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「出世」というゲームの構造はどうなっているか 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤

経済評論家 山崎 元
2012年2月17日 / 10:00
 
● 「評判」の積み立てと換金

ビジネスパーソンで出世に関心の無い人は、ほとんど存在しない。自分の出世に無頓着を装う人であっても、他人の人事には多大な関心を持って、噂話に加わるのが普通だ。

日本の企業は、伝統的に、金銭面の報酬ではあまり大きな差を付けずに、出世の微妙な差をもって社員を働かせることに長けていた。もちろん、20代、30代の頃の出世の遅速も、将来の最終ポストの差やこれに伴う退職金、年金、さらには退職後の行き先などに影響することがあるので、金銭的な報酬と無関係ではないが、多くのビジネスパーソンが出世そのものを動機として働いてきた。出世は後払い分の賃金を期待させるクーポン券のような役割を果たす一方で、それだけでなく、出世自体が目標となり、励みにもなっていた。

論理的には、成果に対して金銭的な報酬を払い、今後の成果に対する期待値としての能力評価に応じてポスト、すなわち出世を与えると整理できるとすっきりするが、これまでは、報酬を節約できることのメリット(企業にとっての)が、圧倒的に優位だった。また、ビジネスパーソンにとって出世は金銭とはまた別の「精神的報酬」でもあるので、今後、成果主義が優勢な世の中になっても、我々が出世に無関心になることはないだろう。

それでは、日本の組織(官庁も企業も基本は同じである)における「出世」とはどのような構造のゲームなのか。それは、(1)評判を積み立てて運用し、(2)上位者を使ってこれを換金する、ゲームだといえる。

●「できる」という評判

日本の組織の場合、業績や能力も大切だが、これらの数量的な絶対値よりも、これらも含めて集約された組織内でのその個人の「評判」が重要であるように思える。簡単にいうと、評判のいい人物は成果の割に出世する傾向があるし、成果が上がりやすい仕事を割り振られることが多いので、また、一段と出世しやすい。

また、例えば、必ずしも相性の良くない上司の下に配属されても、組織内の評判が圧倒的に良い人物に対しては、上司の側で「(評価に)傷をつけられない」といった配慮を働かせることがある。

「評判」の元になるものは、大まかに言って、「能力」あるいは「人物」についてのエピソードだ。仕事につながる能力は日本の組織でも、それなりに正当に評価されている。組織はそのメンバーの誰にとっても「そこで食べて行く場所」なので、上司は「できる」(能力のある)部下を使いたいと思うし、部下も「できる」上司を頼りたいと本能的に感じていることが多い。

ただ、多くの場合、ビジネスパーソンは能力を常にフルに発揮して仕事をしているわけではないし、能力評価の客観的な尺度が明確にある訳ではない。ある人物が「できる!」という評判は印象的なエピソードや、時には単なる噂話の場合もある。また、学校の試験のような学力が仕事の能力と完全に相関する訳ではないし、学力にしても若い頃の「できる人」が二十年、三十年経ってなお「できる人」であり続けている保証はない。しかし、たとえば、公務員であれば、公務員試験の成績順位で形成された「彼(彼女)はできる!」という評判が後年まで有効なケースがしばしばある。

企業の場合、仕事で成果が上がるとしても、必ずしも一個人だけの貢献によるものとは限らないが、しばしば印象的な一人の手柄になって、その個人が「できる」という評価を総取りするようなことが起こる。「できる」という評価の元になる事実は、複数の人の印象に残って、エピソードとして組織内に拡散されることが重要であり、これが一旦上手く行くと、「彼(彼女)は、よくできるので、成功している」というイメージが形成されやすくなって、評判が着々と積み立てられて、しかも利息が付くように拡大する、好循環が生まれる。

もちろん、仕事上の能力を高めることも、仕事に熱心に取り組むことが大事だが(注:継続する熱意は能力の重要な一部だ)、成果や本人の能力をアピールする広義のプレゼンテーション能力が重要だ。

● 評判のいい「人物」像

組織内での評判の中で、重要だが捉えどころのないものとして、「人物」(≒人間性)に関するものがある。「彼はなかなかの人物だよ」などと組織内の他人に噂される類の人物像だ。具体的にどういう人物が、これに該当するのかを一言に集約するのは難しいが、敢えて言い換えを試みると、「頼りがいのある人物」ということになる。

組織で仕事をする場合には、上司から部下を見る場合も、部下から上司を見る場合も、その人物を自分が信頼し頼っていいかどうかが決定的に重要だ。この点の特質において、他人よりも高い評価を得る人物には、良い評判が立ち、出世においても自然と有利になる。

信頼されるためには、判断や行動の「一貫性」、本人の言葉と真意が一致しているという「言行一致」、彼なら会社のためにこうするだろうということが容易に推測できる「意見の予測可能性」の三点が大事だ。

ある種の頑固さが評価されることもあるし、ある人物の意見を組織内の皆がポジティブで共通した印象の下に知っていることが有効な場合もある。何を持ち味とするかは人それぞれだが、裏表のある言動、日和見主義的な意見の変化などは大きな減点要素となる。

