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中国におけるモバイルアプリ・ゲーム開発--インフラに関する4つの注意点

株式会社クララオンライン 家本賢太郎
2012年8月6日 / 10:10
 
 
 
中国でのモバイルアプリ開発で、インフラの視点から見て気をつけて頂きたいことを整理します。今回の場合、インフラというのはデータセンターやネットワーク、サーバーといった領域を指しています。中国全土の100近くのデータセンターを見てきた筆者の視点から、特に日本企業のモバイルアプリやモバイルゲームの展開においてよく課題になるケースをご説明することで、“転ばぬ先の杖”としていただくことを期待しています。

日本の企業が中国でのモバイルアプリ・モバイルゲームの展開を行う場合、一つは日本で既に開発済みのアプリやゲームを主に言語と決済部分だけローカライズして中国に持ち込むというパターンと、そもそも中国市場にあわせてゼロから開発するというパターンと両方があります。

前者の場合、日本の通信環境を前提とした開発がなされていることが多く、中国のようにインターネットや 3G 回線の品質が日本と大きく違う環境では成り立たない要素が大変多く存在しています。一方、後者の場合にも、設計自体をローカルで行っている場合には日常的に中国の通信環境を理解したメンバーの知恵が活かされることが期待できますが、開発だけ中国、設計は日本など国外といった場合、日本版からの移植と同様に課題が残ることがあります。では、ポイントを絞って筆者の経験を挙げてみましょう。

1.インフラの選定

モバイルアプリやゲームは、時として急速にトラフィックが伸びることがあり、サーバーを自社で用意していては間に合わないケースに遭遇することがあります。ビジネス自体が伸びていることなので(採算さえとれていれば)良いことですが、伸びすぎてしまってインフラが不足してしまうと今度は商売のチャンスを逃してしまうことになります。日本や欧米ではこうしたケースに対するソリューションは「クラウドを採用することですね」となりますが、今のところ中国国内のパブリッククラウド事業者はまだ欧米や日本のサービス水準には到達しておらず、また「売り切れ」が起きてしまうこともままあります。

そのため、パブリッククラウドを使ったインフラ構築はあまり一般的ではありません。とはいえ、データセンターを借りたり自社用のホスティング環境(多くの場合には今はプライベートクラウド)を借りたりする場合でも注意は必要です。データセンターの残りのスペースや、いざ必要になった場合にどのぐらいの時間でサーバーやネットワークの増強が可能かを細かく確認する必要があります。そのスケジュールも、口頭で聞いたものを鵜呑みにするのではなく、具体的に電源敷設にどれぐらい、ラック設置にどれぐらい、サーバーの納品にどれぐらい、構築にどれぐらい、というようにフェーズに分けて確認しています。

2.バックボーンネットワーク

中国ではいきなりデータセンターの上位回線を太くすることは難しく、データセンター事業者がキャリアとの交渉を行ったり、キャリア内部での調整が必要です。また、インターネットへのバックボーン回線の太さと物理的に敷設されている回線の太さをごちゃ混ぜにして説明されることも多く、もし爆発的にトラフィックが伸びる可能性がある場合には考慮する必要があります。キャリアの Meet Me Room(MMR)の設備の中に入ることができる場合には、通信設備の機種や型番、その機器に導入されているカードなどをみて現時点でのスペックを推測するという方法も使います。日本ではそこまでする必要はありませんが、「できる」という説明が「今すぐできる」という意味ではなく「調整すればできる」という意味であることは多く、どの程度の調整が必要かは予めこうして見ています。

3.通信の遅延(レイテンシ)の考慮

いきなりですが、インターネットの速度は光の速度を超えることはできません。通信は互いの距離が遠くなると一回のやり取り(往復)に要する時間がかかり、相手がそのパケットを受け取ったのかを確認する TCP/IP の場合、待ちの時間が発生します。そのやり取りは、光の速度を超えられないため、物理的な距離を考慮する必要があります。例えば北京〜上海間はデータセンター同士の通信でインターネット経由の場合、筆者の経験上では最も良い品質の回線を経由していても22ミリ秒から23ミリ秒かかります。距離から見れば20ミリ秒程度はやむを得ないため、これは受容されるべき数値です。しかしこれが夜間になると一部の通信経路では3〜5倍になることがあります。日本ではインターネットサーバーの多くが首都圏にあり、通信の遅延は無視してもよいことが多く、また仮に北海道や九州という場合でも日本国内は概ね通信自体の品質が良いため、夜間にデータセンター間の通信品質が異常に悪くなるということは一般的にはありません。

