Marketing

マーケティング

「偶然」と「お人好し」に依存した BtoB マーケティング

庭山 一郎
2006年9月6日 / 09:00
 
 
BtoB のマーケティングがうまくいかない原因は、リストの収集からデータベース化、案件化、受注、そしてクロスセル・アップセルというラインがバラバラに機能していたり、あるいはどこかがすっぽり抜け落ちていたりすることにある。それを表現するために私がよく使う例え話のひとつに、マーケティングを箱根大学駅伝に例えたものがある。

■ BtoB のマーケティングを駅伝に例えると

正月の風物詩になっている箱根大学駅伝で最も華々しい区間といえば「花の2区」だろう。各大学はここにエース級を投入し、ここでの成績が往路の勝敗を決めることが多い。この区間を走った選手からオリンピックで活躍するマラソンランナーも多数出ている。

この大学駅伝を見ていると毎年感じることがある。日本の BtoB 企業の「マーケティングのタスキは繋がっていない」ということだ。

BtoB のマーケティング活動を駅伝に例えると以下のような区間からなっている。

第1区 展示会などでターゲットに合致する見込み客リストを収集する
第2区 収集したリストを整理し、コミュニケーションしながら絞り込む
第3区 絞り込んだリストに営業が訪問して受注する
第4区 顧客関係を維持し、クロスセル・アップセルを提案する

■ 華々しくないマーケティングの第2区

第1区で見込み客を収集するメニューは数多く用意されている。展示会やセミナーなどのイベント系からリスティングやアフィリエイトなどのネット広告、営業の名刺交換、購入リストをベースにしたキーマンリサーチなどだ。しかし、こうした手段を駆使して第1区でいかに頑張っても、また第3区にどんなに強力な走者(営業・代理店)を配置しても、第2区でタスキが途切れてしまっては何にもならない。

法人営業のマーケティングではこの第2区は、地味で誰もその存在や必要性を理解してくれない寂しい区間である。それでいて実は非常に重要で、かつ難度が高く、企業のマーケティングがうまくいかない原因の大半はこの区間に隠されている。

タスキが途切れたままにしておくと必ず第1区、つまり展示会やセミナーでターゲットリストを集めることが本当に必要なのか、という疑問の声が社内から出てくる。その結果、予算を確保できず、毎年出展していた展示会に今年は出られない、せっかく Web を作ってもメンテナンスやアクセスを上げるための予算が確保できないという企業が多いのだ。

ではなぜタスキを繋げないのだろうか?

なぜタスキを繋げないのか

BtoB 企業で第1区の主役は展示会である。半年前から本格的に企画がはじまり、2か月前からは業者選定や制作が本格化する。やがて集客キャンペーンがスタートし、1週間前からはチェックやリハーサルでほとんど毎晩のように徹夜が続き、当日早朝の最終リハーサルの頃には担当者はほとんど緊張感だけで立っている状態である。だからイベント最終日の打ち上げのビールは本当に美味しいし、その晩は泥のように眠ってしまう人が普通だろう。

しかし忘れてはならないのは、ここはまだ「ターゲットリストを集める」という第1区にすぎないということだ。販売推進や営業企画と呼ばれるマーケティング部門のミッションは、このタスキを第3区の走者である「営業部門」まで繋ぐことである。

しかし、フラフラになりながら第1走者が中継所に入ってきたときに第2走者がいないのだ。

■ 待っているはずの第2走者がいない…

本来は次の第2区で、第1区で集めた見込み客のリストを「整える」「コミュニケーションしながら絞り込む」という工程を経て次の第3区に繋がなければならない。

しかし第2走者がいないので、仕方なくこの区間をハショルことになる。その結果第3走者である営業チームには、競合会社や自社のグループ企業の社員、韓国や台湾などの営業エリア外の人がたくさん混入し、しかも同じ人が2人も3人も存在する低レベルのリストを渡されるハメになる。営業チームがマーケティング部門に不信感を持ち、展示会など出なくてよいと考えるのは、多くの場合これが原因である。これが、タスキが繋がっていないことで起こる「負のメカニズム」なのだ。

■ 「偶然」と「お人好し」に依存する日本企業

この光景を中継所の上空からヘリコプターで見れば、「イベント担当」という第1走者がフラフラになりながら中継所に入ってきたときにそこに第2走者はおらず、一方遥か彼方の次の中継所では「営業」という名の第3走者がなぜタスキがちゃんと運ばれてこないのかを理解できずに不機嫌な顔をしながら待っている、という悲しい俯瞰図が見えてくる。

多くの企業ではこの問題を「偶然」か「お人好し」に頼って解決している。「偶然」とは第1走者がタスキを渡す相手がいないので中継所を通過したことに気がつかず、フラフラしながら第3走者まで走るケースだ。「お人好し」とは次の中継所で待っている第3走者が見るに見かねて第2区間の途中までタスキを取りに来てくれるケースだ。多くの日本企業はこれでタスキが繋がっていると勘違いしている。

しかし存在しない第2走者の走るべき第2区は、非常に難易度が高く、特殊な機材や技能を必要とする。残念ながら「偶然」や「お人好し」でまともに走りきれる区間ではないのだ。

■ 第2区間こそマーケティングの醍醐味そのもの

箱根の駅伝では、タスキを繋ぐためにフラフラになりながら走り続けるランナーの姿が感動を誘う。脱水症状を起こし、平衡感覚が麻痺し、足が痙攣した状態でもランナーはタスキを繋ぐために中継所を目指す。

私の目の前にいる多くのマーケティング担当者も同じ状態の人が多い。満足なツールもノウハウも予算もない中で、なんとか営業チームにタスキを繋ごうとボロボロになりながら夜中のオフィスで奮闘している。地味で誰もその存在すら気づかないこの第2区間で日々戦っている現場のマーケターの人達に心からエールを贈りたい。

私は「マーケティングはこの世で最も素敵な仕事のひとつ」と思っている。クリエイティブ(創造性)とサイエンス(科学)とテクノロジー(技術)が実務の中でここまで融合した仕事が他にいくつあるだろうか…。

そのマーケティングのたまらない醍醐味の多くの部分が実はこの「花の2区」に隠されている。それを見つけられるのは言うまでもなくこうした現場のマーケターだけなのだ。

記事提供:シンフォニーマーケティング株式会社 マーケティングキャンパス
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