Marketing

マーケティング

マーケティングの「事件は現場で起きている!」

株式会社ワールド・カフェ 代表取締役 笠原 造
2009年8月3日 / 12:00
 
 
■「ペルソナ」は、もろ刃の剣?
前回のコラムで、「顧客の深層心理や潜在的な欲求を理解する」ために「ペルソナ」を活用することを述べた。

「ペルソナ」は、「企業が提供する製品・サービスのもっとも重要で象徴的なユーザーモデル」であり、年齢・性別などの定量的なデータだけではなく、その人の生い立ちから現在までの様子、人生のゴール、ライフスタイル、消費行動や情報収集行動などの定性的データを含めて、あたかも実在するかのような人物像をつくるものだ。

「ペルソナ」は、顧客との共感や絆を重視するマーケティングやブランディング戦略立案の起点となるもので、最も有効な手法のひとつである。しかし一方で、誤った「ペルソナ」を作ったり、誤った使い方をしてしまうと、すべて間違うことになってしまうので、十分な注意が必要だ。

マーケティングの「もろ刃の剣」にもなりかねない「ペルソナ」であるが、どのように作れば、精度の高い「ペルソナ」となるかについて、「日本酒天国.com」の事例で具体的に述べたい。

■最初が肝心な「ペルソナ仮説」
「ペルソナ仮説」を立てるには、まず、POS や CRM などの販売データや過去のマーケティング調査結果などのデータを確認して、ターゲットのセグメントテーションを行ない、重要なターゲットを発見するのだが、ここで重要なことが3つある。

ひとつは、いま一度、何のための「ペルソナ」を作るかを確認することだ。例えば、既存マーケットの深耕が目的であれば、最も購買シェアの高い層に注目すれば良いが、新しいマーケットの開拓が目的であれば、現在のシェアより、伸び率に注目する、というように観点が全く違ってくる。

新しいマーケットの開拓を目的としていた「日本酒天国.com」においては、最も購買が多い50代以上の男性ではなく、最も伸び率が高い30代の女性を「ペルソナ仮説」とした。

2番目は、マーケティングの結果としての定量的なデータに基づく、デモグラフィック(性別、年齢、地域、年収など)なデータのみではなく、原因となる定性的なデータに基づく、ライフスタイルや行動特性によって、セグメンテーションを考える必要があるということだ。

「日本酒天国.com」では、Blog 分析によって、試飲会などのイベントに参加し、様々な日本酒を飲み比べるのが好きなビギナー的な OL と日本酒に関わる知識や蔵元との交流が好きなファン的なディンクスという2人の「ペルソナ仮説」を立てた。

3番目は、様々な角度から、「ペルソナ仮説」を慎重に検証することだ。定量や定性データの分析から作った「ペルソナ仮説」について、実際に「ペルソナ仮説」に近い人にヒアリングを行ない、仮説の検証を行なうと良い。最初に作った仮説に固執せず、必要があれば思いきって修正することも必要だ。

「日本酒天国.com」では、日本酒の会を主催しているリーダー2人に、「ペルソナ仮説」についての意見をヒアリングした。このようなリアルな会のリーダーは、自分のみでなく、多くの会員の特性を知っているので、非常にリアリティのあるご意見を聞くことができる。

また、インタビュー以外にインターネットのアンケート調査も有効な検証手段だ。定性的なフリーアンサーを多めにすると、検証の精度を高めることができる。

■セラピスト的な「デプス・インタビュー」
次のステップは、「ペルソナ仮説」に基づいて、デプス・インタビューを実施することだ。顧客自身が自覚していないニーズ・深層心理を明らかにするために1対1で時間をかけて話しながら行なう深層面接で、対象者の購買行動や購買欲求など、個人属性も含めて明らかにする方法である。

深層心理を引き出すために、限られた人数と時間の制約の中で、どのようにポイントを抑えて、適格な質問をするかが勝負所となる。

質問項目は、「ペルソナ」のプロフィール、ライフスタイル、購買行動、情報収集行動など多岐におよぶが、プロジェクトの目的や「ペルソナ仮説」によって、どこにポイントを置くかは異なってくる。

