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「人脈」について考える 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤

経済評論家 山崎 元
2012年3月23日 / 10:00
 
● 資産としての「人脈」

ビジネスパーソンにとって「人脈」が大切な資産の一つであることは疑いの余地がない。人脈とは人のつながりのことだが、ここでは、個人が持っている自分のために何らかのリソース(資源)を割いてくれる人の集団のことだと考えておこう。

もちろん、人のつながりには濃淡がある。ビジネス上価値がある人脈とは、たとえば、ビジネスあるいはプライベートな目的があって相手に会いたい場合に、何らかの時間を取ってくれるような人の集まりだと考えておくと分かりやすい。相手が継続的に自分のことを覚えていてくれて、事の成否はケース・バイ・ケースだとしても、何らかのビジネス上の頼み事を聞く機会を持っていてくれる人とのつながりは自分の人脈の要素にカウントしてもいいだろう。

人脈からはビジネス上の効用をもたらす様々なリソースを引き出すことが出来る。ある人はビジネス上必要な「情報」を教えてくれるかも知れないし、また別の人は必要な「人」を紹介してくれるかも知れない。あるいは、事業に必要な「お金」を出してくれたり、お金を調達する方法を教えてくれたりするような、相当に濃いつながりもあるだろうし、自分に「仕事」を提供してくれることもあるだろう。人脈からの恩恵を全く受けたことがないというビジネスパーソンは、絶対にいないとはいわないが、ごく少数だろう。

それなのに、人脈を自分にとって好ましいものに維持し発展させるために、意図的な努力をしているビジネスパーソンは案外多くない。かくいう筆者も自分の職業人生を振り返ってみて、人脈形成に関しては成り行き任せで受動的だったと思う。人脈について採点するなら、あまり高い点は付けられそうにない。

人脈について考える際に、筆者がよく思い出す先輩がいる。現在、60代の方だが、現役の外資系金融マンだ。仮に「Qさん」、としておこう。Qさんは、外資系金融マンとしては転職が難しくなる40代後半以降に、3回の転職を成功させている。直近の転職は、60代に入ってからのものだ。それなりの年齢の方を対象とする、支店長、日本法人の社長クラスの転職マーケットは小さいながらも存在するが、現場の第一線での転職は外資系で且つ金融となると珍しい。何れの転職にあっても、Qさんは転職先の会社から請われて入社しており、その理由は彼が保有している人脈にあった。

日本に進出しようとする外資系の金融(関連)会社は、日本で法人顧客を獲得したいが、法人顧客に対する効率的なアプローチを可能にする人間関係を持っていない。この点、外資系の大手銀行からキャリアをスタートし、長年日本を代表する大手の事業会社(メーカー、商社など)及び金融機関(銀行、証券、保険会社など)の現場の部長さんクラスから経営者クラスに至る人脈を保有しているQさんを通じてなら、新参者の外資系企業であってもビジネスの用件で相手先企業のキー・パーソンにアプローチすることが出来る。

● 名刺の寿命

Qさんは、貰った名刺を捨てない主義だと聞いたことがある。あるいは今ではもっと増えたかも知れないが、数万枚の名刺をご自宅にお持ちだ。どうやら、デジタル技術を使うのではない彼独自の名刺管理法を使っているらしい。

ちなみに、筆者は12回転職したので、社名の異なる13社の名刺を持っているが、自分自身以外で全てを持っている可能性のある人はQさんだけだ。もっとも、人脈の達人であるQさんも、全ての名刺を同等に大切にしている訳ではなく、その時その時のビジネスに重要な名刺をセレクトして手元に置いて活用しているようだ。

特に営業的な仕事をしているビジネスパーソンの場合、自分の名刺ファイルは資産そのものだ。外資系の企業でいきなりのクビがあるようなケースでは、自分の机の中の物を後から会社側がより分けて私物を送り返す際に、名刺ファイルを没収されるケースがある(仕事で得た人間関係は会社のものだという認識だろう)。名刺ファイルを送り返してくれる場合も、しばらくの間ビジネス上の重要人物への連絡が不自由になる場合がある。物理的に名刺そのものを持つかどうかは人によるが、少なくとも重要人物への詳しい連絡先については、バックアップを持っているべきだろう。今なら、名刺をスキャンしたデータを手元持っているのが最も手軽かも知れない。

感覚的な言い方で恐縮だが、日本のビジネスにあって名刺の価値は、「概ね2年で半減」する。2年くらい経つと、名刺をくれた人の所属する部署が変わったり、その人が転職したり、会社の名前や住所が変わったりといった事情で、名刺がその人の正確な肩書きと連絡先を表す物でなくなることが多いのだ。

人間関係そのものも、2年前くらいに会ったことがあれば、次に会った時にそれを「よく会っている関係」のように相手に印象づけることも出来るし、「久しぶりだ」としばらく会わなかったことを強調することもできる。これ以上間隔が空くとそうはいかない場合が多い。

「一対一ないしは、少なくともお互いにゆっくり直接話せるくらいの少人数で、2年に一度以上会う」という条件を考えると、一人の人が持つことが出来る「生きている人脈」の物理的な限界のようなものが見えてくる。

