ソフトバンクモバイルは、知的障害者の日常生活支援を目的として、ソフトバンク・フレームワークスアイエスエフネットハーモニー富士ソフト企画NPO 法人自立支援センターむくと共同で、移動時の行動をサポートする「AR(拡張現実)ナビゲーション機能」や、保護者が利用者の行動を把握できる「行動判定機能」など、スマートフォンを活用した機能のサービス化を目指している。

現在これらの機能およびサービスは試作・検証段階で、リリース日程や対応端末などの詳細は未定となっているが、3月16日に東京都中野区で行われた実地検証の場に同行させてもらったので、その様子をレポートする。スマートフォンが持つ大画面タッチパネル、GPS センサー、クラウドとの連携などの特長は、障害者のサポートにどのように役立てられるのだろうか。その可能性を探ってみたい。

なお、今回の実地検証には、実際に知的障害者とその保護者が参加。主に「AR ナビゲーション機能」と「行動判定機能」を体験してもらい、その感想や意見を今後の開発に活かすのだという。

「AR ナビゲーション機能」の実地検証の様子
「AR ナビゲーション機能」の実地検証の様子

■画面に映し出された矢印が行きたい場所へ利用者を誘導する「AR ナビゲーション機能」

「AR ナビゲーション機能」は、スマートフォンのカメラを通して表示させた目の前の風景に対して、事前に設定した目的地の方向を矢印で示して道案内するもの。現在位置や向いている方向の把握には GPS を活用し、カメラが向いている方向に道案内を正確に表示させている。利用者が地図を見なくても目的地までのルートを直感的に把握できる点が大きな特徴だ。

実地検証ではチーム別に目的地を設定。筆者は中野区新井のアイエスエフネットハーモニー事務所を出発地点とし、およそ 550m 離れた中野区役所に向かうチームに同行した。

そこで参加者はまず、目的地を設定するためスマートフォンの画面の機能一覧から「AR ナビ」(仮称)を選択し、事前に登録された周辺の施設情報のうち「中野区役所」を選択。するとカメラが起動し、画面上にはカメラを通して実際の風景、その上に目的地の方向を示す矢印と目的地までの距離が表示された。

画面を確認しながら目的地に向かう参加者
画面を確認しながら目的地に向かう参加者

その後参加者は画面上で矢印の示す方向に向かって出発。途中の交差点などでは矢印が示す方向から進む方向を判断しながら歩行を進め、ほぼ迷うことなくおよ そ10分程度で目的地に到着できた。続いて中野区役所から北東へ約1.5km のところにある西武鉄道新井薬師寺前駅へも矢印に従って進み、およそ20分で到着できた。

「AR ナビゲーション機能」画面
「AR ナビゲーション機能」画面

無事に目的地に到着し終えた参加者からは「矢印で行く先が表示され分かりやすい。初めての場所でも安心して目的地に向かえた」との感想が聞かれた。一方で、複雑な道が交差する路地裏などでの使用、継続使用によるバッテリーの大量消費などが今後の課題としてあがった。これらに対して、開発担当者らは引き続き機能の改善を図るほか、より安全に使用する方法などを模索し、今後サービスとして提供できるよう実地検証を重ねていくとしている。

■「予定」と「実際の行動」の差異から異常を察知する「行動判定機能」

次に行われたのは、「行動判定機能」の実地検証。この「行動判定機能」とは、スマートフォンにあらかじめ利用する人の「予定の行動」(「時間帯」と「エリア」)を設定しておくことで、「実際の行動」と比較し、異常があった場合に保護者などが事前に登録したメールアドレスなどに通知する機能だ。スマートフォン=利用者の歩くリズムや動くスピードなどから「停止」「歩行」「車」「電車」の4つの状態を推測し、予定されている行動との比較で違いを判断。利用者が道に迷ってしまった、電車を乗り過ごしてしまった、といった行動を見逃すことなく察知し、利用者に想定されるリスクを回避することが期待できる。

「行動判定機能」の利用イメージ
「行動判定機能」の利用イメージ

通知先メールアドレスや予定の行動を登録する画面
通知先メールアドレスや予定の行動を登録する画面

実地検証では、参加した知的障害者(=スマホ利用者)とその保護者がペアになって参加。スマホ利用者は「予定の行動」を登録したスマートフォンを片手に外出し、保護者はインターネットにアクセスできる環境で待機してその機能の実効性を検証した。

なお今回は2パターンのシチュエーションで検証を実施。ケース1は「電車に乗って移動しているはずのスマホ利用者が電車に乗っていない場合」、ケース2は「電車を降りているはずのスマホ利用者が電車を乗り過ごした場合」となる。

ケース1では、スマホ利用者が15時50分に中野駅から新宿駅に電車で移動する予定を登録。実際には登録した時間帯に電車に乗らず、中野駅付近を歩いて過ごし予定外の行動を取ることで、保護者に通知が届くかという検証を実施した。

その結果、スマホ所有者が中野駅付近で歩行中、15時53分の時点で、保護者が登録したメールアドレスにスマホ所有者の「状態」(「停止」「歩行」「車」「電車」のいずれかの状態を示すアイコン)と「位置情報」が通知された。

行動履歴閲覧画面では利用者の状態(アイコン表示)と 位置情報を知ることができる
行動履歴閲覧画面では利用者の状態(アイコン表示)と
位置情報を知ることができる
 
位置情報は詳細な地図で確認することもできる
位置情報は詳細な地図で確認することもできる

また、予定外の行動を取った場合には、スマホ利用者自身にも予定の確認通知が届き、スマホ画面に確認用メッセージが表示された。なお同画面では、会社や保護者などの宛先と自分の状態を選択して連絡を行うこともできるという。

利用者のスマホにも予定の行動を確認する画面が表示される
利用者のスマホにも予定の行動を確認する画面が表示される

ケース2では、中野駅から電車に乗り16時15分頃新宿駅で降りるという予定に対して、実際には新宿駅を通過し四ツ谷駅で電車を降りた。その結果、16時18分頃に四ツ谷駅を出発する際に、ケース1と同様保護者の元に通知が届き、体験者のスマートフォンにも確認画面が届いた。

これらの実地検証を通して、保護者からは「体験することで使い方のイメージが持てた。分かりやすい」との感想や「事前に(利用者の)状態を把握できるので、(利用者が)パニックになっても意思疎通がより早く行えそうだ」「(利用者)本人が自身の状況を話さなくても行動を把握できるのが良い」といった意見が聞かれた。

ソフトバンクモバイルなどでは、今後もこれまでに述べたような実地検証を重ね、利用する当事者の意見などを多く取り込み、将来のサービスリリースに向けた機能改善などを図っていくとしている。この実地検証は、あくまで基礎研究の一環として行われたものであるが、このような検証から得られた知見は、障害者の支援にとどまらず、利用者の行動支援・生活支援のためにスマートフォンが果たせる役割を模索するものとして、意義のあることだと言えよう。今後の更なる研究開発と実用化に期待したい。