした PR 活動ではなく、世の中の時流と商品をつなぐテーマを開発しそこから話題喚起し、世論をつくり出す“空気づくり”を行い、その盛り上がりを商品の販売に落とし込む手法です」。

このコラムでは、これを定義の前提とさせていただきたい。まず結論から言ってしまおう。「戦略 PR はインバウンドマーケティング(あるいはその一部)」という物言いはまったく的を得ていない。なぜなら、インバウンドマーケティングと戦略 PR は、レイヤーの違う話だからである。ここで言うレイヤーとは何か。それは、「考え方」と「しかけ方」という2つの整理だ。

もう少し話を深めよう。「インバウンド(外から中に)」の対照概念が「アウトバウンド(中から外に)」である。「戦略 PR」は、あえていうならば、その考え方は「インバウンド」であり、そのしかけ方は「アウトバウンド」だといえる。戦略 PR の設計やコンテクストデザインに欠かせないのは、ソーシャルインサイト(いま、世の中の興味はなにか?)であり、そのねらいも「消費者に気づきを与え、買う理由を生み出す」というものだ。

一方で実際に戦略 PR を実行するとなると、これは実行論としては完全に「アウトバウンド」である。メディア報道の巻き込み、イベントやセミナー…まさに外に向けて、空気をつくるために「しかけて」いくわけだ。戦略 PR(もとい PR =パブリックリレーションズ)の本質とは、自分たち(企業や組織)の思惑ではなく、相手側(消費者やインフルエンサー)の関心興味に寄り添うことで、「自然に、また必然的に」彼らの目をこちらに向ける、ということなのだ。

さらに言えば、それが「第三者話法」が持つパワーを介して実現するというところだ。断言するが戦略 PR はアウトバウンドマーケティングの一部である。しかしながら、その戦略設計の発想は非常にインバウンドなもの。いずれにしても、すべてはこの情報環境のシフトに起因するのは言うまでもない。「Get Found(見つけられる)」の発想も、「空気づくりで気づきを与える」のも、一方的なマスマーケティング全盛の終焉に時を同じくしているのは偶然ではない。

最後にこれからの話を少し。このような多少理屈っぽいコラムが散見されるほど、現在のマーケティングが過渡期にあるのは間違いない。しかし、こうした潮流の融合がワクワクするような姿を見せ始めるのもそろそろである。アメリカではすでに、インバウンドマーケターと PR 業界は結託を始めている。そこに、いわゆるデジタルクリエティブ、デジタルイノベーションがビルトインされようとしている。このあたりは、ぜひ次の機会にでもご紹介していきたいと思う。

執筆:本田哲也

記事提供:株式会社ビデオリサーチインタラクティブ