また、逆に考えると、2年間に一度以上の頻度で会える相手は、自分の工夫と努力によって何らかの意味で自分の人脈に加えることができるはずだ。読者は、2年間に何人の人と会っているだろうか。

● 「人脈」の長期的寿命

生きている人脈にある種の賞味期限があるように、人脈を構成する顔ぶれが持つ人脈の寿命のようなものもある。

再びQさんに登場して貰うと、彼は、仕事を通じて、自分の同年代はもちろん、自分よりも20歳年上くらいの人から自分の10歳年下くらいの人まで、年齢にして上下30歳くらいの人と会っていたし、重要な、あるいは気が合う人物とは、プライベートな時間も使って親しい関係を続けていた。

10年ぐらい経つと、自分とかつて親しく付き合った人物が、会社の社長や役員、あるいは重要な部署の部長のような要職に続々と就くようになって、彼の人脈のビジネス的な「使いで」が圧倒的に向上した。彼の人脈は最盛期を迎えた。

日本の大手法人企業の場合、新たに新しい相手と付き合う(取引・融資関係を持つとか、コンサルティングなどを受け入れるとか)場合、部長・本部長(役員)・社長の3人くらいをその気にさせる必要がある場合が多い。これらの一人と深い人現関係を持っていればチャンスを作ることができるし、複数の人間と関係を持っていればチャンスの実現性はぐっと大きくなる。筆者が脇で観察していると、Qさんの人脈は、彼の40歳前後から50代の半ばくらいまでの十数年間大いに生産的な力を発揮したように思える。

しかし、近年になると、さすがのQさんも、知り合いが引退したり、社長になったりで、ややパワーダウンしてきたのだという。有力企業の社長と知り合い、という人間関係は現在も大いに価値を持つが、日本の企業では、「案件」は多くの場合現場から上がってくるものなので、現場(担当者から課長、部長クラス)にアプローチできなければ、物事が進められない場合がある。

一般的な傾向をいうと、自分よりも年長者との人脈は早く役に立つし、自分よりも若い人との人間関係は長く、あるいは後から役に立つことが多い。人脈に即効性を求めるなら、前者が貴重であることが多いが、年上と同年代ばかりの人脈は油断すると古くなる。

そうはいっても、年齢が大きくかけ離れたどうしで個人的に親交を深めるのはなかなか大変なので、個々のビジネスパーソンが持つ人脈は、その人固有の人付き合いの傾向から制約を受けることになる。

● 「人脈」の作り方

ビジネスパーソンの間では「異業種交流会」のような形やパーティー好きの友人を通じて広い範囲の人と名刺を交換して顔を売ることに熱心な人がいるが、多くの場合、この種の会合で一度会っただけというだけでは、その人間関係は人脈に発展しない。名刺を集めるだけでは、人脈は育たない。たぶん、年賀状のシーズンに張り合いがある、という程度の意味しか無い。

多くの場合、人脈の構成要素に育つ人間関係が生まれるのは、第一に仕事上のやりとりが頻繁にあった相手とであり、第二に飲食や何らかの趣味など共通の目的を持ってプライベートな時間を持った相手とである。

自分の人脈にこの人を是非加えたい、と思った場合にどうしたらいいか。筆者の経験をいうと、「短い間隔で二回メシを食う」ことが有効だと思う。一度目の食事では、お互いに自分の時間を一度は割いてもいい相手だと相手を認めた実績が出来る。一度の食事だけでも、一応は知り合いだが、あまり間を置かずに二度目の食事を共にすることで、お互いにまた会ってもいい関係だと思ったという事実が実績化して双方に印象づけられる。二度目にまた会うことで、一度目の食事の機会が生きてくるのと共に人間関係が行動で証明された心理的効果を持つ。絶対とは請け合えないが、二度食事をしておくと、たとえば、2年後に、「あのときにご一緒したナニナニ(=自分の名前)ですが、折り入ってお話ししたい件があるのですが、お時間を頂けませんか」という依頼に対して、時間を都合するくらいのことはしてくれそうに思える。

ちなみに、この手は、気に入った飲食店で常連客的な扱いを早く受けたい場合にも役に立つ。一度訪れた後に、あまり間を置かずに再訪して食事やお酒に対する感想を述べると、先方の印象に残ることが多い。

もっとも、人脈が維持され、いつでも深く活用できる有効な状態を保つためには、自分自身が相手にとって魅力的で有効な人脈の構成要素であり続ける事以外に有効な手立ては無い。ギブ・アンド・テイクのバランスが大きく狂った人間関係は維持が難しい。知識や人柄、あるいは別の人脈の紹介など、他人の役に立ち、それを気持ちよく行うことができる自分をどのように高め、且つ保つかが大切になってくる。

【筆者紹介】
山崎 元(やまざき はじめ):経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員。58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。

※この記事は、リクルートエージェントのウェブサイト「ビジネス羅針盤」に掲載された内容をjapan.internet.com 編集部が再編集したものです。リクルートエージェントの転職支援サービスについては http://www.r-agent.co.jp/ をご覧ください。

 
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