スタートアップで活躍するための2つの条件―ビットセラー川村亮介のキャリア論(1)

立ち上げ直後に4億超の資金調達を成功させた、注目のスタートアップ「ビットセラー」。その代表であり、数々の優秀なエンジニアと仕事をしてきた経験を持つ川村亮介さんに、優秀なエンジニアの定義を伺った。スタートアップの世界に関して言えば「ないものねだりをしないこと」「あきらめないこと」がカギになるという。

■日本発、世界2,000万ユーザーの「FxCamera」

世界200か国以上で利用されている、累計2,000万 DL 超の Android No.1 カメラアプリ「FxCamera」をご存知だろうか?

多様なエフェクトを掛けた写真が手軽に撮影でき、撮った写真をすぐさま SNS に投稿もできる、人気のアプリだ。手軽さと Android アプリの中でも屈指の安定性が評価され、全世界での総ダウンロード数は2,000万を突破している。

このアプリを開発したのは、かつて、国内電機メーカーで携帯電話のアーキテクチャ設計・端末開発に携わっていた技術者の山下盛史氏。帰宅後の時間や休日を費やし、たった一人で開発したものなのだ。

そして2012年4月、このカメラアプリを、ある会社が買収したことが業界で話題となった。それがビットセラーであり、主導となって進めたのが CEO である川村亮介さんだ。

川村さんは、慶應義塾大学在学中に社長室長としてアトランティス社の創業に参画。スタートアップの立ち上げにあたって幅広い業務に携り、同社が日本最大級のアドネットワークへと成長する過程を経験してきた。その後、事業をグリーに売却し、 2011年、新たにビットセラーを設立。2012年春にはジャフコから4.2億円の投資を受け、今では10名以上のエンジニアを抱える組織にまで成長している。

弱冠27歳にして、注目のスタートアップ企業を率いる川村氏。彼は「優秀なエンジニア」「エンジニアのキャリア」をどう定義しているのだろうか?

■スタートアップという環境で大切な2つのこと

―今日はよろしくお願いします!そういえば、川村さんはリブセンスの桂さんとはご友人だと伺いました。

桂さんとは同い年なんです。1年くらい前は「お互いそれぞれ、会社をもっと大きくしていきたいね」という話をしたんですが、しばらくしたらリブセンスが東証マザーズに上場して、今年は東証一部に上場と一気に駆け抜けていき、気がつけば彼は一部上場企業の役員になっていた。強烈に刺激を受けましたし、本当にすごいなと尊敬しています。

―ビットセラーにも、FxCamera をたった一人で生みだした山下さんという優秀なエンジニアがいらっしゃいますよね?ビットセラーには、優秀なエンジニアが集まっているなという印象があるのですが、川村さんは「優秀なエンジニア」をどう定義されているのでしょうか?

私自身、スタートアップにずっと身を置いてきたのと、ビットセラーも創業ステージにあるスタートアップなので、まず「スタートアップ企業で求められる人材」という観点で話をしたいと思います。

「優秀な人材」というのも、会社のステージによって異なってきます。ですから、これからお話する内容は、あくまでも立ち上げ期でのスタートアップでは、こういう人材が求められていますよという程度に聞いてもらえればと思います。

で、エンジニアに限らず、スタートアップで働く上で、大切なことは2つあると思っています。

一つは「ないものねだりをしないこと」、もう一つは「あきらめないこと」です。

スタートアップという環境で大切な2つのこと

―「ないものねだり」とは一体どういうことなのでしょうか?

大きな会社との比較で考えるのが分かりやすいと思います。

最近では、大企業からスタートアップに挑戦する方も増えてきたと思うのですが、うまくマッチしなかったという例も少なくなかったと思います。

どこが合わなかったのかというと、色々なモノが揃っている環境と、逆に多くのモノが揃っていない環境とのギャップがあるかなと思っています。大きい会社と比較して、創業フェーズのスタートアップは、当たり前ですが、何から何まで「ない」ことの方が多いんです。

会社の制度も整ってないし、機能やシステムにおいても、充実しているとは言えない。世の中に認知されているプロダクトを持っている会社も一握りです。

ですので、スタートアップという環境で何かをやろうとするときに、あれがない、これがないという状況に直面することは多いと思うのですが、「あれがないからできない、これがないからできない」という思考に陥ってしまうと、そこで詰まってしまって、活躍するのは難しい。それがここで言う「ないものねだり」です。

