前回の当コラムでは、クラウドの始まりから現在に至るまでの経緯などを通し、クラウドが何であるかについて考えました。先日私が登壇した勉強会でも質問があったのですが、オンプレミス環境にどっぷりと浸かったエンジニアほど、クラウドの導入には慎重である傾向が強いです。

今回からは前後編に分け、オンプレミス環境を背景とするエンジニアの視点から、主に AWS(Amazon Web Services)に携わり始めてから1年の感想をお話ししたいと思います。既にクラウドを導入済みの方も、これから導入を検討している方も、クラウドを訝しく感じておられる方にも参考になれば幸いです。
 
私が1年間、クラウド環境を運用してみて感じたメリットは以下の3点になります。

1)コストが従量課金であること
2)ハードウェアの制限がないこと
3)オペレーションを行うに当たって場所の制限がないこと

次にそれぞれの詳細について見ていきましょう。
 
1)コストが従量課金であること
 
通常のオンプレミス環境でのサービス開始時に必要な事柄をリストアップしてみると、データセンターを探し、ラックを契約し、回線を契約し、サーバを買い、保守契約をして…と様々な課題があります。その煩雑さはもはや参入障壁に数えてしまって良いでしょう。

2000年前後だと、サービス開始のコストを削ってしまったが故に「あの○○というサービスですか?あそこに座っている彼の足下の PC でやっていますよ。彼の足癖次第でサービスが止まります(笑)」とか「ここだけの話、自宅にあります」「退役したデスクトップ PC で運用しています」という話をよく耳にしました。BCP(Business Continuity Planning)などと言うまでもなく、こうした運用方法はリスクしかありません。多くの場合、ブラウザ越しにクリックすれば環境が用意されるクラウドでは、このようなサービス開始時のコストは大幅に削減されます。

サービスが波に乗ると出てくる問題が“サーバの増強”になります。オンプレミスの環境でよく受ける相談には「まだリース期間内なので今あるサーバを強くしたい」「これ以上サーバを置く場所も接続するスイッチも電源も無い」「(キャンペーンやイベントで)一定期間だけ強くして欲しい」という制限が同時に追加されるケースが多くあります。これがクラウドだと、例えば AWS の場合であれば、用意された複数のプランをブラウザから選択・切り替えることによって実現できてしまいます。

サービスがめでたく継続して行くと悩ましいのが“設備の更新”です。クラウドではクラウド事業者にハードウェアの更新計画を任せることができるので、サポート期限や更新スケジュール、それらに向けた予算組みを気にしなくて良いというのは大きなストレスの軽減となります。

私が以前遭遇した現場では、サポートが2年以上前に終了したファイルサーバが障害発生源となっていました。故障のリスクについて質問したところ、「同じ筐体が他に5台あるので大丈夫です」と返ってきましたが、そういう問題ではありません。もちろんこの点についてはクラウド事業者も真っ当な運用をしていることが前提となりますが、これについての言及は次回にしましょう。

サービス終了時も然りです。オンプレミス環境では「知っているかも知れないけども××というサービスが終了したでしょ?半年くらいしか動いてないのだけど、そのときに使って居たサーバ、要らないかなぁ?」という話が持ちかけられることがちらほらありました。利益が見込めないからサービスを撤退するということはよくあるわけですが、物理的にサーバを買うとして、二束三文にしかならない現状を鑑みると後始末が面倒です。リースにしてみてもサービス終了時期とリース期限と照らし合わせると難しさが残ります。

2) ハードウェアの制限がないこと

 
大学時代の話になりますが、かつて某社製ファイルサーバが導入開始直後から数回にわたってディスク不良に見舞われたことがありました。ディスクが飛ぶ→夜中にサービスに交換してもらう→交換中にもう一本飛ぶ→次の日の夜中にサービスに交換してもらう…という、引きの強いプロジェクトではありがちな災難でした。
 
また、障害を解消するために機器交換が必要な場合には「今から秋葉原・家電量販店に行ってきます」ということもよく耳にします。当然ながら障害が夜中であれば「明日朝一で」という言葉がこの報告の頭につくわけです。

多くの場合、この交換が必要な機器とはサーバだったりネットワーク機器だったりするわけですが、その間サービスは止まってしまう場合もあるわけで、ものの本には「必ず予備機を用意しましょう」などと書いてあるわけです。

当社サービス「Omiai」の場合、まだオンプレミス環境だった時代に業務委託先管理のデータセンターにて、まさにこれが起きました。そのときは仮復旧まで5時間ほど停止し、完全復旧までにはネットワーク機器の調達も含めて半日以上かかりました。
 
これに対してクラウドであれば仮想環境に障害があった場合でも、データを外に持っておいたり、リアルタイムにバックアップを行ったりする構成にさえしておけば、気軽に新しい仮想環境を立てることができます。

3) オペレーションを行うに当たって場所の制限がないこと
 
いつの時代も、障害が発生すると緊急連絡が入るのがサーバ管理者の宿命です。オンプレミスの環境において、オンラインで調査して原因が特定できないと判断されると、何が起こっているのかを現地に確認しに行かなければならないケースが発生することが常でした。データセンターの運営事業者についても電源の ON/OFF 以上の対応はサポート範囲外というのが大多数ですので、どうしても緊急時にはデータセンターに駆けつける必要がありました。社内で24時間交代制が取れる大企業で無い限りは、この時点で障害復旧時間が“+約1時間されること”が一般的に思います。

これがクラウドだと、ハードウェアやネットワークの障害であればクラウドサービス事業者の範疇です。また、その上の仮想環境に問題があった場合でも、ブラウザ経由で遠隔操作して再起動したり、サーバを作り直したりすることができてしまいます。事実、私も夜中に異常の報告があった場合であっても、布団の中から手元にある iPad からアクセスして確認・対応したり、参照系データベースの追加のような重作業ですらもベッドの隣にある PC の前に這い出れば作業したりできるので、実質半畳以内の動きで緊急メンテナンスができています。このことが何を意味するかというと、専属オペレータの移動負荷軽減、障害時間の短縮もさることながら、オペレータの人数削減にも繋がるということです。
 
今回はクラウド環境のメリットを中心にお話ししました。しかしデメリットがあることも事実です。次回はクラウド環境でのデメリットに注目して話をしてみましょう。

執筆:株式会社ネットマーケティング 久松 剛
記事提供:株式会社ネットマーケティング