■ユーザーの回遊に寄り添える自社サイトのあり方

さて、後編では中編に続き、ユーザーの回遊をトレースして積極的にコミュニケーション接点を確保する手法について触れてみたい。

コンテンツとターゲティング広告を中心に述べさせていただくのだが、なにぶん語るべき内容が多いため、後編そのものを2回に分けさせていただく。何卒ご容赦いただきたい。

ユーザーの回遊を想定した集客施策のプランニング(後編-1)
(図1)

図1のように、ユーザーは Web で情報を収集する生活行動の中で、触れた情報に感化され、商材やサービスへの興味関心を深めていく。その選考期間は商品の単価にもよるが、数日〜数か月ということもあれば即日ということもある。

ここで注意したいのが、ユーザーが商材に感化されたその日その瞬間、しばし決済に悩む短時間の刹那的な接点で成果を勝ち取る考え方と、ユーザーが商材への関心を高める期間に自社サイトと複数回接触し、ユーザーの信頼獲得を狙うブランディングを深めるという考え方があり、両者を切り分けられているのかどうか、という点だ。

図2
(図2)

例えば広告の運用を中心とした集客の場合、図2の中央部分に当たる、ユーザーが消費行動を始めサービス比較を開始してから決断に至るまでをターゲットとし、直接的な成果を狙う運用設計がおこなわれることが大半である。

図3
(図3)

一方で、ユーザーは図3のように、商材への興味関心にかかわらず、日々情報を求め Web を回遊する。その中で自社の扱う商材ジャンルについて「知りたい」と思った時、キーワード検索から自社サイトと競合サイトに接触(訪問)をしている可能性も高い。この繰り返しの接点の中で、ユーザーに自社サイトの魅力や競合との差別化ポイントを理解してもらい、消費する気持ちを高めてもらえる状態になる Web サイト作りが理想である。

また、Web 解析では、新規ユーザーの訪問獲得を KPI としているケースが多いと思われるが、同時に再訪問ユーザーの「割合」も重要で、新規の訪問者数が増加しながらも再訪問「率」が一定であることが望ましい。どれぐらいの割合が理想であるかは、商材やビジネスモデルによって異なるので一概には言えないが、訪問が成長する中で再訪問率が一定であるということは、少なくとも新規のユーザーが再び訪問してくれている状態であるといえる。特に EC サイトでは、リピート利用するユーザーの確保と長期利用の定着化が、自社サイトの収益に大きな影響を与えるため、再訪問率は KPI として見逃せない。

自社サイトで取り扱う商品やサービスが、就職や不動産情報、自動車の購入、医療や美容の相談など、頻繁にリピート利用されるタイプの商材ではない場合、再訪問が一定している状態は、初回の訪問で成果に紐付かない効率が悪い状態、と考えてしまうかもしれないが、実はそうではない。ユーザーは1回の検索や1回の Web サイト訪問だけで、サービスの利用を決めているわけではないのだ。

図4
(図4)

自社サイトの Web 解析で、再訪問や再訪問ユーザーからの成果獲得が新規訪問よりも極端に少ない場合、成果に到達するユーザーのほとんどが「すでにサービスの利用を決めている」ケースだと考えてよい。そのユーザー群は、オフラインのプロモーションですでに商材を理解済みであったか、もしくはメディアサイトや競合サイトで情報収集していた、以前から情報収集をしていて自社サイトには最初から利用前提で訪問した、といったことが考えられる。

中編でも述べているが、こういった状況の際の訪問経路は、自社サイトブランドを指名した検索や商材名を指名した検索による訪問が大半を占めると思われる。つまり、限定的なユーザーの受け皿としては機能しているが、それらのユーザーは競合サイトにも訪問する機会も同時にあり(図4)、SEO施策も広告集客の運用も、競合との激戦状態となる。

やがて、ユーザーと接触してからの成果獲得「だけ」を磨き続けると、消費行動のゴールに近く、投資対効果の高いユーザーだけを対象とした施策のみが深耕するという可能性が、大きな課題として浮かび上がる。広告施策によって市場で成果効率の高いユーザーセグメントの一定数にリーチした後は、成果の伸びしろも次第に縮小する。これは、結果的に「サービスを利用する気でいるユーザー」のみを対象としている状態に陥っているといえる。

成果効率の高いユーザーのみを対象とした施策は、競合との競争で広告への依存が高まり続けると集客コスト効率の改善幅も狭まり、最後は集客成果の成長鈍化を迎えることになる。
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■コンテンツ施策の真の役割

であるならば、ユーザーがサービス利用に至るまでのプロセス上で接点をより多く確保し、コミュニケーションをはかって集客の幅を広げられれば、さらに成果を拡大していけるのではいか?

