今回から二回に分けて、中国のクラウドサービスを紹介します。

一般的にクラウドサービスは大きく二種類に分けられます。一つはストレージやネットワークを複数のユーザーで共有するパブリッククラウドサービス、もう一つはこうしたリソースを特定のユーザーが専有して利用するプライベートクラウドサービスです。中国でも同様の分類がなされておりますが、今回は中国語で「公共雲」と呼ばれるパブリッククラウドについて取り上げます。

中国のパブリッククラウド市場の現状は、日本のように Amazon AWS、ニフティクラウド、IIJ GIO、さくらのクラウド、といった複数の大手がひしめくといった市場環境にはまだ至っておらず、いくつかのプレイヤーが参入をはじめたところ、いわば序章の段階です。そのような中国のパブリッククラウドサービスの現状を整理し、各社サービスの特徴と、その背景をまとめてみたいと思います。

Aliyun(阿里雲)は、中国最大手の EC 事業者であるアリババが運営するパブリッククラウドサービスです。アリババは、グループ内で「アリババ」、「タオバオ」といった B2B・B2C の EC サービスだけでなく、「Alipay」と呼ばれる第三者決済サービスを展開しており、いずれも中国で主要なシェアを占めています。従って、これらを支えるサーバーやネットワークインフラは相当な規模であることが想像できます。

Aliyun は、こうしたアリババの自社サービスのインフラのリソースを活用するかたちで始まったと言われており、データセンタの設備などもアリババのサービスと共有しているものと推測できます。実際、筆者がサービスを利用して調査した範囲では、上海もしくは杭州エリアにあるデータセンタを利用してサービスを提供している模様です(アリババは杭州が本社)。

現在のところ Linux ベースと Windows ベースの両方の仮想サーバーを提供していますが、オンラインサインアップ後は手動でアカウントが作成されている模様で、完全にオペレーションが自動化されているというわけではなさそうです。ユーザーが利用できるコントロールパネルなども特に用意はされていません。ただ、前払いしているデポジットが不足するとサーバーが翌日に自動的に停止するようになっており、EC 決済に強い企業だけあり、課金システムは作り込まれている様子も見受けられました。なお、Aliyun は独自クラウド OS を開発したとしていますが、ファイルシステムなどを見ると、ハイパーバイザーには Xen を採用していると考えられます。

この Aliyun に続く代表的なパブリッククラウドサービスが、Grand Cloud(盛大雲)です。中国の大手オンラインゲーム会社である盛大が運営しており、Aliyun と同様に、盛大のオンラインゲームのインフラリソースを活用していることがうかがわれます。Aliyun と比較すると、Grand Cloud はより Amazon EC2 を意識したサービス展開をしており、サービスメニューや課金方法の設計、Web 上にユーザーフォーラムを作ってオンラインでユーザー同士での交流を活発化させる方法などは、Amazon EC2 の成功例をうまく取り入れています。積極的に新たなサービスメニューを投入するなどの動きもみられ、サービスを作り込んでいる段階にあるといっていいでしょう。ただ、筆者が調査をしてきた範囲では、盛大が自社のプラットフォームを用いて配信しているオンラインゲームなどを除いて、大手他社サイトの利用シーンを見ることは無く、利用が拡がっているとは言い難い側面もあります。

ところが、これに続く規模のパブリッククラウドサービスが中国では今のところ見当たりません。あえて挙げれば大手データセンタ事業者である 21vianet のクラウドサービスである CloudEx がありますが、近年はサービス開発が進んでいないようです。同じく大手データセンタ事業者である GDS のクラウドサービスも、データセンタ自体の事業の好調さはあちこちで聞かれますが、クラウドサービスが特に売れているという様子は見当たりません。中国全体を見ればクラウドコンピューティング、中国語での「雲計算」は一般的な IT 用語になりつつあるにも関わらず、パブリッククラウドサービスの存在数が極めて限られているという状況といえます。また、クラウドサービスと銘打っているものの多くは、従来からあるサーバーホスティングサービスの「焼き直し」のようなものも少なくなく、実質的には VPS サービスといえるケースもあります。

一方、外資企業の参入も今のところ限られています。中国では、クラウドサービスを提供するためには内資企業としてのライセンスが必要であり、外資による参入が容易ではないことが背景にあります。これらの業務を中国内で行うためには、データセンタ事業者が増値電信業務経営許可証と呼ばれるライセンスを持ち、かつ経営範囲として IDC 事業や ISP 事業(これはコンシューマ向けの ISP だけでなく、IDC 内でのインターネット接続を提供する際にも必須)が認められている必要があるほか、サーバーホスティングに近いモデルを営むためには ICP ライセンスも必要です。中国は WTO に加盟しているため外資を全て受け容れないというスタンスではなく、合弁企業向けのライセンスも制度上は存在しますが、現時点では発行数が極めて限られています。このため外資企業は実質的に中国内のローカルパートナーと組まなければ参入することができず、高いハードルがあります。

こうした中、日系を中心に、中国の今後のクラウド市場の拡大を期待して参入するプレイヤーも出てきました。TISが天津のデータセンタで提供している「飛翔雲」に続き、IIJ は今月、中国電信と提携し、上海でのクラウドサービス「IIJ GIO CHINAサービス」を発表しました。今年中にはさらに複数の日系企業が、中国企業との提携によって市場に参入するとの話も聞かれます。

そこで気になるのは、AWS(Amazon Web Services)の動向です。今のところ公式の動きはありませんが、世界中のデータセンタを使ってリージョン(AWS のサービス拠点)を立ち上げていることから見ても、中国のインターネット市場の規模を無視しているはずはありません。日系と同様、外資であることによってライセンスの問題はあるものの、ローカル企業との提携を通じたサービス展開の可能性は十分にあるのではないかと考えられます。Google が2010年に中国本土からのインフラ撤退を決めて以降、Equinix が昨年夏に上海でデータセンタ事業を買収した以外に、米系企業の大きなニュースはありません。しかし Amazon が仮に中国市場に本格的に参入することになれば、日本のクラウドサービス市場と同様、業界の構成図が大きく変わるきっかけにもなるかもしれません。

次回は、この中国市場において、はたしてクラウドサービスが日本や欧米と同様に普及するのか、というテーマを取り上げることにします。

執筆:株式会社クララオンライン 家本賢太郎
記事提供:株式会社クララオンライン