前回、新卒インフラエンジニアの雇用の難しさについてお話しさせていただき、大きな反響がありました。その後、いくつかタイムリーな話題がありましたので今回は大学卒プログラマに焦点を当ててお話ししたいと思います。

11月下旬、私の母校でもある慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス Open Research Forum (SFC ORF)が六本木ミッドタウンにて開催されました。これは大学院生や学生が普段の研究成果を企業や一般の人に公開することによって、研究内容への理解を求めたり産学共同研究への足がかりとしたりする場となっています。弊社では新卒の採用も視野に入れていることもあり、先生方へのご挨拶や学生への声かけを兼ねて行ってきました。

遺伝子領域や建築などの分野に関しては安定した展示があったものの、IT 領域、特にプログラミングを用いた展示物に関しては疑問が残る内容でした。「問題発見解決型」と謳われたキャンパスではありますが、IT に関した展示ブースをまわると、発見した問題点は IT に関することであっても、用いた解決策は人力ボランティアだったり IT 政策だったり、セキュリティなどの意識の啓蒙だったりと大凡プログラミングを用いたシステマティックな解法が極端に少ない印象でした。数少ないプログラミングの展示も、教員が中心となって動いているからこそ成り立っているものが散見され、「プログラマ志望の学生はどこへ行ったのか」と思わざるを得ない内容でした。

そもそも大学生プログラマが減少している状態は慶應 SFC に限ったものかどうかということについて議論する必要があるでしょう。 有り体に言ってしまうと、もともと慶應 SFC の学生は私が入学した2000年には既に良い意味でも悪い意味でも“現金な学生”が多く、儲かりそうな臭いがするというモチベーションだけで起業したり、著しい困難さを前にすると費用対効果を踏まえてさっさと次に行ったりという、もっと言うと生態とすら言える傾向がありました。逆に言うと慶應 SFC の学生は各時代の学生が抱く正直な嗜好を象徴しているとも言えます。

このことについて某大手メディア企業の採用担当の友人とも話しましたが、そちらでは慶應 SFC に限らず、全体的な新卒プログラマの質の低下を嘆いていました。本記事が、近い将来訪れる可能性が高い「大学卒プログラマの減少」というテーマについて考えるきっかけになればと思います。

ORF にてお世話になった先生方数名を捕まえた際、プログラマの少ない現状についての疑問を率直にぶつけてみました。その際のやり取りと私の考えを交えつつ、仮説として整理してみましょう。


1.なりたい職業ランキングが移り変わっている

2013年流行語大賞にノミネートされた「ブラック企業」がありました。前回の記事に対する反響にもあったのですが、「SE・プログラマの仕事 = だいたいブラック」という偏った認識から敬遠されることがあるようです。

2000年代前半、IT 革命花盛りだった慶應 SFC では「IT 業界で手に職を付ければ稼げそう」という不純な動機でプログラミングに取り組む学生が多く居ました。私もですが。当時のような分かりやすい「ジャパニーズ ドリーム」に比べると「ブラック企業」という風潮はかなり悲惨な向かい風と言えるでしょう。

業種は違うのですが、自動車整備の専門学校における「学生の車離れ」を嘆く話を聞いたことがあります。友人の講師が専門学校にて「車をいじるのが好きな人は手を挙げて下さい」と聞いたところ、昔は多くが手を挙げていたのに対して今は0人、辛うじて「ビッグスクーターをいじる」のが好きなのが1人だけ居たということでした。日本の産業の屋台骨の一つである自動車にしても「好きだからなる」「思い入れがあるからなる」という時代から「食べられるからなる」という変化があるわけです。プログラマという職業についても同様の流れにあると言えるのかも知れません。

ちなみに現在の慶應 SFC の学生がなりたい職業は「金融関係」だそうですよ。


2.プログラマが稼げないイメージがある

アメリカ人の先生らしい発言でした。アメリカでは Google や Microsoft だと優秀な学生については$80,000や$100,000などは平気で出すということを学生は知っている、それを目的に学生は頑張るということです。日本にもそうした高い給与を提示する企業はあるので、それを学生が知らないだけということでしょうか。また、初任給に囚われ過ぎず、キャリアパスとそれに伴い上がっていく年収を例示するという企業側のアピールも課題となるところでしょう。


3.日本でプログラミングを職業とすること自体がなくなるのではないか


開発は海外などの賃金が安いところで行うようになるだろうという説です。現在もオフショアでの開発は依然として高い注目を集めていますが、弊社の場合はオフショアから撤退しました。詳しくは別の回に譲りますが、スキルレベル、間に立つ日本人の技量とタスク量、文化、為替など不安定要素が非常に多く、細かな対応も含めるとオーバーヘッドばかりが目立ちます。拠点ごと海外に移す・直接運用するようなアプローチは未経験なので何とも言えませんが、弊社のような中小企業が利用するには無理があるという印象でした。できれば内製化、百歩譲って国内企業への外注というのが現在の弊社のスタンスです。日本の国力が著しく低下し、国内企業からの発注が減衰しない限りは需要があるものだと思います。


4.将来的にプログラマという職業は減るので自然な流れである

将来的なプログラミング言語の発達により、抽象化が進んで障壁が下がることによって多くの人が気軽にプログラミング相当のことができるようになり、専門職としての需要は減るだろうという意見です。私はこの意見には懐疑的なのですが、ある意味で大学教員らしい先進的なご意見だったと思います。細かな議論は長くなるので他の回に譲りますが、ロボットがロボットを創造する時代がいつ来るのかという SF 的な視点に近い議論ではないでしょうか。あくまでもタイムスパンの問題であり、十年以上前から「消える言語」と言われ続けた COBOL エンジニアの需要がまだまだ居る状況一つを鑑みても、プログラマの仕事量減少は早すぎる議論だと思います。現時点で職業が減ることを懸念してプログラマを選ばないのであれば、もっと他の職業のことを心配するべきでしょう。


今回は、オバマ大統領が「全ての人よ、プログラミングを!」と演説をする一方で起きている日本の大学卒プログラマの減少を、慶應 SFC を例に話しました。冒頭で述べたように他大学、他学部も含めた考察は必要ですが、確かな傾向として存在しているように感じます。ものづくりの重要性云々を学生に対して説く前に、我々企業としても実際の開発の現場、雰囲気、やりがいなどを魅力として発信する広報活動や、アイディアコンペなどではない職業体験としてのインターンやアルバイトなどを通し、何か些細なことでもあれば直ぐに「ブラック企業」とレッテルが貼られる昨今の現状を打破していくことが急務ではないでしょうか。やはりここは「ポジティブなプログラマを題材としたマンガ」がですね…(以下略

執筆:株式会社ネットマーケティング 久松 剛
記事提供:株式会社ネットマーケティング