そこで一番のキーとなるのがコンテンツ施策である。当連載の「SEO 戦略からみたコンテンツマーケティング設計の手法」でも詳しく述べているが、昨今は SEO 施策の一環として語られることが多い。しかし、本来は Web を回遊するユーザーに、適切な情報を提供することで自社サイトでの成功体験を創出し、ユーザーにとっての価値を創造してもらうためのものだ。

消費のゴールに近いユーザーのみを対象とする施策は、「便利」「簡単」「安い」「他とは違う」「今がチャンス」といった競合差別化や短期間での決断促進の訴求テクニックや、いかに個人情報を簡単に入力してもらえるか、気軽に決済ボタンを押してもらえるか、というユーザビリティの進化が際立って先行し、情報価値の提供による消費行動の初期段階のユーザーとの対話やコミュニケーションが軽視されがちになる。

図5
(図5)

しかし、実際は図5のように、ユーザーの気づきから消費ゴールまでの間はさまざまな情報収集がおこなわれる。このユーザーの行動にそった「有益な情報」をコンテンツとして提供し寄り添うことでユーザーの信頼を獲得、最終的には自社サイト内で決断してもらえる環境を作れば、アクティブユーザー獲得の歩留まりも向上する。ただし、あくまでもユーザーの気持ちや行動に呼応するコンテンツのラインナップを心がけよう。インパクト勝負の話題づくりコンテンツも大切だが、信用と信頼を得ることができるコンテンツ作りが基本になる。

図6
(図6)

具体的には、中編にも掲載した図6のように、コンテンツラインアップをマッピングして整理をしてみよう。ユーザーの行動を想定し、ユーザーの気付き体験の提供から、情報の更新性によるユーザー再訪問の誘引、迷った時の判断材料、サービス利用の決断を即す情報など、自社サイトに足りていない要素がコンテンツのアイデアとして浮びあがるはずだ。この辺りは自社サイトの競合となる(または貢献していただいている)アフィリエイトブログの記事を研究しても良いだろう。

もちろん、コンテンツラインナップの拡充は SEO の視点も意識しないと、そもそもの直接集客が成立しない。検索市場でボリュームの大きなキーワードの網羅や、論理的にページの位置階層を示すパンくずの組み立て、リンクの取り回しにも気を配ろう。

■ユーザーの回遊とコンテンツの関係

図7
(図7)

さて、コンテンツラインナップの拡充によって、消費シナリオの前段に近いユーザー訪問が増えると、自社サイトのコンテンツに感化されてサービス利用に至るユーザーが現れはじめ、成果件数が少しづつだが増加していく。

一方で、コンテンツによる集客が軌道に乗ると、それまでの消費ゴール間際の集客とは異なり、投下コスト的にも集客母数的にも、とたんに成果獲得効率が落ちたように見える。サービス利用を決断しきれていない、あるいは初めて接するユーザーが増加するため、どうしても相対的に成果効率は低下する。

そこで、Web 解析ではシナリオ前段のコンテンツに訪問したユーザーが成果に至るまで、どのような行動をとったかという勝ちシナリオと、成果に至らずに終わったシナリオ(決して負けではない)を分析して比較しよう。おそらく、サイト流入元となった検索キーワードやメディア、広告の配信面、クリエイティブがそれぞれ異なり、また流入後の平均ページビューや滞在時間も異なる。

また、成果に至らなかった訪問であっても、コンテンツによってユーザーの満足度がえられれば、再訪問を獲得できる。成果に至ったユーザーの訪問履歴は、Google アナリティクスのマルチチャネルレポートで、入口となったページと併用して見ることができる。

先述の平均ページビューや滞在時間と再訪問の履歴、再訪問の流入経路や検索キーワードをじっくりと読み解けば、「この検索キーワード流入はこの情報をチェックする」「この広告とこの入口は再訪問を得やすい」などなど、ユーザーと接点を持ってから成果に至るまでのさまざまな仮説が浮かび上がる。

それらの仮説を元に、勝ちパターンとなるユーザーシナリオに沿ったコンテンツラインナップの改善と拡充を図っていくことで、サイトそのもの集客体力も増し、成果獲得の効率は向上する。もちろんコストも時間もかかる作業だが、コンテンツは長期間の集客効果を発揮するWebサイトの資産である。これらの分析仮説とトライアル結果を決済者や経営層に理解されるように努力して、自社サイトの体力を養うブランド戦略としても有意義な施策であると認められるようにしたい。

次回、最終回となる後編-2では、ユーザーの回遊とターゲティング広告の関係について述べたい。

執筆:株式会社アイレップ 嘱託 デジタルマーケティングプランナー 床尾一法
記事提供:アイレップ