ところが中国では市場が異なります。例えばユーザー情報や認証情報を管理するサーバーを広州や上海、成都などに置き、ユーザーからのアクセスを受けるサーバーを北京に設置するとした場合、一回の動作ごとにおきるノード間のやり取りが少なければ大きな問題にならないものの、これが10回、20回という数になると遅延の数値を無視することが出来なくなります。つまり仮に通信の遅延が50ミリ秒で一回の画面遷移で10回のやり取りをすると、500ミリ秒のやり取りがあってから画面の遷移が行われるわけです。もしモバイル経由のアクセスの場合、これに対してさらに 3G 網の遅延がユーザーから見ると加算されますから(北京や上海市内の 3G 環境で北京・上海のサーバーにそれぞれ繋いだ場合、品質が良い時間帯やエリアでも150ミリ〜200ミリ秒)、サーバーの処理がどれだけ早くても通信にかかっている時間で相当待たされてしまうことになります。

これに対処するためには、ユーザー情報や認証情報・課金情報を管理するサーバーと、ユーザーからアクセスを受けるサーバーとの物理的・ネットワーク的な距離を近くするか、そもそも一回あたりの通信頻度を減らすことです。中国に限らず、アメリカやヨーロッパでも距離によって遅延は大きくなります。例えばアメリカでは東海岸と西海岸では70〜80ミリ秒を前提とするべきでしょう。即ち、中国だけのことと捉えず、極力サーバー間の通信の頻度を減らすことで様々な国・地域の通信環境に対応するという考え方も必要です。場合によってはそのためにプログラムの改修も検討に上がるでしょう。

4.3G 通信の品質

普段、筆者は中国電信の CDMA2000 と中国聯通の W-CDMA のそれぞれの 3G 通信環境を持っています。理由は簡単です。エリアによってどちらかが繋がらないことがあるため、確実に通信環境を確保するために2つのキャリアを使っています。日本の 3G の感覚と中国の 3G の感覚は全く異なります。電波の周波数の話はここでは避けるとしても、とても大ざっぱに書けば「中国では都市部でも 3G でカバーされていない場所がとても多い」ということです。また普段は使えているエリアでも基地局側の問題なのかどの端末からも繋がらないということもあります(普段は W-CDMA、つまり UMTS で通信できるのに今日は EDGE や GPRS でしか通信できないなど)。

今、筆者は上海の浦東国際空港にいてこの原稿を書いていますが、この筆者が書いているこのロケーションでは電波は -87dBm で UMTS で通信可能です。しかし少し建物の奥に入ると UMTS の電波が捉えられなくなり、GPRS でしか通信できなくなります。当然通信速度はガタッと下がります。(今日は聯通の 3G の端末を2つ持っているため、念のため両方で試しました)

中国でのモバイルアプリ・ゲーム開発でのインフラ面の4つの注意点
浦東国際空港(上海)の 3G 通信環境

少し建物の奥に入ると…GPRS での通信しかできない
少し建物の奥に入ると…
GPRS での通信しかできない

また、これは本コラムを継続的に読んで頂いている方には繰り返しになりますが、3G の定額制が無いということも含める必要があります。中国では Wi-Fi へのオフロードを積極的にキャリアが進めていますが、それは 3G のエリアカバー強化に対する投資対効果の課題も見えます。3G の環境がリッチではないことを前提にしたアプリやゲームの開発は、中国では外すことの出来ないポイントです。


字数の関係で細かいテーマにドリルダウンして触れることは出来ませんが、環境の違いを確実に吸収できるかはビジネスの成否に影響します。日本の環境をそのまま海外で展開することは様々な要素でほぼ不可能です。その地域ごとにどのようなインフラの特徴があるかを把握した上で、アプリやゲームの設計・開発に反映させることをおすすめします。

執筆:株式会社クララオンライン 家本賢太郎
記事提供:株式会社クララオンライン
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