腕時計型のサブウーファー「Basslet」

10年ほど前、米国の雑誌で、ニューヨークの街角で実施されたアンケート調査を読んだ記憶がある。1970年代に使われたオーディオセット、いわゆる“ステレオ”の写真を10代の若者に見せ、それが何かを当てさせるというものだ。調査対象者の多くは“ステレオ”が音楽を聴くための装置とは理解できず、中には「部屋の中で音楽を聴く?そんな時代があったの?」と驚いたものさえいた。

20世紀のステレオセット
70年代のオーディオデバイス
これが“ステレオ”とか“ハイファイセット”と呼ばれていたことを知っている人は
おそらくは、40歳以上だ

当時はiPod、特に2005年に発売されたiPod nanoが全盛期を迎えており、音楽を聴く場所は部屋の中ではなく、街中や電車の中だった。

第一世代iPod nano
ゼロ年代のオーディオデバイス「iPod nano」
若い人はタッチパネルでないことや、
ネットに接続できないことに驚くかも?

あのアンケートから10年が経ち、音楽を聴く場所はライブハウスや野外のフェスティバル会場へと移った。音楽の楽しみ方が、パッケージ化された商品を一人で聴くという形態から、生演奏を友だちと“ライブ体験”するものへと変わったためだ。そして、音楽ファイルのダウンロードやストリーミングなどのサービスは、自分好みのアーチストを探すための、かつてのラジオのようなサービスへとその役割を変えていった。

音楽を聴く場所はライブハウスや野外のフェスティバル会場へと
ライブで音楽を楽しむ
ある意味、これが本来の楽しみ方?

とはいえ、生の演奏を聴く機会はそれほど多いものではない。ライブを追体験するという意味での音楽ファイルなどの聴取は、今もそれなりに大きな役割を持っている。だがそのとき、“ライブ体験”世代の多くは重低音不足を寂しく感じるそうだ。ライブ会場で使われる大型スピーカーから響く重低音は、ヘッドフォンでは再現できない。

ライブ会場で使われるスピーカー
“ライブ体験”世代は、重低音が好み

「Basslet」は、“ライブ体験”世代向けの腕時計型サブウーファー。ヘッドフォンでは再現できない重低音を、腕へのバイブレーションで表現。ライブに行けない寂しさを紛らわせてくれる。

腕時計型のサブウーファー「Basslet」
“ライブ体験”世代向けの腕時計型サブウーファー 「Basslet」
これが、2010年代のオーディオデバイス?

わずか34グラムの軽量ボディに組み込まれたシステムは、10-250Hzの重低音を、本物のサブウーファーとは少し違う形で“再現”。バスドラの打音やベースラインが生みだすグルーブ感など、ヘッドフォンでは味わえない音楽体験を、新しい別の形で届けてくれる。

10-250Hzの重低音を再現する「Basslet」
10-250Hzの重低音を、腕へのバイブレーションで表現
こんな小さなボディで

ライブ会場で使われるスピーカー
音楽に命を吹き込む、ベースラインを再現する

開発したのはドイツに本拠を置くLofelt。同社創業者でありCEOのDaniel Buttner氏は、「Basslet」が目指しているのは、コンサートやクラブで感じられる音楽のインパクトやエネルギーを日常生活に持ち込むことだとしている。

ライブ会場風景
「Basslet」は、コンサートやクラブで感じられる音楽のインパクトやエネルギーを

「Basslet」ユースケース
日常生活に持ち込む

使用するには、 音楽プレイヤーなどの3.5ミリステレオミニジャックに「Basslet」付属のトランスミッターのプラグを差し込む。ヘッドフォンのプラグはトランスミッターのジャックに接続する。続いて「Basslet」を腕にはめて音楽を再生すれば、ヘッドフォンから流れる音楽に加え、「Basslet」からのバイブレーションが腕に(身体に?)響くという仕組みだ。

「Basslet」使用方法

使い方は様々。行き帰りの通勤で使えば、前夜のライブの興奮を仕事を始める直前まで保てるかもしれない。部屋のテレビで映画を見る時にヘッドフォンと組み合わせて使用すれば、隣の部屋の人に迷惑をかけずに、迫力のあるサウンドで映画を楽しめる。飛行機の機内などの退屈な空間も、気分だけはライブ会場に変えてしまうことができるだろう。その他、ゲームなどの音響も、よりリアルなものになるはずだ。

「Basslet」使用例:飛行機の機内
退屈な飛行機の機内も
気分だけはライブ会場に

充電式のバッテリーを内蔵。1時間の充電で最大6時間使用できる。

「Basslet」パッケージ同梱物
充電はUSBケーブルで

Lofeltは現在、クラウドファンディングサイトkickstarterで出資者募集のキャンペーンを実施中。すでに目標を上回る金額の調達に成功し、「Basslet」の製品化を決めている。本稿執筆時点では、129ユーロの出資で「Basslet」を1個入手可能だ。キャンペーン終了後の市販価格は195ユーロ程度になる見込み。出荷は2016年12月に予定されている。

「Basslet」フロント&リアビュー

それにしても、時代の変化のスピードは速い。20年前、電車の中では多くの人が雑誌や新聞を広げていた。10年前には音楽プレイヤーのヘッドフォンを耳に装着している人が目についた。だが現在は多くの人が電車の中でスマートフォンを手にし、ゲームなどに興じている。

10年後には、電車内でどのような光景が見られるのだろうか?そして、人々が音楽を聴くスタイルは、どのように変化しているのだろうか?

「Basslet」ユースケース