NHN Japan 田端信太郎の Web メディア論(第1回:マネタイズ)

先日、初の著書「MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体」を上梓した NHN Japan の田端信太郎氏。数々のヒットメディアを生み出してきた氏が、Web メディアの現在をどう見ているのか、考えを伺った。情報そのものが無料になりたがっている今、Web メディアはいかにしてサバイブすべきか―。

■R25、WIRED、BLOGOS …数々の Web メディアを生んだ第一人者

いま、世の中はメディアであふれている。その大きな要因が Web の進化であることは疑いようもなく、また“キュレーション”という言葉がバズワード化していることからも明らかなように、あらゆる人がメディアの担い手となり得る時代だ。

そしてそれによりメディアの在り方そのものも変容し、多様化・多義化してきている。果たして、これからの Web メディアとはどうあるべきなのだろうか。

その問いについて考えるべく白羽の矢を立てたのが、NHN Japan 田端信太郎氏。簡単に経歴を紹介すると、リクルート時代に R25 を創刊、その後ライブドアに転じ、メディア事業部長に就任。BLOGOS や Techwave を立ち上げるなど、ライブドア再生への足がかりを築く。さらにはコンデナスト・ジャパンにて、VOGUE や GQ のデジタル化を牽引。そして2012年6月、古巣でもある NHN Japan(元ライブドア)に戻り、BLOGOS、NAVER まとめ、LINE など各メディアのマネタイズ推進を担当している。

根っからのメディアプロデューサーは、現在、そしてこれからの Web メディアをどのように捉えているのだろうか?「ビジネス」「コンテンツ」「信頼性」という3つの観点で、考えを伺った。

■Web メディアは「ビジネス」たり得るか?

―まず最初に「ビジネス」という観点について。端的に言うと、Web メディアは「ビジネス」として成立し得るか?という問いになるのですが…。

そうですね、いきなりアレな言い方かもしれませんが、この質問にはあまり意味がないと思います。一般論と一緒になっちゃうから。「ハンバーガー屋はビジネスとして成立するのか」という問いでも、潰れているお店もあれば、儲かっているところもあるし。

ビジネスとして絶対に成立しないわけではないということは、すでに社会のコンセンサスになっていると思います。市場で株価もついているわけで、現実的にマネタイズがそれなりにできていて、それほどコストをかけずにやることができれば黒字になるはずだし、その折り合いのつけ方さえ上手くいけばいい。

そういう意味では十分、持続可能なビジネスとして成立している。その中で、他の業界に比べてツブれるものの割合が著しく多いとは思いませんね。決して斜陽産業というわけではないので。

―とはいえ、上手くいくものもあれば、そうでないものもある。

そう、要するにどういうメディアだったら上手くいくか、ということですよね。これからの話と矛盾してしまうかもしれませんが、成立するということは黒字になって続けられるということなので、入ってくるお金がより多くなって、出ていくお金が少ないほど成立する。

で、入ってくるお金をより増やすにはどうすればいいかという議論になるわけですが、今はローコストで PV を稼ぐだけ稼いだものが勝ちやすいシステムになってしまっています。その良し悪しを問うわけではなくて、あくまで事実としてそうなっているということです。

あるいは、コンテンツ制作に人件費をかけずスケールできたものもそうですね。Google  もそうかもしれないし、ある意味ブログも、2ちゃんねるも、ニコニコ動画もそう。言ってみれば、ネットの向こう側にいる無数の人たちを「労働力」として、永久機関のように無料で動員できるわけじゃないですか。

誰も Google を儲けさせたいがために良いページにリンクを貼るわけではない。でも、良いページならたくさんの被リンクを集められているはずだということを発見した Google  は、人が良いページを紹介しようとする性善説の知的欲求を、「ページランク」という仕組みに昇華させることで、うまくマネタイズできたわけです。

非現実的な仮定ですが、Google を儲けさせないためには、ワザと良いサイトにリンクを貼らなければいい。そうすれば、誰も Google を使おうなんて思わなくなります。つまり、Google のビジネスにはある種の他力本願的な構造が埋め込まれているわけです。

そういう意味では、livedoor Blog を書いてくれる人はライブドアや NHN を儲けさせるために書いているわけではないし、食べログを書いている人もカカクコムを儲けさせるために書いているわけではない。あるのは、自分の“書きたい”という純粋な欲求だけです。

