企業が生活者とコミュニケーションしていくには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。アメリカミシガン州トロイにある公立図書館の廃止の危機を救ったキャンペーン“Book Burning Party”には生活者の心を動かすストーリーがありました。

そもそもの発端は、地元行政の財政難により、伝統ある図書館が閉鎖されることが検討されたこと。そして、もし図書館を存続するならば、0.7%増税されることになり、その是非を問う住民投票がおこなわれることになったのです。当初は増税反対派(図書館不要派)が圧倒的に優勢でした。増税反対派の団体はそもそも住民投票さえもやめさせるキャンペーンを展開していました。いつの間にか焦点は、図書館の存続の是非から、増税をするかしないかになっていたのです。図書館存続派としては、何とかして議論を、増税の是非から、歴史ある図書館を存続させるかどうかに戻さなければなりませんでした。

そこで一計を案じました。あえて過激な図書館不要派を装って「8月2日 図書館廃止に投票しよう」という看板を街のあちらこちらにたてたのです。その下には「8月5日 Book Burning Party(図書館の本を燃やすパーティ)」という架空のイベントを告知しました。つまり「図書館なんか廃止して、そこにある本を燃やしてしまえ」という、自らの主張とは正反対の過激な主張をしたのです。

実際、Facebook  などでも、本を燃やす準備をすすめる様子を大げさに告知していきました。その様子を見た、街の住民は、本を燃やすというビジュアルにショックをうけました。「本当に図書館をなくしてしまっていいのだろうか」ということを改めて考えるきっかけになったのです。それ以降、図書館の存続についての議論が Facebook  などの SNS 上で巻き起こっていきました。地元の新聞やテレビはもとより、インターナショナルなニュース番組にも議論が取り上げられるようになりました。図書館存続派は、議論を「増税するかしないか?」から「伝統ある図書館を残すか潰すか?」に変えることに成功したのです。住民投票の結果は、図書館存続派が圧勝しました。わずかなキャンペーン費用で、当初の予想の3倍以上の票が集まったといいます。

ではなぜ、このキャンペーンはここまで効果があったのでしょう。そこに人間の感情を揺さぶるストーリーがあったからです。人間には「なくなってはじめてその大切さに気づく」という体験がよくあります。このキャンペーンのストーリーは、そのような人間共通の感情をうまく揺さぶったのです。もし普通に「図書館存続」を主張しても、このような多くの議論がまきおこることはなかったでしょう。あえて、自らの主張と正反対の過激な主張をすることで、多くの人の支持を得ることができたのです。人間の感情の機微を理解したすぐれたコミュニケーションだと言えるでしょう。

執筆:川上 徹也
記事提供:株式会社ビデオリサーチインタラクティブ