2013年5月7日、新たなニュース サイト「ハフィントンポスト日本版」が鳴り物入りでオープンした。日本版は、月間ユーザー数4,600万人、同投稿コメント数800万以上という本家米国のお化けサイト「The Huffington Post」の姉妹サイトである。米国以外では、すでにカナダ版、フランス版、スペイン版、イタリア版、英国版が運営中だ。日本版はアジア初のローンチで、2013年9月にはドイツ版の開設も予定されている。

ローンチ1週間のハフィントンポスト日本版、Huffington 氏が目指すのは「声」を集め拡散させるプラットフォーム
多くの報道陣が集まった
ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン ローンチ発表会

日本版ローンチに合わせて開催された発表会には、The Huffington Post の創始者で現在 The Huffington Post Media Group(HPMG)プレジデント兼編集長を務める Arianna Huffington 氏、日本版の運営会社ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパンの編集長に就任した松浦茂樹氏、HPMG CEO の Jimmy Maymann 氏、ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン CEO の小野高道氏、同社の代表取締役で朝日新聞社デジタル事業本部長でもある西村陽一氏、HPMG とともにザ・ハフィントン・ポスト・ジャパンへ出資した朝日新聞社から代表取締役社長の木村伊量氏が登壇。集まった報道陣に意気込みや運営方針を語った。さらに、後半のパネル ディスカッションで Twitter Japan 代表の近藤正晃ジェームス氏、LINE 執行役員広告事業グループ長の田端信太郎氏が参加し意見交換した。

左から、小野氏、西村氏、松浦氏、Huffington 氏、木村氏、Maymann 氏
左から、小野氏、西村氏、松浦氏、
Huffington 氏、木村氏、Maymann 氏

当記事は、まず発表会のポイントを整理する。その後、別途インターネットコム編集部がインタビューで Huffington 氏、Maymann 氏、松浦氏へ投げかけた質問に対する回答を紹介しよう。

Huffington 氏:「声」を集め、拡散させ、対話/議論の場としたい

Huffington 氏は、発表会の壇上で「voice(声)」という単語を繰り返し使った。議論のベースとなる話題は著名人だけが提供するものでなく、市井の人も多くの人が関心を抱くストーリを持っていると述べ、これまで声を出さなかった人々に声を上げられる場として使ってもらいたいとした。

そして、ハフィントン・ポスト日本版を対話/議論の場とするために、とにかく多くの声を集め、それを拡散させるプラットフォームとする姿勢を表明。そのためには、誹謗、中傷というカテゴリに入らない意見であれば自由に投稿してほしいとし、多様な声が寄せられるよう望んだ。

「声」という単語を繰り返し使った Huffington 氏
「声」という単語を繰り返し使った Huffington 氏

松浦氏:団塊ジュニア世代に「声」をあげてほしい

ローンチしたばかりのハフィントン・ポスト日本版について、見た目は国内の既存ネット メディアの延長線上にあり変わらないと話す。ただし、相違点はユーザーの声であり、ポジティブな意見交換が目的であるとした。

そんな松浦氏だが、実は国内ニュース サイトにネガティブなコメントばかり投稿される状況に失望し、「コメント欄はいらないのではないだろうか」と考えていたそうだ。しかし、The Huffington Post の「ネガティブなコメントは淘汰され、前向きに意見が集約される」仕組みに未来を見出したという。建設的で前向きな議論の場を実現することは難しいが、だからこそチャレンジすべきとしている。そして「議論しやすい記事」というものが存在するはずなので、それを編集力で打ち出したいと編集長の意気込みを見せた。

また、松浦氏自身が含まれるいわゆる「団塊ジュニア世代」に対して、この層の社会的責務が最も重くなり、日本を牽引する年代になるであろう10年後に向け、今から声を上げて準備してほしいと呼びかけた。

開設初日のハフィントンポスト日本版と松浦氏
開設初日のハフィントンポスト日本版と松浦氏

西村氏:真摯に、尊敬しながら意見を交わせる言論空間を作る

ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパンの代表取締役と朝日新聞社のデジタル事業本部長を兼任する西村氏は、紙の新聞は情報の一方的な供給者という性格が強かったと話した。そのうえで、誰もが情報ソースに接近できる現代は読者の参加型ニュース メディアが必要で、真摯に、尊敬しながら意見を交わせる言論空間を作ることが重要とした。

朝日新聞社も「朝日新聞デジタル」というオンライン メディアを持っているが、当面は独立したものとして、相互リンクなどでトラフィックを融通しあうといった形の連携を考えているようだ。とりわけ独立性に関しては、ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパンの最終的な編集権が編集長である松浦氏にあると明言し、朝日新聞社から口を出すことは一切ないと断言した。

参加型ニュース メディアが必要と話す西村氏
参加型ニュース メディアが必要と話す西村氏

記事の後半は、発表会の翌日にザ・ハフィントン・ポスト・ジャパンのオフィスで行ったインタビューをまとめた。

インターネットコム:米国の The Huffington Post はリベラル系サイトとして認識されている。日本版を政治系ニュース サイトとして売り出す場合、米国同様リベラルであることを全面に押し出すのか?

