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オルタナティブ投資への警告

岡崎良介
2005年1月25日 / 00:00
 
FRB が苦言を呈している。1月4日に公開された2004年12月14日の FOMC 議事録によると、一部のメンバーから“金融緩和が長期化したために、金融市場で「潜在的に過剰な」リスクをとることにつながった可能性があり、それを受けて信用スプレッドが異常に縮まった結果、IPO、M&A が増加し、不動産市場で投機目的の需要が高まった”との指摘があった。

事実、2004年の米国の信用スプレッドは異常に縮小した。ハイ・イールドと呼ばれる高い信用リスクをもつ債券と国債との金利差は、6月20日の495bp から12月20日の352bp まで1.43%も低下した。これを原動力として、IPO、M&Aの件数はうなぎ上りとなり、更には REIT などの不動産をベースとした金融商品も記録的な上昇を見せた。

通常、金融引き締め政策を進めれば、投機的な需要は減少する。しかし昨年の米国市場は金利を引き上げても、むしろこうしたリスク商品の価格が上昇したのである。

FRB はこれをバブルと判断した。議事録を通じて広くこの問題を市場参加者に伝えると共に、一部の大手金融機関、投資家達には得意の“懇談の場”を通じて耳打ちしたようである。“早く整理しなさい。さもなければかつての日本のように大幅な利上げをしなければならなくなりますよ”と。

この知らせを受けて米国市場は動揺した。レバレッジをかけ高いリスクを取るヘッジファンドは、とりあえずポジションの縮小に動くべく、それまで大きくウェイトをかけていた戦略を一斉に切り替えした。まず彼らが最も好むユーロが、2004年12月31日、歴史的な高値である1.36で折り返した。次いでナスダックが1月3日。更に、今年になってから2週間で米国のジャンク債ファンドはすでに7億1,100万ドルもの資金流出となっている。REIT は10%程度下落したし、胴元になって荒稼ぎしている大手金融機関の株も軒並み下げている。みんな FRB の怒りを抑えるように、粛々とポジションを整理しているのである。

しかしまだ肝心のハイ・イールドと国債との金利差は20bp 程度しか広がっていない。

問題は FRB の言う事を聞かない、否、正しくは言っている意味がわからない連中が世界には大勢いる、ということである。そしてその意味がわからない連中の殆どが、わが国にいるということをここで警告しておきたい。

運用難にあえぐ年金・生保は、昨年、揃ってオルタナティブ投資に乗り出した。これはそれまでの債券や株などの伝統的な投資とは異なり、絶対リターンを追及するリスクの高い投資である。運用するのはヘッジファンドに類するグループで、投資対象はよりリスクの高い株・債券・原油・不動産など。そしてそのお金の殆どがタックスヘイブンと呼ばれるカリブ諸島へと送られる。

財務省の「対外証券売買契約統計」を見ると、2004年1〜11月のカリブ諸島向けの投資額が、実に5兆8,000億円とそれまでの2.5倍以上に膨らんでいることがわかる。他にも、欧州、英国マン島でもこうしたオルタナティブ投資は運用されているため、全体ではもっと大きな数字になるだろう。

いずれにしろ2004年はとんでもない規模で日本から“過剰なリスクを取る”お金が流出したのである。そしてそのお金が、ヘッジファンドに投資され、原油を買い、不動産を買い、ジャンク債を買い、ユーロを買い、米国にバブルを引き起こしつつあるのだ。

資金の出所が米国であるならば、金利の引き上げも効く筈である。しかし出所が日本であるため効果がない。パフォーマンスを悪化させ日本からのオルタナティブ投資をあきらめさせるまで金利を引き上げるとしたら、その引き上げ幅は大変なものになる。

日本銀行が金利を引き上げ、日本での金利収益機会を増やせば解決するのであるが、彼らは今のところ無関心を決め込んでいる。今回もまた FRB が孤軍奮闘して過剰流動性を解消させようと躍起になるのであろう。だから FRB に近い連中は怯えているのだ。

例えば、野村 HD の株が年初から冴えない。株式の活況が続くのに株価が低迷するのは奇異に思われるかもしれないが、野村が日本を代表するグローバルな証券会社であることを考えれば当然のことである。野村はヘッジファンドとの取引も多く、自らも彼らに融資しプライムブローカーとして取引を独占しつつ、ファンドの成長を促進する。それだけでなく債券取引の分野では大量のジャンクボンドを保有しているし、最近では REIT などの不動産投資にも熱心である。従って、今回の FRB の警告に最も怯えた企業の1つである。

時間はかかるだろうが、日本にもその影響は伝播する。ナスダックに遅れて1月11日に折り返した日本株も、全体で見れば FRB の警告に従い始めたところと言ってよい。

しかし問題は資金の出所である年金・生保が、いつこうした事態に気が付くかである。彼らが自らブレーキを踏み、悪癖である集中豪雨的投資をやめない限り、FRB のバブル潰しは終わらない。そうなれば本当にかつての日本の二の舞である。

我々日本人は自らの国の大きさに未だに気が付いていない。謙虚であることは美徳であるが、だからと言って無責任な行動は許されないはずだ。
(記事執筆:岡崎良介)

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