また、質問する順番についても、回答者が答えやすいような流れを意識して、周到に検討しておくことも重要だ。前述の「ペルソナ仮説」の検証のためのヒアリングを「プレ・デプス・インタビュー」として、質問項目とその流れを固めていくのも良いだろう。

そして、実際にインタビューをする時に最も大切なことは、自然な会話を心がけることである。話しやすい雰囲気を作り、自分の仮説に固執せずに先入観を捨て、回答者をレスペクトして全てを受け入れる姿勢で、個々人の「物語」を追体験することが重要だ。

また一方で、顧客の深層心理を深掘りすることも必要である。「なぜそう思ったか?」、「どう感じたか?」、「具体的なエピソードは?」など、会話の流れの中で上手にヒアリングして、表面的な行動の基になっている原因を探るのである。

このようにデプス・インタビューは、自然な会話でありながら、深層心理を深堀りするという、セラピスト的な専門能力が必要であり、ペルソナ・デザインの中でも最も難しいもののひとつである。

■文化人類学的手法の「エスノグラフィー」
「デプス・インタビュー」と共に、「エスノグラフィー」と呼ばれる調査手法も非常に有効だ。

「エスノグラフィー」は、もともとは文化人類学や社会学において異民族を理解するために用いられた手法である。予め仮説に基づいて作っておいた質問を矢継ぎ早にするのではなく、顧客と生活を共にし、共同体験をすることから、より顧客を理解しようとするものである。

顧客と一緒に食事をしたり、掃除をしたり、買い物をしたり、テレビを見たり。共に暮らし、過ごすことで顧客の行動とその心理について、より深い気付きを得ることができる。

「日本酒天国.com」においては、実際にレストランで一緒に日本酒を飲んだり、試飲会に行ったり、日本酒を買いに行ったり、インタビューをさせていただいた方を集めた「ペルソナ・パーティー」も開催するなどして、ペルソナとの共同体験を積み重ねることによって、より深い理解を得ることができた。

いわば、マーケティングの「事件は現場で起きている」である。

■エスノグラフィーから生まれた、感動的なブランディング
日本では、まだ、「エスノグラフィー」をマーケティングに導入する例は少ないが、海外においては多くの活用事例が出てきている。

米国の百貨店 JC Penney は、ペルソナやインサイト(深層心理の欲求)を構築してブランドコンセプトを一新することになり、まず、Blog ポータル 「Fall Shopping Guide」における JC Penney の Blog 分析によって顧客の理解を深め、「ペルソナ仮説」を構築、その後に「ペルソナ仮説」に近い人々の「エスノグラフィー」を実施した。

対象者と調査員が数日間、一緒に暮らして、車の運転から、子供の世話、料理などの時間を共に過ごして、「ペルソナ」と「インサイト」を作り上げた。

その結果、「セプテンバー・イレブン」の後だったこともあり、「特別な日ではなく、毎日の暮らしの中に幸せがあり、人との絆を大切に生きていきたい」という「インサイト」を「ペルソナ」が持っているということがわかった。

この「インサイト」から生まれたのが、“Every Day Matters”(毎日が大切)というテーマである。JC Penney は、このテーマに基づいて、新たなブランディングを展開することにした。

下記は、JC Penney の“Every Day Matters”をテーマにしたムービーである。何気無い日常の風景であるが、リアリティがあり、心に刺さるメッセージに共感できるものとなっている。

Today's the Day(YouTube スクリーンショット)
Today's the Day
(YouTube スクリーンショット)

Father's Day(YouTube スクリーンショット)
Father's Day
(YouTube スクリーンショット)

デモグラフィックな「世帯所得600万円の40代女性」といった切り口ではなく、マーケティングの現場を捉えたリアリティのある「ペルソナ」だからこそ生み出すことができた、「共感」によるブランディングと言えるだろう。


執筆:株式会社ワールド・カフェ 代表取締役 笠原 造
監修:株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役 斉藤 徹
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