Huffington 氏:右派や左派といった枠組みは超越しており、特定の政党/政治家を支持するようなことはない。あくまでも、問題に対する考えを明確に示す。例えば、雇用促進や経済成長につながり、多くの人に恩恵がもたらされる可能性のあるアベノミクスといった政策は推していく。

インターネットコム:発表会で Huffington 氏は、メディアの最も重要な機能として「真実の探求」「事実にもとづく情報」を挙げた。誤った情報が記事やコメントに掲載されてた場合に備え、広まってしまった嘘を正し、正確さを担保する仕組みを設けているのか?

Huffington 氏:「真実の探求」「事実にもとづく情報」はハフィントン・ポストの編集ポリシーの中核だ。この点はきちんと監視していく必要がある。一つの具体例として、ブログに誤りがあった場合、24時間以内に間違いを正すための記事を新たに投稿するなどの対応をブロガーには求めている。

Huffington 氏
Huffington 氏

インターネットコム:日本人は自分の意見を公の場で表明しない傾向が強く、議論が進まないおそれがある。どうやって「声」を引き出し、議論の場を作っていくのか?

Maymann 氏:現在の日本は移行期にあり、原発や政治スキャンダルの影響でメディアに対する不信感が持たれている。真の声を伝える場所を提供する時期に差し掛かったのだ。最初の段階で著名人に寄稿してもらっても、その後で普通の人たちが自然についてくるはず。2005年に米国でスタートしたころブログは成熟した市場でなかったが、現在は5万人のブロガーがいる。1年半前にローンチした英国は5,000人、ローンチから24時間の日本でも50人になった。意見を出せるプラットフォームとして認識されれば、広がっていくだろう。

インターネットコム:日本版をローンチするにあたり、2年で損益分岐点をクリアするという目標を立てている。事業モデルは広告掲載による収益確保だが、日本版と他国は異なるのか? ほかのオンライン メディアが苦戦するなか可能性は低くないか?

Maymann 氏:日本版の事業モデルに違いはない。日本のオンライン広告市場には大きなポテンシャルがある。メディア利用において、日本のユーザーはパソコン/モバイル機器を多用している。それにも関わらず、6兆円規模といわれる広告市場で、現在オンライン広告シェアは15%しかない。ここに今後の成長が望める。

Maymann 氏
Maymann 氏

インターネットコム:コメント投稿が可能な日本のニュース サイトは、その多くが内容のないネガティブな書き込みで溢れている。ネガティブな意見を排除し、建設的な議論を行える場になるようどう工夫するのか? また、ノイズと言っていいコメントが公開されているが、フィルタリングしないのか?

松浦氏:悪いところを指摘するばかりだったり、単に反対を述べたりするだけのコメントでは駄目。対話を育みたいので、編集部が「こういう意見はどうですか?」「Aという考えはどうですか? Bはどうですか?」などと働きかける。こうした取り組みで、自然にネガティブなコメントをなくしていきたい。また、意味のないコメントは、編集部やフィルタリング体制が学習期間にあるため表に出たと受け止めてほしい。

インターネットコム:掲載されている記事をみると、稚拙な内容のものも存在する。どうしてこのような記事を選んだのか?

松浦氏:こうした記事でも、編集部は掲載する。ユーザーの声を預かり、その結果ポジティブな議論が巻き起こると判断したからだ。(インターネットコムが「石を投げるようなもの?」と聞いたことに対し)(議論という波紋を起こす)石になればいい。ただし、石を投げ合う(相手を攻撃する)低レベルの議論は駄目。記事選択の判断基準は今後きつくなるかもしれないし、ゆるくなるかもしれない。やはり学習期間にある。

インターネットコム:発表会では、朝日新聞社との連携についてハフィントンポスト日本版と朝日新聞デジタル間で相互リンクしてトラフィックを融通する、という取り組みが紹介された。コンテンツ配信といったより深いレベルの協業はありえるのか? また、テレビ朝日との連携の可能性は?

松浦氏:コンテンツ配信などは先々やるかもしれない。その場合、対象は朝日新聞に限らない。もちろんテレビ朝日との連携も考えられる。

松浦氏
松浦氏

ハフィントンポスト日本版ローンチ初日は、記事本数が少なく内容的にもがっかりとの声を耳にした。しかし、それは高い期待が裏返しになった拙速な反応だ。この段階で生まれたばかりのニュース サイトに判断を下すのは時期尚早だろう。事実、1週間たった今、記事の数と種類、寄稿ブロガーが増え、コメントも活発に書きこまれている。安倍晋三首相がブロガーとして参加するという発表もあった。

その発表記事には、Huffington 氏と松浦氏が安倍首相を挟んで立つ写真まで掲載された。報道メディアのトップと編集長が一政治家と並んで写真に収まることを疑問視する声はあるが、ある意味ハフィントンポストらしいといえる。保守や革新、右派や左派を区別せず、さらに硬軟とりまぜた話題を取り上げて幅広い読者を集め、多様な意見を交換できる「良質な言論空間」を作りたいという姿勢の表れとみればよい。

松浦氏が「学習期間」と話すように、これからハフィントンポスト日本版はいろいろな面で成長していくだろう。それにはユーザーの議論への参加が欠かせないが、参加者をどうやって増やすか。松浦氏率いる編集陣の腕の見せ所だ。

なお、発表会終了後、出席者にはお土産として紅白饅頭「ハフポ饅頭」が配られた。これは、Huffington 氏が日本の「omotenashi(おもてなし)の心」を我々に返してくれたのだろう。この姿勢を維持し続ければ、多くの声が集まるかもしれない。

ハフポ饅頭
ハフポ饅頭