近年の尖閣問題や竹島問題といった外交不安の高まりを背景に、海外に拠点を置いた企業の製造・生産体制が見直しを迫られている。特に先日のように反日デモが多発している中国では、壊滅的な被害を受ける日本企業が相次ぎ、労働賃金も上昇傾向にあることから一部の企業は撤退を始めている。

そのような中、2007年頃からアメリカを中心にはじまった、社外の「不特定多数」の人に業務を外注するという「クラウドソーシング」サービスがにわかに注目を集めている。IT・インターネット関連の仕事をしている人なら何度か耳に(目に)したことのあるワードだと思う。では一体、クラウドソーシングにはどのようなものがあるのか。実際にはどのような企業が活用できるのか。そして、これまで海外にアウトソースしてきた業務のカントリーリスクを克服し、安定的な作業ボリュームと低単価を担保することは可能なのだろうか。

今回のコラムではまず、先行する欧米のクラウドソーシングサービス事例を一部紹介する。概略をつかむ参考になればと思う。

まず、クラウドソーシングサービスは大きく2種類に分かれている。仕事を依頼したい企業(個人)と仕事を請けたい企業(個人)をマッチングさせる「ビジネスマッチングモデル」と、誰でも出来るような簡単な業務を多数の人に委託する「マイクロタスクモデル」だ。

■ 業務発注者と請負希望者をマッチングさせる「ビジネスマッチングモデル」

「ビジネスマッチングモデル」の特徴としては、エンジニア・デザイナーなどスキルを持っている人がシステム開発やサイト制作、キャラクターデザインなどを請けることが多く、比較的専門的な業務が多い。専門的なスキルを持っている人であればそのスキルを活かすことができ、発注側の企業(個人)としてはコストを削減することや急な業務への対応などメリットがある。

海外では、アメリカなど先進諸国でマッチングモデルのクラウドソーシングが多く存在する。中でも世界最大級とされているのが「oDesk」である。「oDesk」は世界中から約90万人のフリーランスが登録を行っており、年間取引額は2011年で1,000億円を超えると推測されている。

マッチングモデルのクラウドソーシングサービス「oDesk」
マッチングモデルのクラウドソーシングサービス「oDesk」

 「oDesk」で、主に受発注されている業務はプログラミングやデザインなどで、発注の多くは欧米諸国からだ。それに対して受注しているのはロシアなどの東欧諸国やフィリピンといった東南アジアが多い。こうして、発注側と請負側が場所や時間(タイミング)の制限を越えてオンライン上で個々につながりながら作業を進行させられるプラットフォームとしての機能を果たしている。これは典型的なクラウドソーシングサービスの特徴だ。

■ 誰でも出来るような簡単な業務を多数の人に委託する「マイクロタスクモデル」

一方、「マイクロタスクモデル」では、特に専門的なスキルや知識が必要ない簡単な業務を提供しているため、請負側は気軽に業務を行うことができる。発注側の企業(個人)は、固定費のかからないネットユーザーに仕事が依頼できるため従来以上にコストを抑えることができる。

海外の「マイクロタスクモデル」では、フィンランドにその名の通り「microtask」がある。仕事内容は特徴的であり、古文書など古い文献を保存するための文字入力作業が主である。対象となる文献自体は、フィンランド国立図書館と提携している。

マイクロタスクモデルのクラウドソーシングサービス「microtask」
マイクロタスクモデルのクラウドソーシングサービス「microtask」

 また作業方法も特徴的であり、ゲーミフィケーションを利用して、作業者はゲームをしながら作業を行う。もちろん、一般的なデータ入力作業も行われている(以前は Zynga と提携して課金モデルのサービスも行っていた)。このような「マイクロタスクモデル」のクラウドソーシングを利用することで、発注側はコスト削減はもちろんボリュームやスピードのある業務委託も可能になり、生産効率向上に役立てることができる。

以上は海外のほんの一部の事例であるが、両者の特徴として、プラットフォームを通じて時間・場所はもちろん、国籍も問わずにオンラインを通じて個々とつながることで、安定的なアウトソースを実現している。このモデルは、たとえ国と国の外交問題が発生した際でも、個人とのつながり、オンライン上でのつながりを基本としているため、ユーザーの一部が離脱したとしても大きなリスクを負うことはない。

クラウドソーシングは業務を発注したい企業(個人)にとって必要な時に必要な業務を依頼することが可能となるため、日本国内でもデータ処理作業の多い EC や Web サイト運営社、クリエイティブ機能をアウトソースで補完したいスタートアップ企業など、すでに多くの企業が活用して固定費削減を実現している。近年の海外情勢の不安を受け、アジア圏内などにアウトソースのベースを委託していた企業からのニーズも拡大してきている。

現在、国内においても多様なアウトソースに対応できるクラウドソーシングサービスが登場し、業種により発生する様々な作業案件にも対応できる市場が形成されてきた。一方、その受皿となるワーカー(受注側)は主婦などを中心に、日本にはまだまだ潜在労働力があるという見方が大半である。また、時間や場所などに関係なくインターネット環境さえあれば仕事ができるため、会社に依存しない新しい働き方としても注目を集めている。

これらの潜在的な労働力や地方などを中心とした余剰労働力が、業務をアウトソースしたい企業(個人)と有機的につながれば、日本企業のアウトソース市場におけるカントリーリスクの懸念を少なからず軽減することが期待できる。同時に、クラウドソーシングが国内に浸透することで、これまで問題となってきた地域間格差や賃金格差の是正にも寄与すると言える。

次回のコラムでは、新しい在宅ワークの形として広がる取り組みを紹介し、クラウドソーシングという新しい就労形態の可能性を取り上げようと思う。

執筆:株式会社リアルワールド 仙台支局 局長 山重卓也
記事提供: リアルワールド