■米大統領候補者の Facebook ブランディング調査

2008年のアメリカ大統領選挙で、現職のオバマ氏が黎明期にあった Twitter や Facebook などの SNS メディアを活用し、若年層の支持を取り込み、画期的な勝利を得たことはよく知られている。これにより、年代や文化圏に関わらず SNS ツールは一気に市民権を得て、その普及率は飛躍的に高まった。そして多くの政治家がプロモーションの一環として SNS ツールを当たり前のように活用するようになった。今や米国では SNS の活用は、公の場でイメージを売る政治家にとって、票集めのための必須条件となっている。SNS から現実の投票へ(O2O)有権者を動かす力を持つに至った SNS キャンペーンは、勝敗の行方を左右する大きな要因となっている。

そこで本調査では、民主党の現職候補であるバラク・オバマ氏と共和党の対抗馬であるミット・ロムニー氏の Facebook 利用の実態について、定量・定性・クリエティブを含む様々な観点で比較分析し、両大統領候補の SNS 活用戦略を明らかにするものである。

・調査結果からの考察
オバマ候補とロムニー候補の対決は、「既に市場で認知されている先行ブランド(リブランディング戦略)」と「新規参入の後発ブランド(ブランド開発戦略)」という違いがある。

オバマ候補の Facebook 活用からわかるリブランディング戦略
(1)発信テーマに偏りを持たせず、これまでの実績を全方位的にアピールする
(2)既存ファンの支援度や羨望振りをアピールしてブランド保証をする
(3)プレミアムブランドとして獲得しているリーチ力(≒バズ効果など)を活かしシンプルでキャッチーなメッセージによりターゲットユーザーの心象に残るアプローチを行う

ロムニー候補の Facebook 活用からわかるブランド開発戦略
(1)発信テーマは強みのあるものだけに絞り、一点突破でアピールする
(2)既に植えつけられた先行ブランドの印象を払拭するために、自己顕示性を強める=先行ブランドの数倍の発信量を保ち露出を高める
(3)自身の紹介を丁寧に行うため、先行ブランドとの差別点を明確にし(≒ネガティブキャンペーン)、自身の政策のメリットを、具体的かつ端的に、ターゲットの年代や立場ごとに説明する

■ 調査結果の詳細

・ファンとその反応数は、オバマ候補が圧倒的に優勢

【表1】アメリカ大統領候補の Facebook 活用手法にみる“勝つ”ためのブランディング戦略
【表1】基本データ
*調査期間:2012年9月1日〜同年10月28日
*エンゲージメント率の計算に使われるファン数は、調査期間中のある1日の値を使用した。

【米大統領選挙について】
*大統領選挙は、民主党・共和党の全国党大会でそれぞれ大統領候補として正式指名を受けたのち、投票日である11月6日に向けた「本選」に突入する。正式指名から11月6日一般投票までの約2か月間、選挙キャンペーンが繰り広げられる。今回、民主党党大会は9月3日〜6日、共和党党大会は8月27日〜30日に行われた。

*11月6日の一般投票では、投票権を持つアメリカ市民が選挙人と呼ばれる各州(州の人口に応じて代理人の数は異なる)の代表を選出し、12月17日の選挙人による選挙人投票を得て最終的な大統領が決まる。過去の例からいって、一般投票の結果が事実上の勝敗を決めると言って過言ではない。

・Facebook と支持率の関係

9月6日の本選突入後、両候補は「スイングステート」と呼ばれる激戦州(オハイオ、ニューハンプシャー、ヴァージニア、フロリダ)で遊説を行った。両候補の討論会はこれまでに3回行われ(10月3日、16日、22日)、初回はロムニー候補が優勢、2回目は両者互角の攻防、3回目はオバマ優位と報じられた。これらの討論会は全米ネットワークでライブ放送され、第1回には6,720万人、第2回には6,560万人、第3回には5,920万人(ニールセン調べ)が視聴したと言われている。Facebook 上でもこれらの遊説日には数多くの投稿が行われている。しかし、Facebook のエンゲージメント率と支持率には相関関係があまりなく、際立った特徴は見られない。

