あるホワイトペーパーを作るため、多国籍企業の Web サイトや著名なポータルサイトの一覧を対象に中国国内からのアクセス速度を調査していたところ、中国国内から www.yahoo.com へのアクセスだけが「中途半端」な速度のデータを示していることに気づきました。

Apple や FedEx といった著名な多国籍企業の多くは、世界で最も CDN サービスのシェアを持つ Akamai を採用して Web を配信しています。当然、Akamai のサーバーは日本を含め世界中に存在しますが、Akamai は現時点では中国の中には自前のインフラを持っていない模様です。そのため、Apple や FedEx の Web サイトに中国国内からアクセスすると、アジアの近隣の国に設置されているとみられるサーバーに接続しにいきます。ただ、中国から国外に出るインターネット接続の品質は常に悪いため、当然そのような Web サイトへのアクセスは速度面で課題があります。

こうした Web サイトの場合、通信の遅延(レイテンシ)は北京からの計測では概ね100〜150ミリ秒程度で、PC の Web サイトでは日本の感覚で「遅い」と感じる水準です。一方、中国国内にサーバーが設置されている Web サイトの場合、概ね20〜40ミリ秒の範囲に収まるため「中国の中にサーバーがある」ことが体感できます。Yahoo! の中国版である中国雅虎(yahoo.cn) も中国国内にサーバーが設置されており、北京からの同様の計測では15〜20ミリ秒台を示していました。

筆者はこの調査を行うため、「一つの URL だけで各国向けの Web サイトを公開している多国籍企業」を50サイト分、リストアップしました。例えば www.cisco.com、www.united.com、www.goldmansachs.com というようなサイトです。すると、www.yahoo.com だけが平均60ミリ秒台のレイテンシを示していました。中国の中にあれば北京・上海からは概ね40ミリ秒以内、中国の外であれば100〜150ミリ秒とすると、この60ミリ秒台は特徴的に映ったわけです。そこで www.yahoo.com への経路を調べたところ、中国国内からアクセスした場合には Yahoo! 奇摩(Yahoo!の台湾版)に近いサーバーから配信されていることがわかりました。

本コラムでは過去に触れていますが、中国と台湾の間はインターネットの接続性がこの1年で急速に改善しており、中国側の通信キャリアと台湾側の通信キャリアが物理的な海底ケーブルの接続だけでなく、ピアリングと呼ばれる相互接続も実施し始めていることを確認しています。

ここからは筆者の推測ですが、Yahoo! が中国からの www.yahoo.com へのアクセスを台湾に置いている背景には、「台湾であれば中国の中からの通信速度も良好であること」、「台湾の法規制は中国のそれとは異なるため www.yahoo.com のコンテンツを置くことの法的リスクも小さいこと」が考えられます。なお、中国雅虎はアリババとの提携によるものであるため、www.yahoo.com という米国のコンテンツを置く場所として中国版と兼ねるとの案は適切ではないでしょう。いずれにしてもYahoo! 自体が中国から見れば外資企業である以上、www.yahoo.com を中国の中にあるサーバーから配信しようとすると、今度は新たに事業ライセンスの問題が発生することから、この方法は容易ではありません。

なお、www.intel.com、www.nike.com、www.cisco.com の3つの Web サイトは(上に挙げた条件で筆者が確認できたのはこの3サイトのみ)、中国以外の国や地域では Akamai のサーバーから配信されていますが、中国国内では Akamai が提携していると推測される ChinaNetCenter という中国の CDN 企業のサーバーから配信されており、北京・上海からも繋がりやすい環境にあることが分かりました。こうしたデータは調査をする PC のアクセス元の ISP によって異なる結果となることもあることから、念のため中国電信、中国聯通、中国移動の3キャリアから接続して計測しています。

今回の50サイトに対する調査で、台湾のデータセンタを活用している Web サイトは www.yahoo.com のみでした。「中国国内からの接続が速い」にも関わらず、「中国のインターネット規制を受けない場所」という組み合わせは、台湾活用の特徴です。中国国内にサーバーを置くことが様々な理由で難しいコンテンツは多くありますが、こうして台湾から配信する実践例が確認できたということは、同様の方法を採る企業が出てきてもおかしくなさそうです。

執筆:株式会社クララオンライン 家本賢太郎
記事提供:株式会社クララオンライン