● 評判の「換金」


ビジネスパーソンは、組織の中で個人としての「評判」を、積立貯蓄のように、あるいは株価のように蓄積して行くのだが、これだけでは、現実に出世するとは限らない。

理不尽なところでもあり、逆に人生の面白いところでもあるが、積み立てた財産をあたかも換金してポストのために使うことが出来ないと、出世は実現しない。実生活での貯蓄や投資なら、持ち主が勝手に換金して使うことが出来るが、組織の世界では、上位者(通常は上司、又は上司の上司)が評判の持ち主に地位を与えようという気にならないと、いいポストは獲得できないし、ひいてはいい仕事の機会が巡ってこない。上位者は、ちょうど金融機関の窓口担当者のような役割を果たす。彼(彼女)が動いてくれないと、せっかくの蓄積が換金できないのだ。

同じように高い評判を持っている人物を処遇するとしても、意思決定者が「彼(彼女)をできれば良く処遇したい」と思うタイプと、「彼(彼女)は(高評価だから)良く処遇しないとまずいだろう」という程度にしか思われないタイプとでは、出世のスピードにかなりの開きが出る。

身近な組織を見てみて欲しい。能力的には優秀なのだけれども、意外に出世しなくて、本人は不満を募らせ、周囲も少々意外に思うような先輩はいないだろうか。彼(彼女)は、おそらく後者のタイプだ。たぶん、運だけの問題ではない。

この傾向は、出世レースも後半の候補者数に対してポストの数が絞られてくる段階にあってより顕著に表れることが多い。意外な人物が役員に(時には「社長!」にも)抜擢されたりする際にもこの部分での差が大きい。

では、「換金」の可否を握る上位者に気に入られるタイプあるいは行動とは何か。第一に、単純な話だが、「よく知っている人物」だ。人間は、よく知っている相手、頻繁に接触する相手に好感を持つ傾向がある(嫌いな相手とは接触が減る、ということもある)。加えて、上司の立場から見て、能力や人柄についてよく知っている部下の方が、「できる」のかも知れないけれどもよく知らない部下を使うよりも安心だ。能力の限界が分かっていればまだ対処のしようはあるが、能力が分からない、というのは使いにくい。このような事情があるので、多くのビジネスパーソンが、社内の人間関係に多大な時間を費やすのだ。

第二に、「上位者を立てる人物」だ。人事権には恩義が絡む。誰かを引き立てるなら、将来自分を大切にしてくれそうな人物を選ぶというのは、自然な人情だろう。「ごますり」も有効だし、相手に気持ちよく「威張らせる」ことは、たぶんもっと有効だ。しかし、ビジネスパーソンにとってごますりも戦略の一つだが、これは、やり過ぎると、或いは上手にやらないと、「評判」の方を損ねてしまう危険性がある。

第三に、「上位者に似た人物像」だろうか。特に、年長者が年の離れた年少者を評価するときに「彼は(彼女は)、自分の若い頃に似ている」と思って親近感を持つ場合が多いようだ。

何れにしても、上位者に「あいつには、ちょっと可愛いところがある」と思わせる人物は出世しやすい。上位者は年の離れた年長者であることが多い。一般に、若くして大抜擢を受ける人物や、起業家も含めて新しいビジネスを短期間に成功させる人物には、年長者の扱いが天才的に上手い人物が多い。この技の詳細は、残念ながらその技を持ち合わせていない筆者には解説できないが、ビジネスで成功することに対して強いモチベーションのある読者は、是非研究してみて欲しい。

●「出世の天才」のアドバイス


さて、出世について筆者なりに整理してみると、かつて筆者が若手社員(もちろん20代)だった頃に貰った先輩からのアドバイスを思い出す。アドバイスをくれた先輩は、直属の上司ではないが、同じ部署で仕事をしている課長級の人だった。彼は、一若手社員に過ぎない筆者の目から見ても、組織で受けのいい「いかにも出世しそうなタイプの人」に見えた。

仕事上の問題で上司と対立して面白くなく思っていた当時の筆者に彼は次のようなアドバイスをくれた。

「いいか、ヤマザキ。先ず、意見は常に大きな声で言え。そして、ここが肝心の所だが、誰に対しても同じことを言え。相手によって意見を変える奴は信用されない。そして、意見は会社のためを思って言え。会社のためを思って言った意見なら、たとえ間違っていても、後でお前は救われる。うちの会社は、その程度には信用していい。これが出来れば、お前は大丈夫だ。あと、そうだな。『あいつは、いい奴だ』と思わせるような可愛げがほんの少しあれば、間違いなく大成功するよ」

よく考えると、このアドバイスの中には、今回述べたことのすべての要素が詰まっている。そして、その後、先輩は、さる大企業の最高ポストまで上り詰めた。アドバイスを受けた筆者は、転職してしまったし、最後の一項目に関して心許なかったので、出世のアドバイスに関する十分な実験台にはなれていないが、このアドバイスは読者のご参考になると思う。

【筆者紹介】
山崎 元(やまざき はじめ):経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員。58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。

※この記事は、リクルートエージェントのウェブサイト「ビジネス羅針盤」に掲載された内容をjapan.internet.com 編集部が再編集したものです。リクルートエージェントの転職支援サービスについては http://www.r-agent.co.jp/ をご覧ください。

 
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