理化学研究所NEC は、量子ビットのエネルギー緩和率を増大することなく量子ビットの読出し信号を増大させる手法を実証し、量子ビットの読出し精度90%を達成した。

これは理研基幹研究所物質機能創成研究領域 単量子操作研究グループ 巨視的量子コヒーレンス研究チームのツァイ ヅァオシェンチームリーダーらの研究チームの成果だ。

PC をはじめとするコンピュータのほとんどでは、0または1を記憶する「ビット」が、情報の基本単位として動作している。次世代コンピュータとして研究が盛んな量子コンピュータでは、ビットに相当するのが「量子ビット」であり、量子ビットの状態の正確な読出しが、量子コンピュータの実現に向けた重要な課題となっている。

現在、量子ビットと LC 共振器を結合させ、量子ビットの状態に応じて共振器の共振周波数が変化することを利用する「分散読出し」と呼ばれる方法が盛んに研究されている。分散読出しの場合、量子ビットの状態を判別するための信号強度は、量子ビットと共振器の結合を強くしたり、量子ビットと共振器の共振周波数を近づけることで大きくできるという。しかし、いずれも、量子ビットのエネルギー緩和率を増大させるという欠点があった。

理化学研究所と NEC、量子ビットを高精度に読み出す新回路を作製
分散読出し原理

この欠点を克服するために、2007年に米国のイェ―ル大学の研究グループは、「量子ビットの高エネルギー準位状態を用いる手法」を理論的に提案していたが、実証には至っていなかった。

研究チームは、磁束型量子ビットと LC 回路をコンデンサーで介して接続した回路を作製して実験したところ、読出し信号を5倍以上に高め、また、実際に量子ビットを90%の精度で読出すことに達成した。今回の成果は、量子計算のエラー訂正において必要となる「1度の試行による高精度読出し」にも応用できるという。

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今回作製された回路

研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「量子サイバネティクス−量子制御の融合的研究と量子計算への展開−」と、内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST プログラム)「量子情報処理プロジェクト」として行ったもので、研究成果は、米国の科学雑誌「Physical Review B Rapid Communications」のオンライン版に掲載された。

なお、現実の量子ビットで例えば1状態を準備すると、ノイズなどの影響により、ある確率で勝手に0状態に変化してしまう。これを「エネルギー緩和」といい、エネルギー緩和が単位時間内に起こる確率を「エネルギー緩和率」という。

「分散読出し」とは、量子ビットの読出し方法の1つ。量子ビットと共振器を結合し、量子ビットの状態に応じて、共振器の共振周波数が変化することを利用する。このとき、量子ビットと共振器の共鳴エネルギー差が結合のエネルギーに比べて十分大きいことが必要。共鳴エネルギーが大きく異なるため、量子ビットと共振器は直接エネルギーのやり取りをしない。これにより量子非破壊測定が可能となる。