Facebook も一緒。友達同士つながりたいという純粋な欲求を利用してマネタイズしている。Twitter でもそうです。Amazon のビジネスはレビューが肝になるのだとしても、誰も Amazon を儲けさせるためにレビューを書くわけじゃない。ある意味ボランティアが勝手にサイト価値を上げてくれるようなメカニズムを構築できたことが、成功の要因になっている。

Web メディアで儲かっているところは、ほとんどそうです。普通に社員を雇って記事を書いて広告費をもらっているモデルのところでは...黒字で持続できていれば良いほうでしょう。ウハウハに儲かっているところというのはあまり聞いたことがないですね。

■情報それ自体は、もう無料になりたがっている

―例えば、加藤貞顕さん(※)が立ち上げた「cakes」は、週ごとの定額課金というモデルをとっていますよね。こうした新たな動きにも可能性があるように思えるのですが?

※加藤貞顕氏/元ダイヤモンド社の編集者。「もしドラ」「スタバではグランデを買え!」など数々のヒット作を手がける。

コンテンツ課金の方向性も、この1〜2年の間に現実的になってきていますよね。特にスマートフォンが普及して、Google PLAY や App Store といったアプリ内課金のプラットフォームが、i モードのような閉じた形ではなく広く開かれた形で確立したのは大きいです。

あるいは、先日の Kindle ストアのオープン。KDP(Kindle Direct Publishing)という、非常に利用しやすい電子書籍の出版プラットフォームができました。このように個人にとっては有力なマネタイズの手段がどんどん出てきていて、それは非常にいい追い風だとは思います。

ただ、メディアビジネス全体を見ると、課金モデルが半分を超えることはあり得ないだろうという気がしているんですよね、直感的に。せいぜい2〜3割くらいじゃないかと。

コンテンツの性質や書き手の性質によっては、課金モデルで成り立つ人も出てくると思うんですけど、それが本当にメジャーなマネタイズの手段になり得るかというと、正直わからないですね。というより、やや懐疑的です。

― それは Web の世界で、「コンテンツは無料で当たり前」が前提になっているからなのでしょうか?

情報それ自体は、もう無料になりたがっているんです。最近だと、例えば紙のロッキン・オンは、雑誌ビジネスというより音楽フェスで利益を出している。ニコニコ動画もそうですね。

あとは有力なブロガーさんのマネタイズを見ていても、例えばアルファブロガーのブログってすごくいい文章が無料で読めるじゃないですか。でもそれと全く同じようなことを有料メルマガに書いて、勉強会で話して、成立しているんです。

例えば有料メルマガなら月840円、勉強会なら1回3,000円とか5,000円。さらに「XXX と今後の IT 情勢を語る夕食会」みたいな、ディナーショー的なイベントを15名限定とかでホテルでやると、結構高い参加費でもすぐ埋まったりもする。

情報それ自体は、もう無料になりたがっている

これ、それぞれ語られている内容だけで言うと、情報の価値としてはそんなに大きくは変わらないんですよ。ただ、承認欲求というか虚栄心みたいなものを満たすために、情報ではなく”体験”にお金を払うことに対しては、多くの人がポジティブなんじゃないかと。

たとえば、わかりやすく、「おれ、ホリエモンのブログ読んだぜぇ」って言っても何の自慢にもならないじゃないですか。でも、「おれ、ホリエモンとこの前一緒にメシ食ったぜぇ」っていったら自慢になるわけで。

これって、別に新しい現象というわけじゃないんですよね。ウイスキーを水割りで飲むのだとしても、コンビニでウイスキーとロックアイスとミネラルウォーターを買って家で飲めばせいぜい1,500円程度に収まります。

でもこれがバーにいくと3倍になり、銀座のクラブにいくとさらに3倍に化ける。そこで「飲んでるものは一緒なのに」って言うこと自体、もう無粋じゃないですか。ライブに行って「CD と一緒だし、お金だす価値ないよね」って思う人はいませんよね。それはもう、そういうもんだとみんな思ってる。

メディアのマネタイズは、正攻法で真面目にメディアを作ろうとすればするほど難しいです。コンテンツを自らの手で作るか、CGM 的に集めるのか、その違いはすごく大きい。前者の場合、やはりお金のもらい方を変える必要があるでしょうね。イベント、セミナー、メルマガ、Skype 相談サービス、既存のメディアとは違った手法での収益化が肝になってくる。

もちろん、「主語」によって振る舞い方は変わってきます。プラットフォーマーなのかコンテンツメーカーなのか、個人なのか法人なのか。その2×2のマトリクスのどの位置にいるのかによって、どういった手法を取るべきか考える必要があると思います。

(つづく)

記事提供:CAREER HACK