これまで弊社のコラムは広告事業に関するマーケティングのコンテンツでしたが、今号よりメディア事業として弊社が展開しているマッチングサービス「Omiai」の開発、インフラ、マネージャを担当している私が記事を担当させて頂くこととなりました。レイヤも分野も異質ではありますが、ご一緒頂ければ幸いです。第一回目の今回は、IT 革命の渦中に居た学術出身インフラエンジニアの視点から見た IT 業界の変遷を、私の経歴を交えながら触れたいと思います。

2012年6月に入社する前は2000年より慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに在籍し、広帯域リアルタイムビデオストリーミング、次世代インターネットの研究開発と基盤技術の運用に関わってきました。私が参画した当初は IT 革命真っ盛りであり、その勢いに魅了されたものです。

2000年代前半当時、学術インフラ業界ではどういった未来図を描いていたかを振り返ってみます。このころの家庭用のインターネット接続は ISDN から ADSL へと切り替わり、光ファイバーが導入され始めた頃合いであり、広帯域インターネットを日本に普及されるための足かせはラストワンマイルと呼ばれる家庭への接続方法にありました。また、光ファイバーを普及させるためのキラーアプリケーションとして挙がっていたのが VoIP(電話)とビデオストリーミング(放送)でした。

当時、インターネット経由でビデオ転送するとなると RealVideo が主流であり、一般にはまだ「ドットが動いている小さな窓」を再生するのが関の山の時代でした。ですが、我々が取り組んでいた広帯域リアルタイムストリーミングシステムは、地上アナログ放送と同等の品質を32Mbps で電送することができたために引き合いが強く、産官学共同プロジェクトも多く立ち上がり、国内外問わず幅広くイベント事に利用されていました。

当時の我々が掲げたキーワードが「通信と放送の融合」でした。通信と放送が融合された場合の前提として、この一本32Mbps の動画が TV 放送に使われた場合を想定した議論がなされていました。『各家庭に1本ストリーミングを流すと32Mbps、各家庭にTVは3台あるだろうから100Mbps は必要。そして人はザッピング(チャンネル切り替え)をするために、これをスムーズに実現しないと行けない。となるとキー局の数(東京の場合は5局+NHK 総合+NHK 教育)は予め転送しなければならない。つまり各家庭に1Gbps の光回線は必要なのだ。そのためには地域網もバックボーンもばんばん増強しなければならない。インフラの研究開発はこのためにある』と。インフラ業界の発展は永遠であり、ユーザーからも発展が絶えず求められるものだと信じて疑わなかった時代でした。

一方、2004年には Facebook、Orkut、mixi、まだ SNS だった頃の GREE が誕生しました。当時の学術インフラ業界ではどう反応していたかを思い出してみると、ここまでお金を生み出すものになるという見方にはなっていませんでした。所詮は http で行われている一サービスであり、当時トラフィックを大幅に伸ばしていた P2P ファイル共有システムの動向の方が、コンピュータサイエンスという観点からも注目を集めていました。今振り返ってみると「キラーアプリケーション」という言葉に捕らわれ過ぎ、Web ブラウザという1アプリケーションの上で起きている事象を過小評価していた節もあったように思われます。

その後2006年頃からは長引く不況の元、次第に産官学のうち「産」からの声が掛からなくなっていきます。広帯域ストリーミングを生業としていた我々が受けた打撃は、2007年「Ustream」の登場によるインターネット中継の一般化、2008年「YouTube」のMP4対応によるインターネットを媒体としたハイビジョン品質ビデオの日常化、そして2008年「iPhone 3G」に口火を切ったスマートフォンの普及による PC からモバイル環境へのシフトと続きます。

2004年に当時の我々が軽視していた SNS は堅調に伸び、2006年に騒がれた Web2.0という言葉に見られるように、インターネットトラフィックの中心は1アプリケーションに過ぎないと思われた Web ブラウザへと集約されて行ったのは記憶に新しいところです。こうした時代の流れとともに、インターネット接続自体が世界中の情報にアクセスできる「特別なサービス」から、電気・ガス・水道と並ぶ「生活インフラ」へとなり、同時にインターネットの流れが技術屋主導からユーザー、もっというと消費者主導となったのだと感じました。

更に2009年政権交代と2010年事業仕分け、2011年東日本大震災が決定的となり「官」との関係性の変遷とともに学術インフラ業界は苦境へと突入していくのですが、それはまた別の機会にしましょう。

昔話を交えるコラムと言うと往時を懐かしむものが中心ですが、振り返り、考え方や時代の流れを整理・分析し、将来に生かす文章は非常に少ないと捉えています。また、インターネットの歴史と称して技術や機器を取り上げることはあっても、当時の考え方を振り返ることはあまりなされません。ドッグイヤーと呼ばれる IT 業界にあって、ものの考え方の変遷を反省もしつつ振り返り、現在、そして将来について当コラムでは触れていきたいと思います。

執筆:株式会社ネットマーケティング 久松 剛
記事提供:株式会社ネットマーケティング