【図1】投稿数・エンゲージメント率・支持率の推移
【図1】投稿数・エンゲージメント率・支持率の推移

両候補のエンゲージメント率および投稿数の日別推移に、支持率(ギャラップ社)と経済指標として NY ダウ工業株30種平均米株価指数を重ねたもの。全体の流れをみるため縦軸の値は省略している。

・バランス感のあるオバマ候補と、一点突破型のロムニー候補

両候補者には発信内容に大きな違いがある(円グラフ1、円グラフ2)。
政策内容においては、オバマ候補はどのテーマにおいてもバランスよく言及しているのに対し、ロムニー候補は雇用に関する内容に偏重している。むしろ一点突破と言ってもいいだろう。

写真やメッセージによる「繋がり」のアピールでは、オバマ候補が、各界の著名人からのメッセージをシェアし(ビヨンセ、NBA スター、クリントン元大統領ほか)、現職大統領として築きあげたコネクションを利用している。オバマ候補の Facebook ページの周辺に存在する「プレミアムブランド」との相互補完、相乗効果を生み出すのに成功していると言える。

ネガティブキャンペーンにおいてはロムニー候補の独壇場で、投稿の約2割は現職オバマ候補の批判である。これは、政権を奪取する立場として、先行ブランドとの差異化を図るためと考えられる。なお、直接的に差異化を図ろうとすればネガティブ発言になり、間接的に差異化を図ろうとすれば両者の機能比較(=政策内容の比較と優位性のアピール)になる。ロムニー候補の投稿内容を見ると、両手段をとっていることがわかる。

オバマ候補は、全方位的に各領域(テーマ)に触れ、これまでの大統領としての4年間の実績をアピールする必要がある。それに対し、後発でこの「選挙市場」に参戦したロムニー候補は、政策論争においてはニッチャーの立場を取り、市民が最も関心を持つ雇用という明確なテーマで一点突破しようとする姿勢が窺える。こうしたトップランナーとそれを負う2番手の戦略の違いは、一般企業のマーケティングや広報戦略でも良く見られる手法である。
 
【円グラフ1】投稿内容の内訳(オバマ候補)
【円グラフ1】投稿内容の内訳(オバマ候補)

【円グラフ2】投稿内容の内訳(ロムニー候補)
【円グラフ2】投稿内容の内訳(ロムニー候補)

両者の投稿内容は以下の4分類に大別される。
(1)    政策内容
雇用、教育、経済、税制、医療/福祉、女性、防衛/軍事、外交、エネルギー、の合計9項目
(2)    協力の呼びかけ
演説や討論会などの告知、献金(※)、署名・登録、「いいね!」数の報告、の合計4項目
※ワンクリック献金($5〜15)・グッズ販売による資金援助要請を含む。
(3)    写真やメッセージによる「繋がり」のアピール
家族、一般人、著名人、副大統領他党員、の4項目
(4)    ネガティブキャンペーン

・投稿に対するファンの反応

オバマ候補は投稿数が少なくても、一定のエンゲージメント率を得られる傾向がある(図2)。一方のロムニー候補は、オバマ候補の約2倍投稿しても、ユーザーからの反応をそれほど得られていない。現職のオバマ候補は先行ブランドとして市場に認知されているのに対し、ロムニー候補は後発のブランドである。ロムニー候補は、自身の制作内容をオバマ候補のそれと差別化し、有権者に既に植え付けられているオバマ政権の印象を払拭する(競合のブランド連想・再生の破壊)まで自己のプレゼンスをアピールする必要があることから、投稿の数が増えているとも取れる。新規参入者ならではの自己開示性の負担はロムニー候補に必至であり、常にチャレンジャーとして投稿数(=露出)でオバマ候補を凌駕する必要がある。つまり、ロムニー候補は、ファンから高い反応を得るという課題を一旦棚に上げてでも、敢えて露出を高めるために投稿数を増やす戦略をとっていると推測できるのである。

【図2-1】オバマ候補のテーマ別にみる投稿数と平均エンゲージメント率の比較
【図2-1】オバマ候補のテーマ別にみる投稿数と平均エンゲージメント率の比較

【図2-2】ロムニー候補のテーマ別にみる投稿数と平均エンゲージメント率の比較
【図2-2】ロムニー候補のテーマ別にみる投稿数と平均エンゲージメント率の比較

総合的にオバマ候補の方がファンの反応がよいと言える。少ない投稿数でも好反応が得られるためである。ロムニー候補は戦略的に、反応数の向上よりも露出(投稿数)を優先させていると考えられる。