「ないものねだりをしない」というのはどういうことかというと、「ないなら創ってしまおう」とか「ないから誰かから貰ってこよう」とか、「ないから工夫しよう」とか、いろいろなモノがない中でも工夫をしたり無理をしたり、途中で止まらずに、その行為を楽しんで考えて推進していく心持ちです。こういう心持ちでいられる人は、スタートアップの適性が高いと思います。

エンジニアはプロダクトを創るのが仕事であり、メインの役割ですが、スタートアップの場合は、プロダクトだけでなく同時に会社も一緒に創っていかなきゃいけなかったりもします。

スタートアップの開発工程は、細かく分業されているわけではありませんし、専門外の仕事が求められるシチュエーションもあります。

そういう環境ですので、スタートアップでは、大きな会社では得られないエンジニアとしての「幅の広がり」を手に入れられるという点が、非常にいいところです。最近は世の中の動きも速いので、求められるスキルやエンジニアもどんどん変わっていっていると思います。そういった状況の中で、幅広く仕事ができるというのは、今の時代にマッチしているのではないかなとは思います。

逆にある特定の領域を追求することに、自分のプライオリティを非常に高く持っているのであれば、スタートアップよりも、分業化がされていて組織されている大手企業で働くほうがよいと思います。

これはどちらがいいとか、どちらが優秀という話ではなく、どちらが向いているかという話に近いと思います。

■どんなことがあっても、成功するまであきらめずに立ち上がる

―では、もう一つの条件である、「あきらめないこと」とは?

意味としてはそのままなのですが、スタートアップを成功させることは、やはりとても大変なことなので、あきらめないことはすごく大切だと思います。よく言う話ではありますが、やはり新規事業をやっていく中で、全部が全部うまくいくわけではなく、むしろうまくいかないことの方が多かったりします。

でも、うまくいかないからと言って、すぐ止めてしまってはいけない。アイデアを出して実行して、またアイデアを出して実行してと、“とにかく勝つまでやりきるんだ”ということをあきらめずに積み重ねていく。

どんなことがあっても、成功するまであきらめずに立ち上がる

余談ですけど、昔ある人に「ゲームセンターのゲームで絶対に勝てる方法」を教わったことがあります。あらかじめ手元に100円玉をたくさん積み上げておいて、ゲームオーバーになったらすかさず100円を投入し続ける。そうすれば、絶対にそのゲームをクリアーできる。

ゲームオーバーになっても、コンティニューする。何回死んでも、立ち上がって、もう一回やる。エンジニアに限った話ではありませんが、スタートアップという環境で働く上では、そういうことを楽しめる人に適性があると思います。

■時間もリソースも「ない」ところから、FxCamera も創られた

―FxCameraへ買収を持ちかけた時、山下さんとどのような話をされたんですか?

FxCamera というプロダクトは、文字通り日本を代表する本当に優れたアプリだと思いましたので、それを事業化して、一緒にビジネスをやりませんかと。それと同じくらい、そんなサービスを1人で生み出してしまう山下という人物に興味津々でした。

―今、山下さんは社内ではどのような役割を?

今は開発のマネジメントがメインの役割です。今、10人ぐらいのエンジニアを社内に抱えていて、優秀だと胸をはって言えるようなエンジニアが揃っていますが、スタートアップの組織をまとめるというのは、既存の社内制度や体制がない中でやっていくのですごく難しいことですし、実際にビットセラーも苦労しました。

新規開発も多くて工数見積も難しい、かつ各人の希望も色々とある中、それぞれの意見をまとめて仕様やスケジュールを考え、すごく洗練された開発体制を構築することができています。

私から見て、山下が他の人と違うと思うのはユーザーの動向を幅広く追いかけているというところかもしれません。例えば、FxCamera と似たアプリのユーザーレビューをこまめにチェックし、どういう機能追加をすると、ユーザーがどう反応するのかを見ていたり。それをずっと続けているので、厚みのあるノウハウが溜まっているように思います。

自分が手掛けたアプリのレビューは見ると思いますけど、競合サービスのユーザーレビューをあそこまで幅広くチェックしている人間はなかなかいないと思います。自然と、開発のためのマーケティングをしているんでしょうね。

個人で FxCamera を開発していた頃は、会社に勤めながらでしたので、そんなにたくさんの時間を使うことはできなかったと思います。ただ時間が「ない」状況であっても、うまく工夫してマーケティング要素を取り入れ、日々の機能改善を怠らなかった山下だからこそ、FxCamera を生み出し、成長させることができたんだろうと思っています。

(つづく)

記事提供:CAREER HACK