Finance

ファイナンス

Fixing a hole

岡崎良介
2005年4月5日 / 12:40
 
冬のボーナスが漸く上昇に転じた。毎月勤労統計によれば昨年冬のボーナスは5人以上の事業所で、8年ぶりのプラスとなる前年比+2.7%を記録した。これまで冬のボーナスは2003年までの7年間で実に17%もの下落したので、幅としてはまだまだであるが、意味するところは大きい。何故なら今夏のボーナスも、2年ぶりに増加しそうであるからだ。これで冬・夏と1年を通してボーナスがプラスになるのだが、これは実に9年ぶりの快挙である。

消費というものは、所得が増え、同時に購買意欲をそそられるものが目の前に揃った時に爆発する。確かに今、買いたいものはある。デジタル家電、モデルチェンジした車、新しいデザイン家具。昨年あたりからじわじわと市場に浸透してきた商品が、今年は飛躍的な売り上げを見せそうである。価格も低下し、同時に商品が多様化していることもこれを加速させるだろう。

産業別に昨年冬のボーナスを見ると、鉱業や建設業などでは二桁の伸びである。不動産業も9.8%。これに製造業、サービス業、電気・ガス業と続く。しかし、卸売り・小売業、金融・保険業だけはまだマイナスの数字となっている。どうやらこの分野だけはまだデフレが終わっていない。とは言え就業人口全体の8割がたが脱却出来たのだから、あとは時間の問題である。年内に所得デフレはすべての分野で終わるだろう。

始まりがそうであったように、終わり方にもまた順番がある。デフレは、すでに株デフレが2003年春に終わり、不動産デフレが2004年のどこかで終わった。次いで所得デフレが全体としては2004年暮れに終わり、残すところは消費者物価(CPI)だけとなる。

価格上昇は、昨年の素材産業の活況が表すとおり、川上部門では十分に浸透したといってよい。現在は川中部門を進行中であり、早晩、その流れは川下へ向かうだろう。少なくとも製造業の世界では顕著だ。まだ過当競争が続く家電分野では価格下落が止まらないようであるが、これも今年は商品が多様化することで上昇に転じるだろう。

原材料となる鋼材価格が2割方上がっている自動車では、すでに実質値上げ攻勢が始まっている。消費者が欲しがる物は在庫が減っているのだから、わざわざ先回りして値下げすることも今年はない。売り上げさえ伸びていれば怖くないのだ。

以前のこのコラムでも書いたが、デフレの本質は労働市場にある。リストラや採用抑制で失業者が増え、フリーターと呼ばれる安価で優秀な若年労働力が溢れかえっている世の中では、物の値段は下がるのが必然であった。労働の需要側である経営者の方では購買力=採用意欲が減り、供給側である新卒者達の労働コスト=賃金は劣悪な雇用契約によって下がり続けていたのだから、政府が何をしようとデフレは止まらない。減税をしようが金利を下げようが、意味がなかったのである。

賃金が下がる一方で失業者が増える。当たり前の現象であるがこれが数年続くと、一旦、賃金が下がらないまま失業者だけが増える、という事態に遭遇する。雇うほうも雇われるほうも給料が減るのはいやだから、しわ寄せは採用に来る。さらに会社の利益が減ると今度は配当が削られ株デフレを引き起こす。さらにもっと不況が続くと、今度は利益もなくなり、いよいよ、賃下げ、そして更なるリストラという悪循環に陥る。

こうして現在に至ったのだが、来た道をこれからそのまま戻るかというとそうではない。時間が経過しているからだ。やっとデフレが終わった、景気がよくなった、人を雇おう、と明るい雰囲気が広がるのだが、採用するのは今春卒業する人達で、これまで何年もの間就職を断られてきた人達ではない。卒業したばかりの最も安価で 良質な1年分の労働供給に対して数年分の労働需要が生まれれば、ボトルネックが起きてしまう。思っても見なかった人手不足が起こるのである。

ならばもっとパート・アルバイトを増やそう、というのが雇う側の考えであるが、みんなが一斉に増やそうとすれば、当然、ここにもボトルネックが発生する。賃金が上がるのだ。そもそも同じ仕事、いや物によっては正社員以上の仕事をしていながら、不当に低賃金に抑えられているのはおかしい。同じ仕事をしているならば正当な賃金を要求するのが当然であり、それが出来ないというのなら国が守ってやらねばならないはずである。日本は民主主義の国ではないか。いつまでも弱いものいじめを許してはいけない。

これまで長く虐げられてきた人たちが復権する時が来たのである。価格交渉力を持たない人たちが自らの労働力に対する需要が逼迫していることに気づき、連帯するときに時代は大きく転回する。もはや大企業に労働組合などは必要ないが、どこにも属していないパート・アルバイト、そしてフリーター達には、これからの時代、政治力が必要不可欠となる。

不当な差別を許してはいけない。ここにこそぽっかりとあいたデフレの穴があるのだ。そしてこの穴をふさぐ時、デフレはインフレへと劇的に変わるのである。
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