Business

ビジネス

良い就職・転職先を決める三つの要素 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤

経済評論家 山崎 元
2012年3月9日 / 10:00
 
大学で授業を持っていることもあり、最近、筆者は就職について意見を求められることが多い。学生の就職活動を巡る環境は極めて厳しいが、それでも、複数の内定が取得可能で就職先に迷う学生もいるし、本格的な就職活動を前にして方針決定に悩む学生もいる。

また、研修などの体制の整っている大企業の方がいいのか、若い頃から多くの仕事が体験できる中小企業がいいのか、あるいはベンチャー企業への就職はどうなのか、といった問題について、ツイッターやブログなどネットの場でも、意見が多数やりとりされている。

一般論として、就職について考える場合、最も重要なのは仕事の内容だ。自分がどの仕事に興味を持っていて、その仕事は、今後自分の時間と努力を「投資」するに値するかどうかについて、真剣に考えなければならない。

投資としての観点から業種・職種を選択することに関する大まかな検討要素を四つあげると、

(1)その仕事の成果に対しては将来もニーズがあるか、
(2)その仕事は新興国労働者に置き換え可能ではないか、
(3)その仕事はコンピューターに置き換え可能ではないか、
(4)その仕事に習熟すると新米と大きな差を作ることが可能か、

といった点になる。

日本が強みを失いつつある分野の技術職などは将来苦戦が予想されるし、人気の職種でも知的な仕事を含めて「きれいな仕事」の幾つかはコンピューターやネットワークに置き換えられてしまう心配がある。また、5年くらい勤めてみた場合に、その仕事の経験が自分の人材価値になるかどうかといった検討も重要だ。

もちろん、こうした一般論の他に、(A)その仕事に自分が(休日をつぶして勉強してもいいくらいの)興味を持てるか、(B)その仕事は自分の価値観に合致するか、といった個人の考え・感覚が業種・職種の選択のために重要だ。

次に、ある職種に興味を持ったとして、どの会社・どの職場で自分がその職に就くことを目指すかを決めなければならない。この場合に重要なのは、主に会社の評価だ。

会社の評価というと、「将来性」とか「安定性」、あるいは「社風」といった要素が話題に上るが、筆者は、これらの要素をそれほど重大視しない(無視もしないが、決定的に重要だとは思わない)。個々の会社の10年単位の将来性など誰にも分からないし、ざっと40年に及ぼうかという職業人生全体を安定的にカバーできる会社など結果論でしか存在しない(事前には分からない)からだ。

個人が、ある程度計算し、計画できて、真に頼るべきは、職業人としての自分の人材価値しかない。本稿では、こうした観点から就職先の会社(あるいは個々の職場)の良し悪しを評価する際の要素を三つ挙げてみたい。

【要素1】周囲の優秀な人材

若い時分、特に20代での職業・職場の選択で最も重要な要素は、その職場に、自分が目指す仕事で優秀な先輩・同僚がどの程度いるかということだ。特に20代にあっては、仕事を覚えること、それもなるべく高いレベルの仕事の能力を早く身につけることが最重要のポイントだ。

この目的のために最も有効なのは、職場に優秀な指導者及び仕事スキルの収得に当たってライバルとなるような競争相手がいることだ。一般に就職先として大企業が有利なのは、研修等の仕組みが整備されていることよりも、仕事の場そのものに、手本となったり、良い競争相手となったりする社員がいることが多い点だ。仕事の勉強自体は主として自分でやるものなので、何を勉強したらいいかを指導してくれたり、勉強をする上での刺激になるライバルがいてくれたりすることの効果が大きい。

ただし、自分が目指す職業・職種にあって、大企業であっても、常に優秀な社員がいるとは限らない。筆者も、転職先が大企業であっても、自分が務める職種のレベルが高くない(かなり失望するようなものだった)ケースを経験している。また、たとえば、クリエイティブな専門職的仕事の場合、大企業の該当部署に入るよりも、業界で名をなして独立したような「師匠」が経営する会社に入る方が、仕事がよく身につく場合が多いかも知れない。

就職先にどんな人材がいるのかは、面接などの場を通じて情報収集することになるが、会社の外からは十分分からないかも知れない。しかし、唯一あげるとすれば、「周囲の人材の質」こそが、職場選択で最も重要なポイントだ。給料でも、知名度でもない。ただし、一つだけ注意すべきなのは、周囲の人材レベルがあまりに高い場合に、かえって勉強にならなかったり、モチベーションが保てなかったり、あるいはその組織から落ちこぼれてしまう心配があることだ。

今後の日本企業の経営を考えると、大組織の場合、上位2割を厚遇し、下位1割をリストラなどで切り捨て、中位の7割のやる気を盛り上げるような、米国企業的な人材マネジメントが行われる可能性が大きい。そうでなくとも、人材集団の中で自分が下位1割に入る可能性があるような就職先は、仕事を勉強する環境として良いとはいえない。

