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転職時の経済条件交渉術 〜経済評論家・ 山崎元の転職原論(8)

経済評論家 山崎 元
2011年10月28日 / 10:00
 
● 条件は相手に先に言わせる

採用側と候補者側であくまでも仕事の内容について合意できることが前提だが、次には、年収などを含む転職の際の条件交渉が問題になる。たとえば、面接で、「ところで、給料(あるいは年収)はどのくらいをお望みですか」と訊かれた時にどう答えたらいいか。

交渉の一般論としては、金額の提示は相手に先にやらせる方が得だ。採用側は候補者の心証を悪くしたくないから、あまりに低い条件は出しにくい。また、候補者側は「高過ぎる数字を言うと破談になるのではないか」と心配でつい遠慮がちな数字を言う可能性がある。「私も一応の目途は持っていますが、年収が多くて困ることはありません。交渉の一般論としては、先に金額を提示する方が有利らしいので、ここはそちら側からお願いできませんか」とでも言ってみるといいだろう。

採用側にも、相手に先に物を言わせることが親切だと勘違いしていたり、自分から条件提示が出来ない優柔不断な人がいるので、この場合は、先に自説を提示してみてもいいが、できれば金額は相手から先に言わせたい。

尚、ヘッドハンター或いは人材紹介会社が間に入ると、金額の交渉はかなりやりやすくなる。紹介会社経由でやりとりするのが、スマートで且つ精神的な負担が無い点で楽な場合が多い。紹介の手数料は紹介した候補者の新年収にリンクすることが多いので、紹介会社は基本的に候補者よりの交渉者だ。

● 換算年次と前職の年俸

募集の時点でその職種の給与が決まっていたり、動かしようの無い給与テーブルがある会社は別だが、近年、年俸決定自体が流動化しているので、中途採用の際の年俸にはかなりの柔軟性があることが多い。

会社側の論理としては、採用する候補者が新卒で入っていた場合の年次、あるいはこれをキャリアで調整(通常は年次を下げる方向の調整が多い)した年次に従った経済的な条件を提示(英語では「オファー」)したいと考えることが多い。前職の年収が大きく低い場合は、こうした基準で考えて貰うと好都合だ。

前職の年収が悪くない場合は「せっかく移るのだから、大きな損の無い条件、できれば「やる気の出る条件」(=前職よりも好条件という意味)でやりたい」といった趣旨を伝えて、前職の年収を基準に金額交渉するといい。

業界にもよるが、外資系の会社の場合、前職の年収の3〜5割アップくらいを提示することが多い。

前職と次の職場の年金・退職金制度にもよるので「何歳で、何%損だ」とはっきりはいえないが、残念ながら日本の場合、転職によって、企業年金や退職金で損をすることは少なくない。転職前後にボーナスでも損をすることがある。30代なら年収2〜3割アップで損得無しと思うくらいで、そう外れていないだろう。

● ベース・サラリー、ボーナス、住宅、年金、自社株


転職の際の経済的条件は毎月の給料だけで決まるわけではない。

個々の会社によっていろいろだが、典型的な外資系の会社の場合の条件提示方法を頭に入れておくと、主なチェックポイントが分かるだろう。外資系の会社の場合、先ず、報酬は「ベース・サラリー」と呼ぶ固定給で多くは12分割して毎月払う部分と、「ボーナス」としてたいていは1年に1度払うお金とで年収が構成される。

多くの場合、重要なのは、何に基づいて、誰が決めて、幾らくらいのボーナスを払うかだ。日本人は安定収入にこだわり、ベース・サラリーを高めにしたがる傾向があるが、これは、「高コストな人間」と見られて将来苦労することがあるから、注意が必要だ。

ベース・サラリーとボーナス以外で大きいのは、住宅関係の制度だ。日本の場合住宅手当が出る会社があるし、外資系の会社などで賃貸物件に住んでいる場合、会社が借り上げて「借り上げ社宅」にして節税に協力する場合があり、影響が大きい。

年金の条件も意外に大きな影響を持つ場合があり、要チェックだ。外資系の場合、本国の本社の制度が適用されて大きなメリットになることがある。ボーナスの一部を年金や退職金に繰り入れて節税出来る仕組みを持っている場合もある。

尚、「ボーナスは業績による」としても、初年度は業績が出にくい場合が多いし、入社もちょうどいい時期に入るとは限らない。企業側が是非採用したい社員の場合、初年度のボーナスの最低額を保証するケースもある。

もう一点、時に重要なのは、自社株や自社株のストック・オプション(将来一定価格で株を買う権利)を付与する制度の有無と、これがある場合の条件だ。ベンチャー企業に就職する時には、場合によっては自社株に関連する条件が最重要なチェック・ポイントになる場合がある。

その他、各種の福利厚生なども気になる場合は、遠慮なく聞くといい。この際に、細かいけれども忘れてはいけないのは、入社初年度の有給休暇日数だ。たとえば、会社によっては有給休暇の付与のルールが硬直的で、入社初年度の有給休暇が極端に少ない場合がままある。こうした場合、「一年で○日では、病気にでもなった場合に心配だ。もう少し何とかならないか」と交渉してみると、特例を認めてくれる場合が案外多い。

● 主張は遠慮せずに伝える

経済的な条件は、大まかには総年収で交渉するといい場合が多いが、相手が提示する条件と自分の希望が離れている場合に、自分の希望額は、はっきり述べてみる価値がある。理由を示しつつ、簡潔に述べてみよう。理由さえ明確であれば、現代社会では、希望をはっきり述べる方が得になることが圧倒的に多い。

相手がもともと交渉の「のりしろ」を用意している場合もあるし、結局、相手の提示額で折り合うとしても、ある種の精神的な「貸し」になる。

年収以外に交渉してみる価値があるのは、転職に前後して生じるボーナス評価上の損の補填だ。転職の時期によっては、前職のボーナス評価期間に対応するボーナスを貰い損ねることになる場合があり、これに対する配慮を求める。初年度のボーナスの最低保証でカバーしてくれることもあるし、別途、移籍に伴う一時金を出してくれることもある。

● 強く押して、サッと引く


経済的な条件に関して、長引く交渉をするのは本人も大変だし、あまり印象のいいものではない。それに、相手から無理な条件を引き出しても、入社してしまえば、会社側は、二年目、三年目以降の条件を通じて会社に都合良く調整することも出来る。

転職で入社を決めるときは、ある意味では相手に対する交渉力の最も強いときなので、理屈の通る希望があれば一度交渉してみる価値があるが、それで入社の日取りに影響するようなしつこい交渉はしない方がいいことが多い。意見ははっきり言っていいが、「強く押して、サッと引く」という心構えがいい。


【筆者紹介】
山崎 元(やまざき はじめ):経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員。58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。

※この記事は、リクルートエージェントのウェブサイト「転職成功ガイド」に掲載された内容をjapan.internet.com 編集部が再編集したものです。リクルートエージェントの転職支援サービスについては http://www.r-agent.co.jp/ をご覧ください。

 
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