第一回目では中国のパブリッククラウドサービスの現状をご紹介しましたが、第二回目の今日は、中国のパブリッククラウドは日本や欧米と同様に普及するのか、というテーマでお話しようと思います。

欧米や日本に関して言えば、Amazon の AWS がネットサービスからエンタープライズにまで拡がっている現状によって答えは既に出ていると考えます。しかし、中国では未だパブリッククラウドの普及の可能性が見えていません。

このテーマを議論するには、Google が中国での展開をしていない中、Amazon が AWS を中国に持っていくつもりがあるのか、中国国内のプレイヤーでは誰が勝者に近いのか、そして、そもそもパブリッククラウドが中国で根付く土壌は存在しているのか、というポイントを整理していく必要があります。今回は、中国のクラウドサービスの行方を考える上で重要なトピックスを様々な角度から整理します。

第一回でも述べさせていただきましたが、中国のパブリッククラウドサービスの市場には今のところ、Aliyun(阿里雲)や Grand Cloud (盛大雲)といったローカルプレイヤーがいますが、外資(外資が中国にそのまま入ることは出来ないので、ここでは外資との提携という意図です)の存在はなく、Amazon も現在は自社の EC 用のインフラを持つことだけに限られています。また Equinix や KDDI に関しても、データセンタサービスに特化しています。

その他、HiChina(万網)など従来からサーバーホスティングを展開してきたプレイヤーも存在しますが、サーバーを仮想化する VPS サービスの領域で留まっており、中国電信などのキャリアや GDS などのデータセンタ事業者も、その中心は事実上スクラッチで組むプライベートクラウドです。

そもそも中国にはパブリッククラウドサービスが普及する土壌はあるのでしょうか。前向きな意見を整理すれば、3G やブロードバンドの普及とモバイルゲームなどの伸長に伴い、トラフィックやサーバー負荷が増大するコンテンツが増えていることが挙げられるでしょう。中国国内の中堅規模のゲーム会社は、その多くがゲームインフラに何らかのクラウド(ただし、いわゆるプライベートクラウド)を使っており、クラウドの利点に関しては一定の理解が浸透しています。ただ、本格的なパブリッククラウドサービスを中国市場はまだ目の当たりにはしていない印象も残ります。

この背景には、現状のプレイヤーの構造が挙げられます。中国には Amazon AWS や Google が存在していないことと、Aliyun や Grand Cloud が国内でサービスを展開していることを先ほど述べましたが、ここに問題があります。アリババに競合するプレイヤーが Aliyun を使うことや、盛大に競合するゲーム企業が Grand Cloud を使うことは中国では考えにくいのです。Aliyun や Grand Cloud のサービスの善し悪しではなく、誰が提供しているかという点に目が行くという点からは、ニュートラルなポジションに立つ新たな存在が待たれます。

なお、Google が中国に戻ってくるかという点については、全く無いとはいえませんが、当面は無さそうです。Amazon に関しては水面下での動きは様々あるようですが、仮に展開したとしても Apple と同様に、中国当局とのバランスを保つことは決して容易ではないでしょう。

そして重要なポイントのもうひとつは、中国特有の意識です。中国の IT の世界では、モノを所有することに対する意識が日本と比べてはるかに強く、他人の設備を借りて事業を営むということに理解がありません。

これを深掘りすると文化論まで引き出さなければならず、メンタリティなどについては中国文化の専門書にお任せしますが、一つ指摘できることは欧米や日本と比べて圧倒的にサーバーホスティング事業者の規模が小さいことです。前出の HiChina など中国にももちろんサーバーホスティング事業者は多く存在しますが、アメリカの SoftLayer や Rackspace、日本のさくらインターネットや GMO クラウドなどと比べると存在感は乏しく、ホスティングサービスはそもそも普及していないと結論づける方がいいでしょう。

先日、筆者がいる北京のオフィスでこのような商談がありました。顧客は中国企業に近い経営スタイルの非日系外資企業で、サーバーインフラの移転先を検討しており、提案も最終段階でした。いわゆるプライベートクラウドの構成で、課金体系を含め、この方が欧米の本社にも説明しやすいだろうと想像しながら契約体系を説明しました。ところが最後になって「このサービスのためのインフラは私たち(顧客)のものではないのか?」との質問が飛び出しました。つまり「これだけお金を払うのだから、機器は私たちのものですよね」という意図でした。多額のお金を結果として払うのであれば、モノが残る方が良いという感覚もあったようです。

この様な質問を受けることは、中国、台湾、そしてシンガポールなど中華圏の人たちが多いエリアで事業をするようになってから、数えきれないぐらいあります。事業に必要なものは資産として所有するという考えが前提にある中で、サーバーホスティングのモデルは「お前たちに任せても安心なのか」という不安を持つのです。

ただ、変化も少しずつ見て取れます。時間単位の課金や、柔軟なリソース割り当てといった利便性があることを AWS の利用などを通じて知り、特に20〜30代の若手が意思決定者として関わるスタートアップ系の企業やネットサービスの企業では、専門の会社にインフラは任すという意識が芽生えてきています。こうして市場規模が大きくなるにつれ、一定の比率でクラウドサービスの市場が形成されていくことは想像に難しくありません。ただし、先ほども申しましたようにニュートラルなポジションのプレイヤーが参入することは不可欠です。

このほか、減価償却に対する考え方の違いもあります。中国では一般に、会計や税務については裁量範囲が大きく、また適切に期間損益を認識しなければならないという意識が大企業でも高くないと指摘されています。そのため、収益が大きく出る年に先行して設備を購入し、一括して費用処理しているケースもみられます。クラウドサービスの利点のひとつに、クラウド上で動くサービスやシステムによってユーザーが受けるベネフィットと、そのインフラにかかるコストについて、発生する期間を一致させられる点があります。税の圧縮効果を狙った設備投資に慣れていると、クラウドの存在は「将来にわたって費用が出る」というように受け取られかねません。

結論からすれば、ただ単にインフラが仮想化されて、柔軟な課金でサービスが受けられる仕組みだけを用意しても、中国で生き残るサービスにはなれないでしょう。「誰が主体となってサービスを提供するのか」「誰をターゲットにしたサービス開発をするのか」、そして「そもそも企業の意思決定者の意識にクラウドサービスの利点を植えつけられるのか」など、技術以外の複数の要素がここに絡み合っています。この「中華要素」を紐解けた企業が現れて初めて、中国のパブリッククラウド市場の本格的な普及が始まるのではないでしょうか。

執筆:株式会社クララオンライン 家本賢太郎
記事提供:株式会社クララオンライン