・投稿方法によるオバマ候補とロムニー候補の戦略の違い

【図3】投稿方法別 5段階評価
【図3】投稿方法別5段階評価
 
写真・動画・テキスト内容を「政策の分かり易さ」「親しみやすさ」「内容の具体性」「キャッチーさ」「情報密度」の5つの評価軸において、当社独自の手法で評価を行った。Facebook で最もエンゲージメント率が高いのは写真の投稿と言われているが、オバマ候補は写真の使い方が上手い。一方でロムニー候補は動画を使った政策内容の説明が秀逸である。

・クリエイティビティ溢れるオバマ候補の写真画像

オバマ候補は細部まで演出にこだわり、現場の臨場感を伝える画像を多く投稿している。特に有権者の集まるイベントを捉えたものは秀逸であり、有権者(集団)の熱烈な支援の様を巧みにカメラにおさめ、劇場的な空間を創出することで、大きな連帯感や結束(ブランド保証)を表現している。また、一般市民と一緒にフレームにおさまるオバマ候補のリラックスした様子は、親近感や大衆性の表現に適している。驚きの表情を隠せない有権者の姿や、普段は報道で取り上げられない街角やキャンペーンの舞台裏などは、見る者を楽しませる。

既に確立したオバマブランドを活用し、自身の持つプレミアム感を利用することは、水平的でフラットなつながりを重視する Facebook というメディアだからこそ威力を発揮するという証明でもある。大衆性の獲得、大衆側に立つことを戦略的にアピールすることにより、国民の現場の問題への当事者意識の浸透や醸成、またブランドレゾナンスの実現を果たし、心理的価値の創出につなげている。

一方でロムニー候補は特に演出の意図を感じさせないようなスナップ写真が多く、自然体であるとは言えるが、インパクトやメッセージ性という効果の面では、多くを期待できない。また傾向として、イベントや集会を除いては、一般市民との絡みがなく、関係者のみから構成される、閉じられた空間で選挙活動が繰り広げられているかのような印象を与える。先ずはマスブランドとして認知され、いずれ競合の支持者を転向させる必要のある新規参入者の手法としては相応しくない。
 
【図4-1】 選挙支援事務所の様子 【図4-2】選挙支援事務所の様子
【図4】選挙支援事務所の様子
左:オバマ陣営 右:ロムニー陣営

一見しただけでその場の状況が伝わるオバマ陣営の写真に比べ、殺伐とした雰囲気のロムニー陣営。後者は掲載の意図を解するのが難しく、Facebook 向きとは言えない。

【図5-1】演説会の様子 オバマ陣営 【図5-2】演説会の様子 ロムニー陣営
【図5】演説会の様子
左:オバマ陣営 右:ロムニー陣営

遊説の様子を聞く市民を大写しにした写真は、安定したオバマ政権を印象付ける目的か。一方のロムニー陣営は、熱狂する市民の迫力ある図。

【図6】家族写真
【図6】家族写真

オバマ候補の特徴の一つは家族(とくにミシェル夫人)の写真やメッセージの多様である。家庭円満な様子は Facebook という媒体に相応しいだけでなく、女性の社会的地位に関する問題に対しての布石としても効果的に使われている。また、およそ860万人のファンを持ち既に確立された血縁ブランドであるミシェル夫人との連携は、キャンペーンにシナジーをもたらすファミリーブランド訴求であるといえる。

・分かりやすさで支持を得るロムニー候補のビデオメッセージ

オバマ候補の動画利用の特徴は、そのスケール感にあり、時に8分を超えるものがある。その多くは、自身のプレゼンスや人間オバマの魅力や正統性のアピールであり、効果や演出についてもアーティストの PV や短編映画に比するものがある。動画の特性である、非言語的で視覚・聴覚へのインパクトの利用という点では、巧みな手法であるが、新しいオバマ像を打ち出すような仕掛けはなく、前回選挙時からのオバマ像の違いは見えない。また尺の長さがアクセシビリティ―の弊害となる可能性もあり、事実動画投稿時のアクティビティー率は静止画・テキスト投稿と比較しても低い。