【要素2】仕事の機会の量と質

周囲の人材に次ぐ職場の評価要素は、経験となるべき仕事の量と質だ。この場合、「量と質」の順序であって、「質と量」の順番ではないことに注意が必要だ。なぜなら、仕事の習熟にあたって、量を伴わない質というものは想像しにくいからだ。特に20代、30代にあっては、忙しい職場の方がいい職場であることが多い。その方が、多くの具体的な経験と早く接することができるからだが、暇な職場に就職したケースと比較すると、数年で大差が付くことがある。

また、一般に「キツイ職場」から「ユルイ職場」への転職は適応が容易だが、逆の転職は(ことに30代以降は)適応に苦労することが多い。この点では、人材がだぶつき気味の大企業よりも、人手不足気味で優秀な社員に仕事が集中する中小企業の方が多くの経験が出来る可能性がある。

たとえば、貿易の仕事であれば、大手の商社で特定の商品の輸出の契約と受け渡しばかりやっているよりも、中小商社で輸出も輸入も企業買収も手掛けるような経験をする方が、商社マンとしての仕上がりは早いかも知れない。特に将来の独立を目指すなら、その方が話が早いかも知れない。

もっとも、近年では、大企業でも若い頃から投資先に出向するような形で、会社の仕事のあれこれを経験しながら、身分(所属)と給与は大企業のものというような好条件が可能な場合もある。この点も、個々の職場について、どのような働き方が待っているのかを調べなければ分からない。

また、転職で入社する際には、どんなポジションで、何の仕事をするのかについて、事前に詳しく分かることが多いだろうし、働き方について交渉が可能な場合も少なくない。働き方の内容によっては、知名度の高くない会社でも、素晴らしい就職先になる可能性がある。この場合も、特に20代の社員は、自分の職業スキルに対する「投資」先として、職場を評価する観点が重要だ。

【要素3】経済を含む勤務条件

給料、ボーナス、年金制度、休暇制度、オフィス環境、などの労働の諸条件が三番目に来る。

給料やボーナスは多くて困るということはない。高い報酬は、働く上で、また仕事を身につける上で、その仕事に誇りを持つために、プラスに働く。20代の頃は、当面の処遇よりも、将来稼ぐ所得が問題であり、そのために自分の人材価値を早く作ることが重要だが、他の条件を一定とすると、働く上での諸条件はいいに越したことはない。但し、周囲の人材の質や、仕事の量と質といった諸条件についてよく分からないまま、経済的な条件だけを魅力と感じて転職するようなケースには心配が多い。

自分の人材価値にとってプラスに働かないような職場に、少々の待遇改善に釣られて転職すると、後で後悔することが多い。

● 就職は「出会い」

職種の選択ということも含めて、良い職場というものは、データによって事前に評価できるものというものよりも、たまたまに近い形で「出会う」ものであることが多い。

良い職業とは、恋愛に似て「出会う」ものだ。こう言うとロマンティックに過ぎるかも知れないが、具体的な対象があってはじめてその職種なり職場なりの良さが分かるようになるという点で、職業選択は恋愛に似ている。何れにあっても、具体的な対象との出会いが、それを評価する理屈に先立って表れる。つまり、自分に本当に合う仕事なのかどうかは、やってみなければ分からないし、職場も入ってみなければ分からない。

一方、職場・会社との関係は、しばしば結婚に似た形式的で長期的な関係になるものなので、職場を冷静に評価する視点をあらかじめ持っておいて、時には頭を冷やすことが有益なのだ。

就職や転職の際には、今回挙げた三条件を思い出してみて欲しい。

【筆者紹介】
山崎 元(やまざき はじめ):経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員。58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。

※この記事は、リクルートエージェントのウェブサイト「ビジネス羅針盤」に掲載された内容をjapan.internet.com 編集部が再編集したものです。リクルートエージェントの転職支援サービスについては http://www.r-agent.co.jp/ をご覧ください。

 
【関連記事】
”会議”との上手な付き合い方 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤
転職で失敗する5つの理由 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤
「出世」というゲームの構造はどうなっているか 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤
転職に「学歴」はどれほど関係があるか 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤
「人的資本」を育てよう 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤

関連キーワード:
転職
 
リクルート
 
ベンチマーク
 

New Topics

Special Ad

ウマいもの情報てんこ盛り「えん食べ」
ウマいもの情報てんこ盛り「えん食べ」 「えん食べ」は、エンジョイして食べる、エンターテイメントとして食べものを楽しむための、ニュース、コラム、レシピ、動画などを提供します。 てんこ盛りをエンジョイするのは こちらから

Hot Topics

IT Job

Interviews / Specials

Popular

Access Ranking

Partner Sites