GABのアイコンイメージ
かわいらしいカエルのアイコンだが、その意味を知ると驚く

差別や中傷、ヘイトスピーチ(憎悪表現)を封じこめるため、言論・表現の統制を強めるTwitter。対抗するかたちで言論・表現の自由をかかげるSNSとして「GAB」が脚光を浴びる。しかしその参加者には奇妙なかたよりがある。

GABは2016年に設立。本社をテキサス州オースティン市に置く。広告のないSNSをうたっており、クリエイターなどを主な対象とし、最近は米国などで言論・表現の自由をかかげて脚光を浴びる。流れる投稿をみると、なるほどTwitterなどで居場所を失った人々の避難所ではある。


だがGABがアイコンとしている緑のカエルは、「カエルのペペ(Pepe the Frog)」を連想させる。ヘイトスピーチの発信源の1つとして非難を浴びるAlt-Right(オルトライト)という過激な集団が、とある漫画の作者に無断で旗印として使っているキャラクターだ。実際、GABを立ち上げたAndrew Torba(アンドリュー・トルバ)氏はAlt-Rightに近しい人物ともっぱらの評判だ。米国では主義や思想などによる社会の分断が深刻になっているが、IT業界にも事態は反映しているといえる。

事実、GABは多くのIT企業から距離を置かれている。例えば以前からAndroidスマートフォン向けアプリケーションを用意しているものの、Googleは取り扱うのを拒絶しているため、直接公式サイトからダウンロードするしかない。

特異ないきさつを持つSNSではあるが、支持する人がいない訳ではい。Alt-Rightの思想、主義に共感はせずとも、既存のSNSの激しい言論・表現統制もうとましく思う層がいるためだ。

TwitterやFacebookといったSNSは、かつて厳しく言論・表現を制限する国々で、人々が自由に意見や気持ちをかたちにできる手段として脚光を浴びた。

しかし世界にSNSを広めた旗振り役である米国でも、最近は社会のために言論・表現の自由は手ばなしで歓迎すべきではない、という見方に変わってきた。かくしてヘイトスピーチなどを取り締まる名目で、日々膨大な数の人が凍結(利用停止)の処分にあっている。

しかもその方法というのが、必ずしも精確と言いがたい自動分析システムと、人々の相互監視による通報。結果として凍結は今やヘイトスピーチなどを封じこめるだけでなく、単に意見の異なる他者、あるいは目ざわりな誰かを黙らせる武器としても働いている。まだ手ぬるい、もっと厳しくせよとの声も多いが、まるでディストピア(暗黒郷)SFを思わせる状況は、一部の人をうんざりさせもしている。

使っている人の数からするとGABがTwitterやFacebookなどの牙城を脅かす可能性はきわめて低い。とはいえ、あくまで言論・表現の自由を重んじて検閲をしないSNSが勢いを増せばどうなるだろうか。中国の防火長城(グレートファイアーウォール)のように問題あるSNSをまるごと遮断(しゃだん)する取り組みが米国などでも進むのか、あるいはほかのIT企業が一致団結して排除に出るのか。今後の動向が関心を呼ぶところだ。