一方ロムニー候補は、特に9月7日〜27日の投稿に見られるように(図8)、相対的に動画の利用が多く、この期間に使用されているものには、シナリオ構成に一定の原則が見受けられる。平均して30秒程度の尺であり、一本の動画に付き一つのテーマ(政策)が扱われている。冒頭にオバマ政権の実績批判が行われ、中盤ではロムニー自身の政策のポイントを絞って訴求、後半には候補者のプレゼンスと正統性が確認され、最後は献金あるいは会員登録の要請で締めくくられる。このようにテンプレート化されたフレームワークは投稿の頻発・大量生産に有効である。ロムニー候補を後発ブランドであると捉えると、やはり商材の紹介を丁寧に行い、具体性をもたせて新規参入の意義、他社製品との差別化を図る必要の自覚が窺える。

【図7】両候補者の種類別投稿数の違い
【図7】両候補者の種類別投稿数の違い
 
ロムニー候補は、オバマ候補に比して動画によるメッセージの発信回数が多い。

【図8】ロムニー候補者の投稿種類推移
【図8】ロムニー候補者の投稿種類推移

・コピーはキャッチーさが重要

バマ候補の投稿の大半はキャッチコピーが存在する。装飾を施し画像文字化されたフレーズは、シンプルでキャッチーでありユーザーの心象に残りやすい。写真やビデオメッセージと同様に、先行のプレミアムブランドとして獲得したリーチ力を活かし、強い認知度に拍車をかけるようなアプローチである。

一方、ロムニー候補の投稿にもスローガン利用が見られるが、多くはオバマ批判のメッセージであり、これは権力を奪取する立場からして当然と言えるが、自身の独自の主張に宛がわれていないところに、やや不満が残る。事実、政策や候補者の正統性を象徴するようなキャッチコピーはロムニー候補陣営からはあまり多く生まれていない。

【図9-1】オバマ候補とロムニー候補のコピーの違い

【図9-2】オバマ候補とロムニー候補のコピーの違い
【図9】オバマ候補(上)とロムニー候補(下)のコピーの違い

オバマ候補が使用する“I’ve got his back”は、ディベートで論敵と戦うオバマ候補に向けて支援者自身が「私たちがあなたの背後を守る」転じて「私たちが味方だ」という意味で使われているフレーズである。おもわず「Like」を投じたくなる印象的な一枚である。一方のロムニー候補は説明的なメッセージが多い傾向にある。

・リブランディングとブランド開発における戦略の違い

選挙戦において、両候補が有権者に究極的に売り込みたいものは、候補者自身の正統性と適性である。しかし両者はブランディングのロケーションマップ上では全く別の象限に位置している。商材に例えるなら、オバマ候補は既に先行して市場に認知されているパワーブランドであり(地政学・パワーポリティクス的に見れば世界のトップブランドであり)、ロムニー候補は後発隊として市場に参加した新規ブランドである。両候補/陣営はポジショニングの違いを積極的に認識し、複眼的に自己分析を行ったことで、ブランディング戦略上の違いにまで昇華させた。オバマ氏のリブランディング、ロムニー氏のブランド開発という戦略は、それぞれに最も適した Facebook 利用の戦術を要請したのである。

◇参考
◎ロムニー候補 Facebook ページ
https://www.facebook.com/mittromney
◎オバマ候補 Facebook ページ
https://www.facebook.com/barackobama
◎ギャラップ社「Election 2012 Trial Heat: Obama vs. Romney」
http://www.gallup.com/poll/150743/Obama-Romney.aspx

※本記事のオリジナル版 URL:http://www.citrusjapan.co.jp/global/27.html

----------------------------------------------------------------
GLOBAL INSIGHTS では、英文ライターによるネイティブ視点のコラム、及び広告制作を通して異文化間の調整を手がけるコーディネーターによる研究レポートを発信しています。
----------------------------------------------------------------

執筆:シトラスジャパン株式会社 プランナー 吉田徹
記事提供: シトラスジャパン株式会社(Citrus Japan, Inc.)