先日、東京では4回目の開催となる、世界最大のデジタルマーケティングカンファレンス、「アドテック・トーキョー」が開催された。僕自身、会場の片隅でトークセッションの機会を授かったが、そこでこういう発言をした。「“アドテック”は、そろそろ“コムテック”に名称変更したほうがいい」。なぜか?

いわゆる「アドテクノロジー」はインターネットの普及に足並みを揃えるように進化し、さらにここ数年のソーシャルメディアの登場によって、さらに高度化している。毎年、来場者を増やしているアドテックが盛況する理由もそこにある。しかし、テクノロジーの進化と並走するように起こっていることがもうひとつある。それは、コミュニケーションそのものの「複雑化」であり「多様化」だ。

「アドバタイジング(広告)」がコミュニケーションの王座に鎮座し続ける時代は終焉を迎えようとしている。いまや消費者に何かを伝え、さらに動いてもらうには、戦略 PR やソーシャルメディアマーケティングなどと広告の最適化が不可欠だ。そして、かように複雑化した次世代コミュニケーションを実践する中核要素のひとつに、いわゆる「テクノロジー」が存在すべきなのだ。よって、それらのテクノロジーはあらゆる形態の「コミュニケーション」の成立のために活用されるべきで、「アドバタイジングのため」という観念は捨てたほうがいい。なんだかへったくれが過ぎてくるのでこのあたりにしておくが、とにかく、それが冒頭の理由なのだ。「カンヌ国際広告祭」が昨年から「広告」という表現を外し、「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」に名称変更したように。

さて、これを逆の視点で見てみると、広告界では最新のテクノロジーがバンバン活用されているのに対して、PR 発想からのテクノロジー活用がまだまだ少ない。とくに日本では、「PR」というとドロくさいメディアキャラバンとか、メディアとの人間関係による記事のオシコミ(あるいはモミ消し)など、妙にアナログな側面が強かったように思う。もちろん、それらのヒューマンスキルやノウハウも重要なのだが、戦略 PR とソーシャルテクノロジーは近づいて、もっともっと施策としても融合すべきだ。

ひとつ、海外のユニークな最新事例を紹介しよう。実施したのはグローバル広告会社の BBDO だが、ここにはいっさいいわゆる「広告」は登場せず、ソーシャルテクノロジーと戦略 PR で設計されている。ペットフードで有名なぺディグリーが実施した「Doggelganger」キャンペーンがそれで、2011年 Spikes Asia Awards デジタル部門グランプリを受賞している。このキャンペーンの目的は、一義的には、いわゆる「ホームレスドッグ」(飼い主を失った犬)の救済。できるだけ多くの飼い主を見つけてあげて、殺傷率を減らすことだ。しかし同時に、当然ながらぺディグリーのブランディング、また商品購入でドネーションの仕組みも組み込んでおり、販売促進も兼ねているコーズマーケティング(社会貢献と営利活動を両立させるマーケティング)だといえるだろう。

秀逸なのは、そのコアアイデアにソーシャルテクノロジーが導入されており、それが消費者のインサイトに直結している点。ぺディグリーはまず、キャンペーンの特設サイトを開設。ホームレスドッグの現状などを訴えるとともに、最新の「顔面認識テクノロジー」を駆使した、「ホームレスドッグ紹介システム」を実装した。あなたはスマホで撮った、自分の写真をアップロードするだけ。するとあなたの目や鼻や口、顔の各パーツは自動認識され、それぞれが「犬バージョン(?)」に解析されるしくみ。その結果、リストアップされている哀れなホームレスドッグの中から、「あなたにもっとも似ている1匹」が抽出され、紹介されるというわけだ。

想像してほしい。いくらホームレスドッグのことを認識していても、多くの人にとってそこまでは社会問題という「世の中ゴト」。しかし、「自分にもっとも似た犬です!」と紹介されたとたんに、それは一気に「自分ゴト」化する。実際に、なぜか飼い主と飼い犬がどことなく似ている…という光景はたまに見るはずだ。発想がそもそも戦略 PR でデザインされており、そこに最新のテクノロジーが実装されている。シェアされる要素、ソーシャル上で自走する要素も十分、マスコミが取り上げる理由も十分ということで、実に現代的なキャンペーンといえるだろう。このサイトのビジター数は450万を超え、210万を超えるシェアが発生した。その結果、実に200万組の「養子縁組」が成立し、これは前年比で20%増に相当する。

テクノロジーは目的達成のために存在する。そして戦略 PR も広告も、ある目的を達成するコミュニケーションという手段に過ぎない。これから僕たちが大切にするべきなのは、まず目的意識と意義。次にそれを達成するコミュニケーションの最適設計。そして、そのコミュニケーションを具現化するテクノロジーの採用。これらを正しく、順序良く、組み立ててチャレンジすれば、これまでできなかったコトも起こせるかもしれないのだ。面倒な時代ではあるが、なんだかワクワクする時代でもある。

執筆:本田哲也

記事提供:株式会社ビデオリサーチインタラクティブ